【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
65 / 151
剣聖の娘、裏組織と戦う!

朝のあれこれ

しおりを挟む


 朝から思いもよらないハプニングがあったが、エステルは特に気にしていない。
 うら若き乙女としてそれはどうなのだろうか……

 だが、アルドとしては嫌われずに済んだので良かったのかもしれない。
 彼自身は男として微妙な気持ちだったかも知れないが。


 そして、アルドが出て行って暫くしてから、エステルの世話をするためクレハがやって来た。
 

「おはようございます、エステル様」

「あ、おはよ~ございます、クレハさん!」

 朝の挨拶を交わす二人だが……
 クレハがエステルの首筋あたりに視線を向けると、彼女の顔が少しだけ赤くなる。


「どうしたんですか?」

「あ、いえ……何でもございません」

「?」

 クレハの様子を不審に思ったエステルは、首を傾げて疑問を口にしたが、クレハは言葉を濁して誤魔化す。

 彼女は、昨夜アルドがエステルの寝室にやって来たことを知っている。
 朝早くに帰っていったことも。
 そして、エステルの首筋には赤い跡が残っていて……
 それを見たクレハは、昨日ここで何が行われていたのかを想像してしまったのだ。


(……エルネア王国は安泰ですね)

 クレハの誤解はもう解けることはないだろう……










 同じ頃……
 アルドは昨晩の遅れを取り戻すために、早々に執務室で仕事を始めていた。

 そして、いつも通り宰相フレイもやって来る。


「陛下……エステル嬢に手を「出してない」……そうですか」

 フレイがそう言うのを予想していたアルドは、即座に否定する。


「……と言うか。お前に情報が伝わるの早すぎやしないか?」

「何をおっしゃいますか。情報は鮮度が命ですよ?文官の長たる私にとって、情報こそが生命線なのです」

「……俺のプライバシーも考慮してくれ」

 今回も、クレハ→ドリス→フレイのホットラインなのは想像に難くない。


「しかし、一晩を共に過ごして何も無いとは……ヘタレですね(自制心が強いですね)」

「本音と建前が逆になってるぞ!?」

 王の腹心は付き合いも長いので、なかなか遠慮がない。
 王を相手にしても言うべき事は言うフレイを、だからこそアルドは信頼しているとも言えるのだが。


「まあ冗談はさておき」

「冗談で済ますなよ……」

「騎士団から例の作戦の計画書を預かったのでお持しました」

 そう言ってフレイはバサバサと紙の束を執務机に置く。


「何だ、ディセフが持ってくるかと思ったが」

「昨晩は陛下がよろしくやっていて不在だったので、私のところに持ってきたんですよ。彼は今日、各方面との調整で手が離せないので渡しておいてくれ、と」

「言葉に棘があるぞ。不可抗力だったんだから仕方ないだろう。身動きも出来ず、むしろ生殺しだったんだからな」

「……何があったのかは聞かないでおきます」

 どうやらフレイは、アルドが仕事を放り出してエステルの所に行って帰ってこなかった事にご立腹だったようだ。
 だが、アルドの疲れ切った表情を見て少しだけ同情の目を向けた。


「憐れみの目で見るのはやめろ……。それよりも、だ。ディセフは他に何か言ってなかったか?」

「そうでした。本日、二名の騎士を新たに叙任してほしい……との事でした。先日の登用試験で既に内定が決まってる者なのですが、今回の作戦の戦力増強のため前倒しで入団させたい……とか。確か、そのうちの一人はエステル嬢の同郷の者ですね」

「あぁ、クレイか。あいつも相当な手練れだから戦力として大いに期待できる……どころか、主戦力でも良いくらいだ」


 アルドはディセフに誘われて、こっそりと登用試験の模擬戦を見学している。
 数日前にゴロツキどもと戦った姿を見て、クレイが相当な実力の持ち主であることは分かっていたが、模擬戦のギデオンとの戦いでそれは確信に至っている。
 エステルには及ばないものの、突き抜けた力を持った強者である……と。


「とにかく、略式でも叙任ともなれば俺が立ち会わねばならないからな。時間になったら教えてくれ」

「はい、お願いします」


 一通りやりとりを済ますと、フレイは執務室を出て行き、アルドは作戦計画書を確認し始めた。


(……作戦の決行日、つまり、エステルが囮として潜入を開始するのが明日の夜。オークションの開催日と目されている日は三日後……やはり、気が進まんな)


 国王として正しい判断をしたはずだが……
 一晩中その腕の中に抱いた愛しい少女の柔らかな感触と体温、甘やかな匂いを思い出し、アルドの心の中に後悔の念が沸き起こる。
 しかし、それを責めるのは酷というものだろう。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...