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剣聖と聖女の帰還
虚無の瞳の王
しおりを挟むエドナから語られたリアーナの人物像を聞いたレジーナ。
義母のミラから母の事は聞いていたが、より身近な肉親から話を聞かされたことで、彼女の亡き母親に対する思慕は一層と募る。
「私の母は、優しい人だったんですね……」
寂しそうでもあり、嬉しそうでもある……そんな笑顔を彼女は浮かべる。
そして、その血が自分に流れている事に誇らしさを感じた。
「ええ……姉さんは本当に優しい人だったわ。でも、私は……もっと自分を大切にしてほしかった」
誰かのために献身的になれるのは美徳かもしれない。
しかし身内からしてみれば、自分の身を犠牲にしてまで他人に尽くすというのは受け入れがたいことでもあるだろう。
悲しげに目を伏せて言うエドナの肩を、慰めるようにジスタルが抱き寄せた。
「ありがとう。……とにかく。私は後宮で姉さんに再会することはできたのだけど、姉さん自身の意思もあって、すぐに連れ出すことはできなかった」
そして彼女の話は、いよいよ事件の核心に迫っていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
リアーナから国王バルドの事情を聞いたエドナ。
そして、姉が心を病んだ王を見捨てることができずに後宮に留まるつもりであることを聞いた彼女は、しかし何とか姉を説得しようと考える。
しかし、いくら境遇に同情したからといって……姉が慈愛と献身の精神を持っているのだとしても、やはりそこまでするものだろうか?
……と、そこまで考えたとき、彼女は一つの可能性に至った。
「もしかして姉さん……バルド王の事を好きになっちゃったの?」
「え……?」
唐突な妹の言葉を、姉は咄嗟に理解することができなかった。
しかし、問われた内容を理解したリアーナは、顔を赤らめて俯いた。
「え?本当に……?」
自分で質問しておいて、エドナは姉の態度に驚いて目を丸くする。
しかし姉は慌てて手を振りながら否定しようとする。
「ち、違うの!す、好きになったとかじゃなくて……ただ、その……バルド様とは……あの……」
しどろもどろになる姉の態度を最初は訝る妹であったが……
(あ……そうか、姉さんは既にバルド王と会っている。そして、ここは後宮……と言うことは……)
と、エドナもそこまで想像してしまい顔を赤くする。
そして妹が気付いたことに気付いたリアーナも、ますます顔を赤くして……二人はしばらく黙り込んでしまった。
ちらちらと姉の様子を見るエドナ。
そこに悲しみや嫌悪の感情が見られない事に、少しだけほっとする。
であれば、聞かずにはいられない。
少し落ち着いた頃合いを見計らって、エドナは姉に問いかけた。
「その……嫌じゃなかったの?」
「…………もちろん、最初は嫌だったし、悲しかった。怖かったわ。でも……あの人の目を見たとき、何だか不思議な気持ちになったの。言葉で説明するのは難しいのだけど……」
「…………」
「……そうね。確かに、私はあの人に惹かれたのかもしれない」
「姉さん……」
エドナは、どんな顔をすればよいのか分からなかった。
もし姉が悲しんで傷ついていたのなら、彼女は無理矢理にでも姉を連れ出していただろう。
しかし、姉自身がバルド王の側にいることを望んでいるのであれば……
いったい自分はどうすべきなのか?
そんな迷いが生じていた。
と、その時だった。
不意に、部屋の入口の方から扉が開かれる音が聞こえてきた。
そして誰かが部屋の中に入ってきたのを察知して、エドナは身をすくめる。
現れたのは、二十代後半~三十代半ばくらいに見える男性。
細身ながらがっしりと鍛えられた身体を纏う豪華な衣装を見るまでもなく、エドナは彼が誰であるのか分かった。
(この人が……バルド王?なんて冷たい目をしてるの……)
まるで深淵を覗き込むような深く青い瞳に彼女は呑まれそうになり、身体を強張らせる。
「……誰だ?お前は?」
瞳の色と同じくらい冷たい声で、王は誰何の言葉を彼女に投げかけた。
しかしエドナは身体を硬くしたまま、王の問いに応えられない。
いったい姉はこの冷たい瞳に何を感じ取ったのか。
彼のどこに惹かれたというのか。
エドナは理解が及ばなかった。
「バルド様、この子は私の妹で……エドナと言います。今日ここに来たばかりで……」
黙り込んでしまったエドナに代わり、リアーナがフォローする。
王は彼女を一瞥したものの、すぐに視線をエドナに戻す。
そして。
「妹か。確かに、よく似ている。……ならば、今宵の相手はお前にしてもらおうか」
「っ!?」
王のその言葉に、エドナは驚愕で目を見開き、恐怖でカタカタと震えだす。
バルドの目に劣情の色はみられないが……むしろそれが彼女の恐怖を煽るのだ。
「陛下……妹はさっきここに来たばかりです。どうか今日のところはご容赦いただけないでしょうか?それに今日は……わ、私を訪ねてきて下さったのでは?」
自分を助けようとしてやって来ただけなら、そういう事は望んでいないはず。
リアーナはそう思って妹を庇う。
そして、まるで自ら王を誘うような言葉に羞恥を覚えながらも、はっきりとそれを告げた。
「……まあ、いいだろう」
「あっ……」
バルド王は思いのほかあっさりと引き下がり、腕を伸ばしてリアーナを抱き寄せると、彼女は思わず声を上げて身を固くする。
「ね、姉さん……!」
それまで王の雰囲気に呑まれていたエドナだったが、流石にそれを見て姉に手を伸ばそうとした。
しかしリアーナはそれを手で制して言った。
「エドナ、私は大丈夫だから。あなたはもう部屋に戻って休みなさい……」
「で、でも……!」
少しでも姉が嫌がる素振りを見せたのなら、彼女は制止など無視して王に飛びかかっていたかもしれない。
「大丈夫よ。さっきも言った通り、嫌ではないから……」
それが妹を安心させるための方便であったのなら、エドナはやはり二人を引き離そうとしただろう。
しかし、長年一緒にいた姉の言葉に嘘がないことが分かるから、彼女はそれ以上動くことができず……
結局は、二人を部屋に残して立ち去ることしかできなかった。
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