119 / 151
剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
急転直下
しおりを挟むジスタルとエドナが王都に到着し、レジーナに過去の話を聞かせていたころ。
神殿の地下で囚われの身となっているエステルは、相変わらず暇を持て余していた。
「う~、ひま~……なんか暇すぎて何ヶ月も経った感じがする~」
それは全くもって彼女の気のせいである。
作戦を開始してからまだ数日も経ってないのだから。
ともかく。
彼女はその場でできる自己鍛錬くらいしかやることがなく、少しずつ鬱憤が溜まってきていた。
時折アルドと会話する事で気が紛れるのが唯一の救いか。
だが。
一気に事態が動き出す……その時が近いことを、彼女はまだ知らなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エステルの両親が王都に来ているらしい事を知ったアルドは、どうやってエステルの後宮入りと潜入捜査のことを説明しようか……と、執務室で頭を悩ませていた。
特に後宮入りに関しては、かつての『事件』の事もあって良い感情は持たれないと思われる。
最終的にはエステルとの仲を認めてもらいたい彼としては、両親の心象というのは非常に重要だろう。
せめて今回の事件を解決して、エステルが自分の側にいれば説明もしやすかったのだが……と、彼はタイミングの悪さを嘆きたくもなる。
そんなふうに彼が頭を抱えていると、執務室の扉がノックされた。
「入れ」
「失礼します」
やって来たのはディセフだった。
捜査協力のため神殿に赴いていたはずの彼がここに来たということは……
「何か捜査に進展があったのか?」
「はい、実は…………」
まるで誰かに聞かれるのを警戒するように、ディセフは声を落として報告する。
「……ふむ……ほう…………なに!?……それは確かなのか?」
「はい。ここに来る前に証言記録をフレイに聞かせました。『嘘は無い』と」
「そうか、でかしたぞ!よし、その情報をもとに作戦を練り直すぞ。ディセフ、今から騎士団員を呼集して……」
ディセフがもたらした情報にアルドは歓喜し、より具体的な作戦を立てるために騎士団重鎮たちの招集を命じようとした。
しかしその言葉は途中で止まる。
なぜなら、ちょうどそのタイミングでエステルからの『念話』が届いたからだ。
その声はこれまでののんびりしたものと異なり、緊迫したものだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
特に動きもなく、退屈を通り越して僅かに苛立ちさえ覚え始めていたエステル。
……彼女の辞書にある『忍耐』という文字は、やや掠れ気味である。
しかし、そんな彼女にとっての朗報……という訳では無いが、少なくとも退屈な時間は突如として終わりを告げこととなった。
攫われた少女たちが監禁されている大部屋に、新たな来訪者たちが現れたのである。
彼らは、エステルが個別に呼び出された部屋で相対した者たちと同じように、やはり全員が白い仮面を被っていた。
異様な集団の登場に少女たちは恐怖を覚え、緊張で身体が強張る。
普段は緊張感の欠片もないエステルでさえも、流石に真剣な表情になって身構えた。
そして、その一団の中の一人が告げる。
「これからお前たちをオークション会場に連れていく。お前たちは大事な商品ではあるが、少しでも抵抗するようなら……あとは分かるな?」
抑揚のない淡々とした言葉は、むしろ少女たちの恐怖感を煽るものだ。
もちろん、どのような目にあわされるのかは容易に想像がつくだろう。
エステルが来てから少し和んでいた空気は一瞬のうちに再び悲壮感漂うものとなり、少女たちはいよいよ終わりの時がやって来たことを悟る。
「エステルちゃん……」
「大丈夫……大丈夫だよ」
すがるようなクララの声に、エステルは安心させるように微笑みながら言う。
そして、いよいよ事態が動き出したことを伝えるため、彼女はアルドに念話を飛ばすのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『へ~か!!』
『エステル、どうした!?』
突然のエステルからの念話にアルドは腰を浮かせかけながら応答する。
これまでにない緊迫した声からすれば、何か起こったことは間違いないと彼は瞬時に悟る。
『場所を移動します!!捕らえられている全員がです!!オークション会場に連れてくって!!』
『なにっ!?もう動いたのか!?』
ディセフからもたらされた情報をもとに、これから作戦を練り直そうとした矢先の出来事だ。
事前情報から予想していたオークション開催の日よりもかなり早く起こった事態に、普段は冷静沈着なアルドも焦りの表情を見せる。
しかしそれもほんの一瞬の事だ。
かれは直ぐに落ち着き、ディセフに指示を出す。
「ディセフ、緊急招集だ。奴らが動いた」
「!!はっ!!」
主の短い命令にディセフは余計な問答は差し挟まずに応答し、足早に執務室を出ていった。
それからアルドもエステルとの念話を継続させて情報収集に努めながら、頭の中でこれからの行動方針を整理していく。
こうして、人身売買組織壊滅作戦は新たな局面を迎えるのだった。
90
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる