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剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
謎の男
しおりを挟む竜人の姿から人間に戻った裏組織幹部と思われる男は『癒しの奇跡』によって何とか一命を取り留めた。
しかし治療にあたったエステルは、何故か首を傾げる。
「どうしたんだ?」
様子を訝しんだアルドが問いかけると、エステルは戸惑いながら答えた。
「いえ、それが……一応、命に別状が無いくらいには回復したとは思うんですけど……いつもより治りが良くなくて。これ以上は私の力じゃ治らないみたいなんです」
彼女の疑問は、つまりはそういう事だった。
エステルは聖女としても稀有な力の持ち主であり、彼女の癒しの力は普通の聖女のそれよりも非常に強力なものである。
例え瀕死の重傷であっても完治させるほどに。
母エドナもそうだったので、血筋なのかもしれない。
しかし、そんな彼女の力であっても男の傷は完全には癒せなかったのである。
彼女が言った通り、直ちに命の危険が無いくらいには回復したのではあるが。
「お前の力でも治せないなんて……そんな事があるのか」
「ふむ……もしかして『竜人』となった事と関連があるのかもしれんな」
「確かにその可能性はあるかも。普通の人とは違って、何かこう……拒否されるような感じがしました」
今まで見たことがない光景にクレイは驚き、アルドは男が特異な存在である事が原因ではないか……と推測した。
そしてエステルも、治療を施す時に感じた違和感を口にした。
ともかく、推論だけでは答えは出ない。
男が目を覚ましたら話を聞かなければ……と思った矢先。
「……あ、目を覚ましたみたいです!」
見れば、地面に横たわっていた男は僅かに身動ぎしてから、うめき声を上げてうっすらと目を開くところだった。
彼のぼんやりとして視線は中空を彷徨っていたが、段々と目に光が戻ってくる。
そして。
「う…………なぜ……俺は生きている……?なぜ、人間に戻ってるんだ……?」
意識を取り戻した彼は力なく呟く。
その言葉は自分の現状に戸惑うものだった。
どうやら自身が竜人と化したことは覚えているが、もとの姿に戻っている事が理解できないようだ。
「お前が今も生きていられるのは、彼女が『癒しの奇跡』で治してくれたからだ。完治させることはできなかったらしいが。まあ、それでも礼は言う事だな」
「聖女の……そうか……」
自分が生きている理由を聞かされた男は納得するが、その事に対して礼を言うことはなかった。
アルドもそれは期待していたわけではないので特に気にはせずに、別の問いかけをする。
「名は何という?」
「……アロンだ」
それも期待した問ではなかったのだが、意外にも答えが返ってきたことにアルドは驚いた。
だが彼は直ぐに気を取り直して更に質問を続け、エステルたちはそのやりとりを黙って見守る。
「お前のあの姿は何だったんだ?人間があのような異形になるなど、聞いたことがない」
「…………」
今度は沈黙を貫くアロン。
どうやら、観念して全てを話す気になったというわけではないらしい。
「……今度はだんまりか。まあ、いい。戦闘前とさっきの口ぶりからすれば、もとの姿に戻ることを想定してなかったようだが……なぜ戻ることができたのか、分かるか?」
「…………」
やはり沈黙をもって応えるアロン。
しかし、その視線はエステルの方を向く。
「ほぇ?」
「……ふむ、なるほど。聖女の力が何らかの作用を及ぼしたのではないか……そう考えてるのだな」
視線の意味をそう解釈したアルド。
アロンはそれを肯定しないが、否定もしなかった。
「では別の質問だ。『あの方』……とは、組織の首領の事か?もしそうなら、ソイツは今どうしている?」
無言、無表情を貫いていたアロンだったが、その問いには僅かに顔をしかめる。
しかしやはり何も喋らない。
王の問いに対する度重なる黙秘に周りを囲っていた騎士たちが色めき立つが、アルドはあくまでも冷静に騎士たちを制す。
「詳しいことは王城に戻って治療を施してから取り調べを行う。だが、最後にもう一つ。お前は……大神官補佐、モーゼスの血縁者か?」
最初に彼が仮面を外したとき、その素顔があまりにもモーゼスと似ていたため、彼と面識のあるアルドやエステルたちは大いに驚いたものだ。
当然、彼らは血縁者と思われたのだが……
その質問をされたアロンは、それまでの無表情ぶりが嘘のように顔をゆがめる。
そこにあるのは、怒り、憎しみ、哀しみ……様々な負の感情だ。
だが、その中に肉親に対する思慕の念が含まれていたことは、その場の誰にも分からなかっただろう。
そして彼は狂気すら感じさせる笑みを浮かべて叫ぶ。
「大神官補佐……だと?そうか!!あいつは上手いことやったというわけか!!はははっ!!俺はこんな惨めな有様だと言うのにな!!」
そのあまりの変貌ぶりに、アルドは……いや、他の誰もが呆然となるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ある人物の後をつけていたレジーナは、彼に声をかけるべきか悩んでいた。
しかし、事件と関連する何かがある……彼女はその直感に従い、結局はそのまま後を追って王都郊外へとやって来た。
(本当に、いったいどこまで行くのかしら……モーゼスさん)
彼女が追っていた人物……それは大神官補佐モーゼスであった。
果たして、彼の行動が意味するのは何なのか……?
事件の全容は未だ謎に包まれていた。
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