143 / 151
剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
剣聖の娘は竜殺しを成し遂げる
しおりを挟む『グルァーーーッッ!!!』
竜が怒りの咆哮を上げる。
たかが人間ごときに、天から地に叩き落された。
たかが人間ごときに、地上最強種族が一瞬でも恐れを抱いた。
そのあり得ない事実に、竜は怒り狂う。
それは人間にとって天災に等しいものだ。
力ある竜が怒りに任せて荒れ狂えば、力なき人間たちなど成すすべもなく蹂躙される……はずだった。
しかし、その場にいる誰もが希望を失っていなかった。
彼らの表情は、無謀な戦いに挑む者のそれではない。
竜の吐息が放たれたとき、皆が一度は死を覚悟した。
しかし今は、むしろ勝利を確信している。
なぜならば……彼らは希望の光を目の当たりにしていたから。
「はぁーーーっっ!!!」
竜を地上に引きずり落とした張本人……女神によって持てる力の全てを解放されたエステルが、黄金のオーラを纏いながら竜に肉薄する。
そして巨大な竜の背を軽々と跳び超え、渾身の一太刀を浴びせた。
『グガァーーッッ!!??』
彼女の斬撃はやすやすと硬い鱗を切り裂いて血飛沫が舞い、竜は苦痛の叫びを上げた。
まだ致命傷を与えたとは言い難いものの、初めてまともなダメージが入ったのである。
「通った……!!竜の意識を少しでも散らせ!!エステルが攻撃に集中できるようにフォローしろ!!」
アルドの指示が下され、戦闘陣形が変わる。
アルド、クレイ、ディラック、ジスタル、バルドらは竜の周りを取り囲み、少しでも竜の意識を分散させるように立ち回る。
他の騎士たちは、王城や神殿から駆けつけた者たちも含めて弓や魔法による遠距離攻撃を始める。
竜にとって、それらは針で刺される程度のものだったが……間断なく浴びせ続けられれば、最も危険な人物一人だけに意識を向け続けることも出来ない。
こうして完全に竜包囲網が敷かれ、エステルの攻撃を中心に少しずつダメージを与えていく。
しかし事態は好転したものの、竜の脅威は変わらず油断できる状況ではない。
実際、エステルは早期決着をつけるべく首の切断を狙っているが、敵も流石にそうやすやすとそれはさせてくれなかった。
その一方で、竜は鬱陶しく纏わりつく人間たちによって注意力を分散させられながらも、何とかエステルを止めようとしていた。
だが、脚で踏み潰そうとしても躱され、鋭い爪で切り裂こうとしても大剣に弾かれ……逆に反撃によるダメージがじわじわと蓄積していく。
『グォーーーッッッ!!!』
ついに焦れた竜は、身体を大きく捻りながら尻尾で他の人間もろともエステルを薙ぎ払おうとするが……
「はぁーーっっ!!!」
彼女が裂帛の気合をもって闘気を纏った大剣を迫りくる竜尾に向かって一閃させると、大木ほどの太さがあるそれを切り落としてしまった。
しかし竜は苦悶の叫びを上げることもなく、攻撃直後のエステルに頭を向けた。
どうやら尾の攻撃は彼女に隙を作るための囮だったらしく、大きく開かれた顎に光が集まる。
威力よりも速度優先でブレスを放とうとしているのだ。
ほんの一瞬でチャージを終え、今まさに光が溢れ出そうとしたその時……
「させるかよっ!!オラァッッ!!!」
エステルを狙って頭を下げていたところに向かって、横合いから飛び出したディラックが豪快に蹴り上げた。
それによってブレスの射線が大きく外れ、天に向かって一筋の光が昇っていった。
「エステル!!」
「今だ!!」
「やれっ!!」
アルド、クレイ、ジスタルの叫びが重なった。
「うんっ!!いくよっ!!ゴールデンエステル・屠殺竜斬剣っ!!」
逆に大きな隙が生じた竜に向かって、エステルは酷い技名を叫びながら大剣を振り下ろした。
初撃では堅牢な鱗に阻まれたが、今の潜在能力が極限まで解放された彼女の一撃はやすやすと鱗を切り裂き、それよりも更に硬い骨をも断ち切って……
ついには竜の首を完全に斬り落としてしまった。
そして竜の身体は力を失い、大きな地響きをたてて地面に倒れる。
強大な敵がついに倒れ、命がけの死闘に幕が降りた。
しかしその場の誰もが直ぐにはそれを実感できず、しばし静寂が落ちる。
ただ一人、竜殺しを成した当人は倒れた竜に歩み寄り……奪った生命を悼むように目を閉じる。
そして。
「キミの生命は無駄にしないよ。ちゃんと美味しく頂くから。……私たちの勝ちだよ!!」
その生命を糧とすることに感謝しながら、エステルは大剣を高々と空に掲げ勝利を宣言するのだった。
98
あなたにおすすめの小説
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる