142 / 151
剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
女神
しおりを挟む………………
…………
……
「…………え?」
誰かの小さな呟きが、静寂の中ではやけに大きく聞こえた。
上位竜をも超えるであろう巨大な竜から放たれた竜の吐息。
それは人間が受け止めるにはあまりにも過剰な攻撃で……その場で戦いに臨んでいた多くの者は死を覚悟した。
そして実際に、目を焼くような眩い光と耳をつんざく轟音によって、己に最期の瞬間が訪れた事を確信したのだ。
しかし、彼らはまだ生きていた。
それどころか傷一つすら負っていない。
それは何故なのか?
その答えは……
「……光の……結界?」
アルドは破滅の光が自分に襲いかかろうとする瞬間、最後まで竜から目を逸らすことはなかった。
だから彼は自分たちがなぜ助かったのか、その理由が分かった。
天を仰ぐ彼の視線の先には……黄金に輝く光のドームが戦場を覆い尽くしていた。
それが彼らを護ってくれたのは間違いない。
しかし、竜のブレスを完全に防ぐような結界魔法など……たかが人間の魔道士程度が作り出せるものなのか。
自身も多少なりとも魔法を扱うが故に、アルドはその光の結界が常軌を逸するほど高度な魔法であると理解した。
そして、その光のドームを支えるように、地上からは光の柱が立ち昇っている。
それを発していたのは……
「「エステルっ!?」」
全身が黄金に輝くエステルを見たアルドやジスタル、エドナ、クレイの声が重なった。
そして彼女は……普段では見られない、感情が抜け落ちたような表情で空を見上げている。
その雰囲気は静謐で、その美貌も相まってどこか神秘的なものを感じさせた。
『全く……何やら騒がしいと思えば。【器】に足るこの娘がおらねば、ここら一帯消し飛んでおったぞ』
その声は確かにエステルのもの。
しかし彼女を知る者からすれば、それが別人であることは明白だった。
「エステル……じゃない。誰……?」
エドナは、娘の身にいったい何が起きたのか分からずに呆然と呟く。
他の者たちは声すら出ないほどに驚き戸惑っていた。
『ふむ……』
エドナの問いには応えず、エステルの姿をした何者かは自分の身体を確かめるように手を握ったり開いたりしている。
『急なことだったゆえ半ば無理やり身体を拝借したが……長くは入ってられそうもないな。資質はあるが、まだまだこれから……ということか』
「身体を借りた……?まさか……」
アルドはそのセリフで、彼女がいったい何者なのか……朧げながらその正体に思い至る。
いま彼らがいる場所は、エル=ノイア神殿が聖域と定める領域。
そして自分たちを救ってくれたのは、人間業とは思えないほどの超高度な結界魔法。
ならば彼女は……と、アルドは思いながらも、その可能性を完全に信じることが出来ない。
それはあまりにも荒唐無稽であると感じたから。
しかし事実として、いま目の前に彼女はいるのだ。
『人間たちよ……わが子らよ。最後まで手助けしてやりたいところだが……これ以上は、この【器】の娘が耐えられまい。だが、あと少しだけ力を貸してやるから、あとは自分たちで何とかせよ』
彼女はそう言って目を閉じ、次に開いた時には神秘的な雰囲気は霧散していた。
「……?あ、あれ?私……?」
エステルの口から戸惑いの声が漏れる。
その様子から、どうやら普段の彼女に戻ったことがうかがえた。
(【器】の娘よ……エステルと言ったか)
「……ほぇ?だれ?」
直接頭の中に語りかけてくる声に戸惑うエステル。
念話には慣れていたのでそれほど驚きはないが、彼女の知らない声であった。
(我が名はエル=ノイア。皆を護るため、先ほどまでお前の身体を借りていた者だ)
「エル=ノイアって……え?女神様……?」
自分の住む国の王の名も知らなかった彼女だが、流石に女神の名前くらいは知っている。
野良でも聖女なのだから当然だろう。
「身体を借りていた??私の??」
自分が意識を奪われていたことすら分かっていなかった彼女は頭に疑問符を浮かべる。
(そのあたりの事は後で他の者に聞くがよい。今は彼奴も警戒して動きを止めているようだが、次にブレスが放てるようになるまでの時間は限られてる。だから手短に。今のお前は潜在能力が極限まで解放されている状態だ。古竜の堅牢な鱗とて容易に貫けよう)
「確かに……何だか凄く力が溢れてる感じがするかも」
特に意識を集中せずとも、常にない力の波動が身体の奥底から漲るのを彼女は感じていた。
(今はそれも一時的なものに過ぎぬ。だが日々の精進を欠かさねば、いずれはその領域までたどり着くことも出来よう。これからも励むといい)
「はい!」
日々の鍛錬が重要であることはエステルもよく分かっているし、それこそ望むところである。
(うむ。では、頑張るのだぞ、【器】の……いや、【太陽の娘】。我はまた眠りにつくが、我が子らの安寧を心より願っている)
「はい!!頑張ります!」
姿は見えないものの、エステルは優しく微笑んでくれたような雰囲気を感じ取る。
そして、それきり声は聞こえなくなった。
エステルが上空を見上げると、竜は未だ警戒しながらこちらを見下ろしている。
「よし……今度こそ!」
彼女は大剣を両手で持ち、身体を捻るようにして構える。
それから一気に空を薙ぎ払い、蓄えた力を解放した。
「堕ちろぉーーっ!!!」
闘気の光を纏った斬撃が空を引き裂きながら、はるか上空の竜まで一気に迫る。
『グルァーーーッッ!!??』
エステルの攻撃が見事に片翼を貫き、竜が苦悶の声を上げた。
竜の巨体が空を飛べる最大の理由は竜種固有の魔法によるもの。
翼そのものは浮遊のためではなく、あくまでも飛行補助で使うものに過ぎない。
それでも片方の翼を失えばバランスを崩してしまい、飛行継続が困難になるだろう。
シモン村で行われる竜狩りでも、まずは翼を封じるのが鉄則だったりする。
その狙いは間違っていなかったようで、片翼を失った竜は不規則な軌道を描きながら墜落してきた。
そして地響きと土煙を巻き起こしながら地面に堕ちた竜であるが、それくらいでは大きなダメージは受けておらず未だ健在だった。
「さあ皆!!今度こそ倒すよ!!王都を守るために!!!」
「「「おおーーーっっ!!!」」」
高々と大剣を掲げたエステルが叫ぶと、鼓舞された騎士たちが呼応して一気に士気が上がった。
竜との戦いはいよいよ大詰めを迎えようとしていた。
106
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる