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剣聖の娘、裏組織を叩き潰す!
凱旋
しおりを挟む王自らが率いる騎士団がもうすぐ王都に凱旋するという報せが届くと、大勢の民たちから大きな歓声が上がった。
突如として巨大な竜が王都郊外に出現したとき……
騎士団が迅速に動いたため辛うじて大パニックにまで至る事は無かったものの、民の間には不安と恐怖が広がっていた。
しかし、竜が討伐されたと言う一報が先触れの騎士によってもたらされると、一転して王都中が歓喜に包まれる。
そして王都の民たちは英雄たちを称えようと、門前広場や王城に至る街路に大挙して押し寄せた。
そんな熱気渦巻く中……王都に残って指揮に当たっていたディセフは、何とか民衆の混乱を押さえるべく配下の騎士たちとともに奮闘していた。
「もうすぐ陛下が戻られるぞ!!何とか道を空けさせろ!!」
とにかく、アルドが大勢の民衆に囲まれ危険にさらされるのは避けなければならない。
既に騎士団員は非番の者も呼集してるが、それだけでは足りずに王城の文官まで駆り出して……どうにか凱旋ルートの整理をしていくのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そしてついに英雄たちが凱旋すると、王都中を揺るがすほどの歓声が上がった。
先頭を行くのは騎士団長のディラック。
彼の顔は王都民たちにも良く知られており、その名を呼ぶ者も多い。
そして配下の騎士たちが続き、彼らに護られるようにして国王アルドが姿を現すと、民衆の熱気は最大限に高まる。
しかし、王が横抱きにした赤髪の少女の存在を彼らが認めると……驚きと戸惑い、疑問を囁き合う声がちらほらと聞こえてきた。
(なぁ、あの娘……誰だ?凄え可愛いけど……)
(分かんないけど……陛下が自ら運んでるってことは、お妃様とか?)
(そんな話、聞いたことが無いわ。婚約者様とかじゃない?)
(そうかも?……でも、何でそんな方が?)
……そんなふうに、謎の少女の噂は瞬く間に広がっていき、様々な憶測が飛び交う事になった。
一番多い予想としては、彼女はアルド王の婚約者だ……というもの。
しかし、そんな人物がなぜ危険な竜討伐に同行してるのか?という疑問が生じる。
次いで多かったのが、たまたま現場に居合わせた少女を救い出し、その美貌から王が一目惚れしたというもの。
一目惚れという点については、あながち間違ってはいないかもしれない。
何れにしても、王が自らが大切そうに抱いて運ぶ少女なのだから、特別な関係には違いないだろう……というのが意見の大半を占めていたのだが、彼女こそが竜殺しを成し遂げた英雄であると予想できた者は一人もいなかった。
エステルの正体については、裏組織から救われた少女たちの証言や、彼女とともに戦った騎士たちから再び噂が広がることになるが……それはまた別の話である。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……まだ起きないか」
エステルを客室のベッドに横たえたアルドは心配そうに呟いた。
王都を凱旋し帰城を果たした彼は、予め確保するように指示していた客室の一つに真っ先に向かった。
後宮のエステルの部屋ではないのは……
「そうなると、もう半日以上は何をしても起きないですよ」
アルドの呟きに応えたのは、彼と一緒に客室にやって来たジスタル。
もちろんエドナも一緒だ。
二人がいるので、後宮ではなく賓客向けの部屋を用意したのである。
アルドは二人に向き合う。
そして緊張の面持ちで口を開いた。
「先ずはご挨拶が遅れたことをお詫びいたします。あの場では他の者の目があり話しにくかったので……」
そう言って彼は頭を下げたが、これにはジスタルとエドナも驚いた。
仮にも国王とあろう者が、平民に過ぎない自分たちに謝罪の言葉を述べるなどあり得ないことだから。
しかしそれで物怖じするような二人ではない。
むしろエドナは相手が国王であっても、普段通りの口調で話し始める。
「あなたは……バルド王とはかなり雰囲気が違うのね」
前王バルドは、いかにも王らしく尊大な態度だった……彼女の認識はそのようなものだ。
実際それは間違ってはいないだろうが、それは当たり前の事である。
「もちろん、私にも立場がありますので場合によっては王らしく振る舞わねばなりませんが……義父上と義母上に対して経緯を払うのは当然のことです」
「……それだ。なんなんです?『義父』『義母』というのは?」
初めて言葉をかわしたときから気になっていた言葉。
ジスタルはわけが分からず、その意味を問う。
「エステルが後宮にいる事は……?」
「それは知ってるわ。だからわざわざ王都まで来たのだから。でも、それはあくまでも任務のため……って、クレイくんの手紙には書いてあったわ」
「確かに、彼女自身は任務のために後宮に滞在していると思い込んでますが……私としては、いずれ彼女を正式に伴侶に迎えたいと考えてます」
ついにアルドはそれを口にした。
彼が本気でエステルを正妃に迎えるつもりなら、二人の了承を得ることは絶対に必要である。
それは自分が王であることとは関係ない……と、彼は考えている。
そして今回の二人の訪問は、最初こそ困惑したものだが……むしろ外堀を埋める良い機会だと前向きに捉えていた。
だが、アルドの言葉を聞いた二人はお互いに顔を見合わせる。
そして再びアルドに向き直ったとき、彼らは奇異なものを見るような目をしながら言い放った。
「「……え?……正気?」」
王にも娘にも失礼極まりないそれの言葉は、かつてクレイが発したものと同じ意味のものだった。
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