魔法絵師マリカの不思議なアトリエ

O.T.I

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幽霊婦人《シニョーラ・ファンタズマ》

地の底へ

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 隠し通路に入って少し進むと、すぐに下り階段が現れた。
 階下の方を覗き込んでみるけど……延々と続く先の方までは流石に照明の光は届かず、闇に包まれて終わりが見通せない。
 だけど、相当に地下深くまで降りていくような雰囲気に思えた。


「ここから先は明かりがいるわね」

「私に任せて。……天より賜りし聖なる灯火ともしびよ、我らを照らし闇を払いたまえ。【光明ルーチェ】」

 アンゼリカが魔法を使うと、私たちの周りが明るくなった。
 特に光源のようなものは見当たらず不思議な感じがするのは、まさに魔法と言ったところか。

「アンゼリカは『天』系統が使えるのね」

 明るくなった階段を下り始めながら私はそう呟いた。

 『天』とその対極の『冥』の魔法は他の系統に比べると使える人が極端に少ない。
 例え初級の『光明ルーチェ』の魔法であっても、その使い手はごく限られる。
 なお、この世界の魔法の系統は『天』『地』『水』『火』『風』『冥』に大別される。
 更に細かな属性に分類される事もあるけど、一般的な知識としてはこの六系統に無属性を加えたものね。

ランティーニ家うちは代々『天』系統の使い手が多いのよ。私も一部の上級までは使えるわ。でも、マリカだって【退魔エゾルチズモ】が使えるんだから『天』の使い手なんでしょ?」

 まあ確かにそうなんだけど……
 因みに『退魔エゾルチズモ』は『天』系統の中級に分類されている。

「私は全系統持ちではあるのだけど、あいにく普通の魔法は得意ではないの。使えてもほとんどが初級まで、せいぜいが一部の中級までね」

「全系統って……例え初級までだったとしても、それはそれでとんでもない事だと思うけど。普通は多くてもせいぜい二~三系統なんだから。あ、私は『天』に『火』と『風』を加えた三系統が使えるわ」

 さらりと言うけど、三系統持ちは数万人にひとりレベルって聞いた事がある。
 ……まあ、メイお母さんは全系統上級(一部特級)まで使えるんだけど。
 複数系統持ちが少ない事の理由の一つは、系統には対極関係があるから。
 『天』⇔『冥』、『火』⇔『水』、『地』⇔『風』と言ったふうにね。
 仮に一つの系統を習得したとして、その対極の系統の習得は著しく困難になる……らしい。
 実際アンゼリカが言った三系統も、対極関係に無いものだけだ。
 私は特にそんなことはなかったけど、先に言った通り使えるのは初級ばかり。


「私の場合は器用貧乏なだけよ。……というか、魔法絵を描くためには全属性使えることがほぼ必須だったりするのよね」

 究極的には森羅万象を顕現するものだから、全系統が要求されるのは必然とも言える。

 魔力量が桁外れに多い私が普通の魔法があまり得意ではない理由については、前にメイ母さんに聞いたことがある。
 曰く……魔法絵を描くときと、通常魔法を使うときでは根本的な魔力制御の方法が違うとのこと。
 私はどちらもほとんど感覚でやってるので、いまいちピンと来ていないのだけど……

 そんなような事をアンゼリカに説明してやると、彼女もやはりピンと来ない様子。

「ふぅん……まあ、よく分かんないけど、マリカの才能が唯一無二であることは確かね。……と言うか、魔法絵師があなた以外にいないのって、魔力量だけが理由じゃないのね」

「確かに、それはそうね」

 規格外中の規格外が身近にいて最近までそれが普通と思ってたから、そこには思い至らなかったわ……


 さて、そんな話をしながらも階段をどんどん降りていくのだけど、一向に終点にはたどり着かない。
 途中から緩やかなカーブを描くようになってるので、なおさら先が見えないのだけど。

 と思った矢先のこと。
 警戒しながら少し先の方を歩いていたミャーコとフェデリカさんが私たちの方を振り返る。

『どうやら終点のようです』

「扉ですニャ!イヤな感じがするですニャ!」

 彼女たちの言う通り、長かった階段はついに終わりとなる。
 その先に現れたのは……禍々しい悪魔ディアヴォロのレリーフが施された、大きな鉄扉だった。


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