体育館と図書室の狭間

梨花

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その日も私はちらちら体育館に視線を向けていた。
なんだか気持ちが落ち着かない。
そわそわでもどきどきでもなく。
何だろうか。
第六感でもあるまいし。
でもその勘というか気分の揺れが彼に伝わってしまったのか。
いつもなら綺麗なフォームでシュートを決めていた彼は、ドリブルしながらゴール下からのシュート練習をしていた。
練習を始めた頃からチラチラ見ていたが今日の彼は跳んだ時のバランスが取れていなかった。
その所為でシュートの成功率もよくないようだった。


私は思わず立ち上がった。
完全に佐々木氏は着地に失敗していた。
バランスを崩し床に着いた体を彼は起こせずにいた。
時計を確認すると昼休みが終わるまで15分ある。
私は本を借りることなく図書室をあとにした。


体育館の扉は開いたままだった。
体育の授業や学校行事でしか中には入ったことがなかった。
「何しに来た。」
鋭い声がした。
図書室から無我夢中で来てみたけど私は何をしに来たんだろうか。
「えっと…。」
声は体育館の舞台の方から聞こえたのであたしはそっちに顔を向ける。
舞台の下に彼は座り、左足にテーピングの最中だったようだ。
「…あんたか。」
声のトーンが緩む。
「図書室から見えたから。」
佐々木氏は私から視線を外しテーピングを続ける。
「あんたに出来ることなんかねえよ。」
教室でクラスメイトに話しかける優しい言葉は無かった。
「そう、だよね。
どうして私ここに来たんだか…。」
「だったらさっさと教室戻れよ。」
「うん。」
「足の事、誰にも言うなよ。」
「…わかってる。」


わかってる。
佐々木氏がクラスではバスケの天才だと言われているけど人知れず1人練習していること。
それを誰にも見せることなく、クラスでは明るく振る舞っていること。
同じクラスになってひと月しか経ってないけど、私はその短い間に知ってしまった。


その日の午後の授業に佐々木氏はいなかった。
翌日の教室にも。


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