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藤田の回想
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その日美雪は煽るように酒を飲んでいた。
数日前に彼女の担当していた患者の容態が急変して亡くなったことは川島からきいていた。
「篠崎、ちょっと飲みすぎだぞ?」
「あは。藤田先生だっ。ちゃんとのんでますぅ?」
媚びを売るような間延びした口調は好きじゃない。
人を馬鹿にしているような気がするから。
だけどいまの篠崎の口調は俺を不安に駆り立てる。
「俺は飲んでいる。篠崎は飲み過ぎだ。いい加減やめておけ。」
「普段飲まないんだから今日ぐらい羽目外させてくださいよお。」
「普段飲まない奴が飲まれるとどうなるかわからないから言ってるんだ。」
「だーいじょーぶですよお。」
「篠崎、お前どこかの悪い男に持ち帰られるぞ?」
いつもの篠崎とは180度違う。
隙だらけだ。
「あはっ。篠崎を持ち帰る奇特な男がいるわけないじゃないですかぁ。彼氏いない歴5年になっちゃいますしぃ。」
「篠崎…。」
「じゃあオレ篠崎さん持ち帰ってもいぃ?」
篠崎を挟んだ向こうに座っていた理学療法士の男が言った。
「だーめーでーすー。
あたしが藤田せんせーをお持ち帰りしちゃいますう。」
「川島、篠崎送ってくる。」
幹事の川島に言って俺は篠崎のバッグとコート、自分のジャケットを取った。
「篠崎、行くか?」
「わーい。藤田せんせーをお持ち帰りしまーす。じゃあまたー。」
おぼつかない足取りで歩き出し、俺は篠崎を抱き寄せた。篠崎は腕を組んできた。
タクシーを待つ列に並ぶ。
「篠崎の家に先に行くぞ?」
「だめぇ。今日は離さないんだから。」
「篠崎、言ってる意味分かってる?」
組んできた腕の力が強くなる。
「ねぇ、あたし言ってる意味がわからないほど子供じゃない。」
真っ赤な顔、見上げてくる潤んだ瞳はアルコールのせいだ。
俺に言ってくる言葉は酔っ払いの戯言。
だけど。
「好きでもない人をお持ち帰りなんかしない。」
酔っ払いにしてははっきりとそう言った。
「わかった。今夜は大人しくお持ち帰りされてやる。」
しかし、お持ち帰りすると言った本人がタクシーの中で爆睡した。
俺も篠崎も家の方向が同じであったこともあり、俺は自宅に連れ帰ることにした。
「篠崎、起きろ。」
「美雪って呼んでくれないと起きてあげないー。」
起きてるじゃねぇか。
「なんで俺だけが名前を呼ばないといけない?」
俺の肩に凭れて口を尖らせた顔を向ける。
「は、晴翔さんっ。」
ちゅっとこめかみにキスを落として。
停車したタクシーに金を払って降りた。
俺の1人暮らしをしているマンションに美雪を連れて行き先にシャワーを使わせた。
その間に寝室のエアコンを入れる。
湯船に入れなかった美雪は不満そうな表情で俺を見た。
「風呂に入って中で寝て溺れてもらったら俺が困る。」
「寝ないしぃ。それに。」
「それに?」
「もう、晴翔に溺れてる。」
甘ったれた声は健在だ。
俺が思っていた以上に飲み過ぎている。
それにしても。
この美雪は何なんだ。
病棟で見かける澄ました顔はどこにもない。
「俺もシャワー浴びてくる。」
これ以上会話を続けていたらまともな抱き方ができなくなりそうだ。
シャワーを浴びて、美雪をベッドに連れ込んだ。
軽くキスをするだけで美雪は蕩けるような笑みを浮かべた。
「美雪、愛してる。」
今迄どんな女と過ごした時も口にしたことのないセリフを囁けば美雪は俺の首に腕を回した。
「あたしもっ、晴翔だけ。晴翔しかいらないの。」
数日前に彼女の担当していた患者の容態が急変して亡くなったことは川島からきいていた。
「篠崎、ちょっと飲みすぎだぞ?」
「あは。藤田先生だっ。ちゃんとのんでますぅ?」
媚びを売るような間延びした口調は好きじゃない。
人を馬鹿にしているような気がするから。
だけどいまの篠崎の口調は俺を不安に駆り立てる。
「俺は飲んでいる。篠崎は飲み過ぎだ。いい加減やめておけ。」
「普段飲まないんだから今日ぐらい羽目外させてくださいよお。」
「普段飲まない奴が飲まれるとどうなるかわからないから言ってるんだ。」
「だーいじょーぶですよお。」
「篠崎、お前どこかの悪い男に持ち帰られるぞ?」
いつもの篠崎とは180度違う。
隙だらけだ。
「あはっ。篠崎を持ち帰る奇特な男がいるわけないじゃないですかぁ。彼氏いない歴5年になっちゃいますしぃ。」
「篠崎…。」
「じゃあオレ篠崎さん持ち帰ってもいぃ?」
篠崎を挟んだ向こうに座っていた理学療法士の男が言った。
「だーめーでーすー。
あたしが藤田せんせーをお持ち帰りしちゃいますう。」
「川島、篠崎送ってくる。」
幹事の川島に言って俺は篠崎のバッグとコート、自分のジャケットを取った。
「篠崎、行くか?」
「わーい。藤田せんせーをお持ち帰りしまーす。じゃあまたー。」
おぼつかない足取りで歩き出し、俺は篠崎を抱き寄せた。篠崎は腕を組んできた。
タクシーを待つ列に並ぶ。
「篠崎の家に先に行くぞ?」
「だめぇ。今日は離さないんだから。」
「篠崎、言ってる意味分かってる?」
組んできた腕の力が強くなる。
「ねぇ、あたし言ってる意味がわからないほど子供じゃない。」
真っ赤な顔、見上げてくる潤んだ瞳はアルコールのせいだ。
俺に言ってくる言葉は酔っ払いの戯言。
だけど。
「好きでもない人をお持ち帰りなんかしない。」
酔っ払いにしてははっきりとそう言った。
「わかった。今夜は大人しくお持ち帰りされてやる。」
しかし、お持ち帰りすると言った本人がタクシーの中で爆睡した。
俺も篠崎も家の方向が同じであったこともあり、俺は自宅に連れ帰ることにした。
「篠崎、起きろ。」
「美雪って呼んでくれないと起きてあげないー。」
起きてるじゃねぇか。
「なんで俺だけが名前を呼ばないといけない?」
俺の肩に凭れて口を尖らせた顔を向ける。
「は、晴翔さんっ。」
ちゅっとこめかみにキスを落として。
停車したタクシーに金を払って降りた。
俺の1人暮らしをしているマンションに美雪を連れて行き先にシャワーを使わせた。
その間に寝室のエアコンを入れる。
湯船に入れなかった美雪は不満そうな表情で俺を見た。
「風呂に入って中で寝て溺れてもらったら俺が困る。」
「寝ないしぃ。それに。」
「それに?」
「もう、晴翔に溺れてる。」
甘ったれた声は健在だ。
俺が思っていた以上に飲み過ぎている。
それにしても。
この美雪は何なんだ。
病棟で見かける澄ました顔はどこにもない。
「俺もシャワー浴びてくる。」
これ以上会話を続けていたらまともな抱き方ができなくなりそうだ。
シャワーを浴びて、美雪をベッドに連れ込んだ。
軽くキスをするだけで美雪は蕩けるような笑みを浮かべた。
「美雪、愛してる。」
今迄どんな女と過ごした時も口にしたことのないセリフを囁けば美雪は俺の首に腕を回した。
「あたしもっ、晴翔だけ。晴翔しかいらないの。」
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