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12月11日
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日付けが変わった。
カルテを書いて、巡視にまわる。
鶴見さんは容態としては問題ない。
モニターで管理していることもあり、色々繋がれているから時々目を覚ましている。
緊急手術ということでご両親はあたしが出勤する頃に見えて、手術が終わると近くのホテルに泊まるために帰っていかれた。
完全看護なので家族の宿泊はできない。
例外があるとすれば夜間の緊急手術になった患者さんの家族ぐらいだが、宿泊設備はないため家族のベッドや食事の用意はない。
とりあえず今夜は問題なく深夜勤務に引き継げそうだ。
外科医師医局と書かれたドアは薄く開かれていた。
軽くノックする。
「どうぞ。」
あけると藤田はソファにすわって医学雑誌を読んでいた。
「お呼びでしたので伺いました。」
「座って。」
言われるままにソファに座ると藤田は立った。
「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「紅茶で。」
「明けだからそう言うかと思った。」
コーヒーか紅茶かと問われればあたしは基本はコーヒーだ。それもできればミルク多め。余裕があればカフェラテ。無理ならカフェオレ。でも偶に紅茶も飲む。食事の時は緑茶。その時に応じて変わる。
藤田はメーカーもののティバッグで紅茶を淹れてくれた。
「あ…。」
香りでわかる。
顔を上げるとしてやったりといわんばかりの笑みを浮かべた藤田と目があった。
「美雪、これが好きだろう。」
「ありがとうございます。」
この間終わりにしようと告げたのだ。
親しく話はできない。
なのにどうしてこんな事をするんだろう。
「何か、お話があったんじゃないんですか?」
「美雪は、俺のことは嫌いじゃないよな?」
藤田はあたしの真正面に座った。
「え?」
「これまでの俺たちの関係とかを思い出してみたんだが、多分美雪は覚えてないんだな。」
覚えて、ない?
「俺たちの関係が始まった日のこと。」
「あれは忘年会の後先生にお持ち帰りされてっ。」
藤田は少し寂しそうに笑った。
「あの時は美雪は酷く飲んでたからな。」
ビールで乾杯して、サワーを飲んでカクテル飲んで日本酒飲んだことは覚えている。
あの飲み会の数日前に担当だった患者さんの容態が急変して亡くなったのだ。あれはもう患者さんの体力が限界だった。末期癌で余命半年と言われて、それでも1年もった。
患者さんの家族の、荷物を持って帰るときの恨めしそうな目は忘れられない。
人殺しと罵っているかのような、暗い色をたたえた目だった。
それを忘れたくて浴びるようにアルコールをとった。
「病棟でのことも、聞いてた。」
「えっ…?」
「あの日、美雪がお持ち帰りしたんだよ、俺を。」
あたしが、藤田をお持ち帰り?
カルテを書いて、巡視にまわる。
鶴見さんは容態としては問題ない。
モニターで管理していることもあり、色々繋がれているから時々目を覚ましている。
緊急手術ということでご両親はあたしが出勤する頃に見えて、手術が終わると近くのホテルに泊まるために帰っていかれた。
完全看護なので家族の宿泊はできない。
例外があるとすれば夜間の緊急手術になった患者さんの家族ぐらいだが、宿泊設備はないため家族のベッドや食事の用意はない。
とりあえず今夜は問題なく深夜勤務に引き継げそうだ。
外科医師医局と書かれたドアは薄く開かれていた。
軽くノックする。
「どうぞ。」
あけると藤田はソファにすわって医学雑誌を読んでいた。
「お呼びでしたので伺いました。」
「座って。」
言われるままにソファに座ると藤田は立った。
「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」
「紅茶で。」
「明けだからそう言うかと思った。」
コーヒーか紅茶かと問われればあたしは基本はコーヒーだ。それもできればミルク多め。余裕があればカフェラテ。無理ならカフェオレ。でも偶に紅茶も飲む。食事の時は緑茶。その時に応じて変わる。
藤田はメーカーもののティバッグで紅茶を淹れてくれた。
「あ…。」
香りでわかる。
顔を上げるとしてやったりといわんばかりの笑みを浮かべた藤田と目があった。
「美雪、これが好きだろう。」
「ありがとうございます。」
この間終わりにしようと告げたのだ。
親しく話はできない。
なのにどうしてこんな事をするんだろう。
「何か、お話があったんじゃないんですか?」
「美雪は、俺のことは嫌いじゃないよな?」
藤田はあたしの真正面に座った。
「え?」
「これまでの俺たちの関係とかを思い出してみたんだが、多分美雪は覚えてないんだな。」
覚えて、ない?
「俺たちの関係が始まった日のこと。」
「あれは忘年会の後先生にお持ち帰りされてっ。」
藤田は少し寂しそうに笑った。
「あの時は美雪は酷く飲んでたからな。」
ビールで乾杯して、サワーを飲んでカクテル飲んで日本酒飲んだことは覚えている。
あの飲み会の数日前に担当だった患者さんの容態が急変して亡くなったのだ。あれはもう患者さんの体力が限界だった。末期癌で余命半年と言われて、それでも1年もった。
患者さんの家族の、荷物を持って帰るときの恨めしそうな目は忘れられない。
人殺しと罵っているかのような、暗い色をたたえた目だった。
それを忘れたくて浴びるようにアルコールをとった。
「病棟でのことも、聞いてた。」
「えっ…?」
「あの日、美雪がお持ち帰りしたんだよ、俺を。」
あたしが、藤田をお持ち帰り?
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