カウントダウン

梨花

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12月10日

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今日は忘年会だが。
しかし。
あたしは準夜勤だ。
そして。
鶴見さんとお見合いである。
しかし万が一の事を考えるとどこかに遊びに行くのも怖い。
鶴見さんが入院してから6日目になるけど日に日に顔色が悪くなっているのが分かる。
食欲もあまりないみたいだ。
あたしの部屋でゆっくり過ごして、のんびり話をするという計画を立てた。
待ち合わせは病院近くのコンビニだ。
10時前にコンビニに着き、デザートを物色していると鶴見さんはきた。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
いつもの朝の挨拶だ。
「私服だとまた感じが変わるね。」
「っ…。」
いつもとは違ってた。
丁寧な言葉遣いじゃなくて。
気さくなお兄さん。
「そ、そうですねっ。鶴見さん、もっ。」
鶴見さんはふわりと笑う。
「買うものは決まった?」
「あたしは。
鶴見さんはいるものありますか?」
「そうだなー。フルーツのヨーグルト買おうか。」
何種類かのフルーツの入ったヨーグルトをカゴに入れた。
あたしはレジで会計をする。
「おまたせしました。」
コンビニのゴミ箱の横に物憂げな顔をした鶴見さんがいた。
「後でお金払うね。」
「何時でも大丈夫です。」

鶴見さんは結局手術をすることになった。
来週月曜日に手術なので、今週は検査漬けだった。

あまり刺激のある飲み物は良くないだろうとあたしは緑茶を出す。
「ありがとう。さっぱりしていて飲みやすい。」
あたしたちはたわいもない話をした。
鶴見さんは仕事柄女性と出会う機会が少なく、今回のお見合いに踏み切ったらしい。
お兄さんと妹さんの3人兄妹なのだそうだ。
そもそも今回のお見合いは鶴見さんのお母さんとあたしの母の共通の知り合いになるお兄さんの奥さんのお母さんが仲介しているんだそうだ。
「何も詳しくは聞かなくて写真だけいきなり送ってきたのでびっくりしました。」
「そうだろうね。」

お昼ご飯の用意をしようとキッチンに立った。
ごん、と嫌な音がして、あたしは鍋の火をとめた。
今日は雑炊にしようかと出汁をとっていた。
「鶴見さん?」
鶴見さんがうつ伏せになっていた。
反応がない。
近づくと胃液と血の混じった匂い。
吐血、していた。
声をかけると反応はある。
手首に触れ脈の確認。
まだ今のところとることができる。
さあ、どうする、あたし。
テーブルに置いた携帯で119。
救急車。
「火事ですか?救急ですか?」
「救急です。」
質問されるまま状況を報告する。
もちろん現在入院中であること、入院先の病院に搬送して欲しいこと。
玄関の鍵を開け、カバンに携帯と財布をいれる。
タオルを固く絞り鶴見さんの顔を拭く。
「鶴見さん、鶴見さん?」
声をかけると「うう…。」と返ってくる。
「今救急車が来ます。病院に帰りますね。」
玄関のチャイムがなった。
「鍵空いてますっ!」
救急隊が、来た。

その後のことはあまり覚えてない。
とりあえず自分のバッグとコート、鶴見さんの上着を持ってあたしは病院にいた。

「美雪。」
声をかけられて顔を上げると藤田がいた。
「これからオペに入る。
お前は家に帰れ。」
「え…。」
「今日、準夜勤だろう。休んでないと仕事できないぞ。」
「う、うん…。」

「篠崎さん?」
あれからどのくらい時間がたったのだろう。
声をかけられて顔をあげると喜多原先生がいた。
藤田や川島先生の大学の同級生だという内科の先生だ。
専門は循環器。
白衣は来ていなくて私服だった。
「喜多原先生…。」
「藤田くんがきっとここにいるからって言ってたけど本当にいるとは思わなかったわ。」
「何か動けなくて…。」
「でも今日準夜勤なんでしょ?
1度帰ろう?
あたし、送るから。」
「…はい。」
あたしはのろのろと喜多原先生について職員駐車場に向かった。
喜多原先生の車に乗せられてあたしは自分のアパートに帰ってきた。
近くのコインパーキングに車を停めてあたしたちは車を降りる。
「先生ついてくるんですか?」
「当たり前でしょ。
今の篠崎さん、告知された直後の患者みたいな顔してるわよ。」
「…そう、ですか。」

玄関をあげると嫌な匂いがする。
「まだ明るい時間でよかったわ。」
喜多原先生は言った。まだ2時前だ。
部屋の窓を開け換気扇をつけ、コーヒーメーカーをセットする。
キルティングのマットはもう使えない。
あたしはそれをゴミ袋にいれる。
「二重にしたほうがいいわよ。」
喜多原先生に言われて袋を二重にして、雑巾を固く絞って畳に薄く残った血を拭いた。
玄関のチャイムが鳴った。
「救急車が来たって聞いたけど。」
来たのはアパートの大家さんだった。
60代の男性だ。
「遊びに来てた友人の具合が悪くなって呼びました。」
「お友達の具合は大丈夫なのか?」
「ちょっとそれはなんとも…。
でも今かかっている病院に行ったので。」
「そうか。大事にな。」
「ご迷惑をおかけしました。」
あたしは頭を下げると大家さんは帰って行った。
中に戻るとマグカップに入ったカフェオレが入っていた。
「勝手に入れたわよ?」
「ありがとうございます。」
「それ飲んだらしばらく休みなさい。4時には起こしてあげるから。」
「先生は…?」
「ここにいるわ。」


藤田は喜多原先生に何を頼んだのだろう。
4時になって、シャワー浴びて着替えて出勤の用意をして。
喜多原先生の車で病院に戻った。
病棟に入るとその雰囲気でまだ鶴見さんは手術中であることが分かった。
時間に流されるようにあたしは仕事に追われた。

鶴見さんの手術が終わって鶴見さんが病棟に戻ってきたのは8時を過ぎていた。
9時になって消灯する。
遅番だった人が帰って行った。
病棟を巡視してナースステーションに戻ると藤田がいた。
「お疲れ様です。」
「ああ。」
今日のオペの記録を書いているようだ。
あたしはこれから交換のある点滴の準備をする。
「篠崎、勤務終わったら医局に来て。」
深夜勤務との交代は1時。
「先生泊まるんですか?」
「家に帰って呼び出しきたら面倒だからな、一応泊まる。」
「わかりました。着替えてからの方がいいですか?」
藤田の記録を書いている手が止まった。
「…あぁ。そうしてくれ。」
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