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元婚約者と恋人が突撃してきました、裏?
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「急にお時間を申し訳ありません。」
僕はある会社の重役に面会に来ていた。
「高橋先輩にはお世話になったからね。」
革張りのソファーは重厚すぎて居心地が悪い。浅く座り、出されたお茶に口をつける。
「早速なのですが。御社の女性社員より婚約破棄の件で依頼を受けまして今いろいろ調べているところで幾つか教えて頂きたいことがあります。」
「こちらが答えられる範囲であれば。」
「依頼主の元婚約者が言うには婚約破棄に至ったのは彼女が仕事が忙しく会う時間が減ったせいだと言っています。」
「依頼主というのは営業事務の市川さんかな?」
「よくご存知ですね。」
「社内で噂になっているからね。たしかに今営業は大型の案件を抱えていて猫の手も借りたいと言っているよ。」
「そうですか。社内で噂になるとは早いですね。婚約破棄をされたのは一昨日なのですが。」
実質今日だけで噂が広まるなんてどんな会社なんだろう。
「僕自身は営業部長から聞いたんだが、今朝始業直後に相手から電話があって、彼女に怒鳴っていたそうだよ。その時に彼女の口から婚約破棄の言葉がでたそうだ。」
「相手が直接怒鳴り込んで来るのも時間の問題ですね。」
「君も厄介な案件に関わってしまったね。」
「いえ。彼女は身内みたいなものですから。」
「身内?」
「弟の元恋人です。」
「あぁ。未だに特定の恋人がいないという…。」
よくご存知だ。
これでいろいろ察してくれるとありがたい。
「因みに、その元婚約者の相手は誰か知ってる?」
「いえ。この会社の社員だと聞きましたが。」
この様子だと知っているようだ。
「ここの受付嬢だよ。広報部長の娘だそうだ。」
「コネですね。」
「僕としては不本意だけどね。それで仕事ができればいいんだけど。」
また深和ちゃんも面倒な女に絡まれたものだな。
携帯がなる。
深和ちゃんからだ。
「どうぞ。」
「早速、みたいですよ。」
ため息をつく。
「重役専用の地下駐車場があるからそっちから出る?」
ここから正面に向かえばまたあの元婚約者は難癖をつけそうだ。
「そうさせていただきたいです。」
いうとドアがノックされた。
「副社長、そろそろ会合に向かわれる準備を。」
秘書らしき人が現れた。
「うん。その前に高橋君を地下駐車場に送ってくれないかな。あと、玄関騒がしいみたいだから収めてから行くから遅れる旨連絡お願い。」
「…かしこまりました。」
「それでは失礼します。」
「後で応援に行くね。」
旧知のような気軽な話し方をする副社長室を後にする。
秘書に案内されて乗り込んだエレベーターは乗り込む時からカードキーだった。
「うちの副社長と知り合いだったのか。」
「父の後輩にあたるそうです。」
どうして深和ちゃんは僕の知り合いがいる会社に勤めちゃったかな。
副社長の秘書は大学のサークルの先輩だ。
「で、あの営業事務の子は。」
「弟の元カノです。」
「本命、だろ。そろそろこっちに戻す話が出てる。」
「なかなか帰りたがりませんでしたからね。婚約破棄になって好都合でした。」
「市川、だったか。俺の同僚になるかな。」
「そんな人事の話、僕にしていいんですか?」
「弁護士は守秘義務があるだろう。」
「まあ、そうですけどね。」
エレベーターが地下駐車場に着いた。
降りればそこはもう駐車場だ。
「仕事頑張れよ。」
「ええ。」
ビルの正面に戻ると高身長のイケメンがガードレールにもたれていた。
「あれ?敬輔さん?」
目が合い声をかけられた。
「大樹の友人の神村です。」
確かアメリカでバスケをやってた奴だ。
大樹が高校の時に会って以来だ。
「深和絡みですか?」
「久しぶりだね、そうなんだ、ちょっとした依頼を受けてね。」
「招待されてたので深和から事情ききました。敬輔さんに依頼したことも。」
「まあ、ある意味僕を頼ってくれてよかったよ。」
「ところで敵ってアレですよね。」
神村は視線をソファに座る男女に向ける。
男はどことなく弟に似ているようにも見える。
「よくわかったね。」
「顔コピーですからね?原本の方がずっといい男なのに。」
「全くだ。」
顔コピーとは酷い言われようだが仕方ない。
「じゃあ、行ってくるよ。」
神村はいくら深和ちゃんの友人だからと言って簡単に中に入れるわけではない。
彼をその場に残して僕は再入場する。
「君は何をしにここまで来ているのかな。」
声をかけられた男は僕を睨みつけた。
「あんたには関係ない話だ。」
「市川さんに僕は依頼されたんだよ、元婚約者とは仕事以外では顔を合わせたくないし声も聞きたくないのであとの処理をお願いしますって。」
「なんだってっ!」
「そりゃ信頼していた相手に裏切られたんだからそんな気持ちにもなるよね。」
隣に座っていた女が立ち上がった。
僕は彼女を無視した。
彼女はまっすぐに歩き出す。
「君の新しい恋人だっけ?ここの広報部長の娘だって?それを足掛かりに昇進狙ってるの?」
「てめぇ!」
「そうやって手を出す癖、昔から変わらないね。警察呼んであげようか?」
「何考えてるんだ。」
「決まってるだろう。依頼人の安全だ。」
バシン!
平手打ちの音が響く。
「知ってる?世の中先に手を出したほうが負けなんだよ。」
目の前の男は顔を青くした。
自分の恋人と元婚約者では自分の恋人の方が不利であることは理解したようだ。
「ここで君たちが騒ぎを起こしても彼女が有利になることはない。そもそも婚約破棄の原因は君の不貞だからだ。それにここの会社と君の会社、業務提携してたよね?君がここで騒いでいたことが重役に知られたら大変じゃないの?」
「たかが弁護士の分際で何知ってるんだ。」
「弁護士の伝手を軽く見てもらっては困るよ。君が市川さんと婚約破棄したこと、この会社の噂になってるそうだよ、君が朝一に電話したおかげで。」
「なっ…。」
急に辺りが静まりかえる。
誰が「副社長…。」と言ってる。
「終業後にこんな騒ぎを起こした原因ははっきりしている。明日、事情を確認し今週中には会社としてどうするかはっきりさせる。皆、解散っ!」
よく響く声だ。
先ほどの女が深和ちゃんを一睨みして戻ってくる。
目の前の男に腕を絡ませてきた。
「これ以上君たちは市川さんに絡ませてないでね?」
女は僕まで睨みつけた。
「あたしの父は広報部長よ。」
「あの人はここの副社長だよ。どちらが偉いかなんて幼稚園児でもわかる。」
僕は言い残してその場を去った。
僕はある会社の重役に面会に来ていた。
「高橋先輩にはお世話になったからね。」
革張りのソファーは重厚すぎて居心地が悪い。浅く座り、出されたお茶に口をつける。
「早速なのですが。御社の女性社員より婚約破棄の件で依頼を受けまして今いろいろ調べているところで幾つか教えて頂きたいことがあります。」
「こちらが答えられる範囲であれば。」
「依頼主の元婚約者が言うには婚約破棄に至ったのは彼女が仕事が忙しく会う時間が減ったせいだと言っています。」
「依頼主というのは営業事務の市川さんかな?」
「よくご存知ですね。」
「社内で噂になっているからね。たしかに今営業は大型の案件を抱えていて猫の手も借りたいと言っているよ。」
「そうですか。社内で噂になるとは早いですね。婚約破棄をされたのは一昨日なのですが。」
実質今日だけで噂が広まるなんてどんな会社なんだろう。
「僕自身は営業部長から聞いたんだが、今朝始業直後に相手から電話があって、彼女に怒鳴っていたそうだよ。その時に彼女の口から婚約破棄の言葉がでたそうだ。」
「相手が直接怒鳴り込んで来るのも時間の問題ですね。」
「君も厄介な案件に関わってしまったね。」
「いえ。彼女は身内みたいなものですから。」
「身内?」
「弟の元恋人です。」
「あぁ。未だに特定の恋人がいないという…。」
よくご存知だ。
これでいろいろ察してくれるとありがたい。
「因みに、その元婚約者の相手は誰か知ってる?」
「いえ。この会社の社員だと聞きましたが。」
この様子だと知っているようだ。
「ここの受付嬢だよ。広報部長の娘だそうだ。」
「コネですね。」
「僕としては不本意だけどね。それで仕事ができればいいんだけど。」
また深和ちゃんも面倒な女に絡まれたものだな。
携帯がなる。
深和ちゃんからだ。
「どうぞ。」
「早速、みたいですよ。」
ため息をつく。
「重役専用の地下駐車場があるからそっちから出る?」
ここから正面に向かえばまたあの元婚約者は難癖をつけそうだ。
「そうさせていただきたいです。」
いうとドアがノックされた。
「副社長、そろそろ会合に向かわれる準備を。」
秘書らしき人が現れた。
「うん。その前に高橋君を地下駐車場に送ってくれないかな。あと、玄関騒がしいみたいだから収めてから行くから遅れる旨連絡お願い。」
「…かしこまりました。」
「それでは失礼します。」
「後で応援に行くね。」
旧知のような気軽な話し方をする副社長室を後にする。
秘書に案内されて乗り込んだエレベーターは乗り込む時からカードキーだった。
「うちの副社長と知り合いだったのか。」
「父の後輩にあたるそうです。」
どうして深和ちゃんは僕の知り合いがいる会社に勤めちゃったかな。
副社長の秘書は大学のサークルの先輩だ。
「で、あの営業事務の子は。」
「弟の元カノです。」
「本命、だろ。そろそろこっちに戻す話が出てる。」
「なかなか帰りたがりませんでしたからね。婚約破棄になって好都合でした。」
「市川、だったか。俺の同僚になるかな。」
「そんな人事の話、僕にしていいんですか?」
「弁護士は守秘義務があるだろう。」
「まあ、そうですけどね。」
エレベーターが地下駐車場に着いた。
降りればそこはもう駐車場だ。
「仕事頑張れよ。」
「ええ。」
ビルの正面に戻ると高身長のイケメンがガードレールにもたれていた。
「あれ?敬輔さん?」
目が合い声をかけられた。
「大樹の友人の神村です。」
確かアメリカでバスケをやってた奴だ。
大樹が高校の時に会って以来だ。
「深和絡みですか?」
「久しぶりだね、そうなんだ、ちょっとした依頼を受けてね。」
「招待されてたので深和から事情ききました。敬輔さんに依頼したことも。」
「まあ、ある意味僕を頼ってくれてよかったよ。」
「ところで敵ってアレですよね。」
神村は視線をソファに座る男女に向ける。
男はどことなく弟に似ているようにも見える。
「よくわかったね。」
「顔コピーですからね?原本の方がずっといい男なのに。」
「全くだ。」
顔コピーとは酷い言われようだが仕方ない。
「じゃあ、行ってくるよ。」
神村はいくら深和ちゃんの友人だからと言って簡単に中に入れるわけではない。
彼をその場に残して僕は再入場する。
「君は何をしにここまで来ているのかな。」
声をかけられた男は僕を睨みつけた。
「あんたには関係ない話だ。」
「市川さんに僕は依頼されたんだよ、元婚約者とは仕事以外では顔を合わせたくないし声も聞きたくないのであとの処理をお願いしますって。」
「なんだってっ!」
「そりゃ信頼していた相手に裏切られたんだからそんな気持ちにもなるよね。」
隣に座っていた女が立ち上がった。
僕は彼女を無視した。
彼女はまっすぐに歩き出す。
「君の新しい恋人だっけ?ここの広報部長の娘だって?それを足掛かりに昇進狙ってるの?」
「てめぇ!」
「そうやって手を出す癖、昔から変わらないね。警察呼んであげようか?」
「何考えてるんだ。」
「決まってるだろう。依頼人の安全だ。」
バシン!
平手打ちの音が響く。
「知ってる?世の中先に手を出したほうが負けなんだよ。」
目の前の男は顔を青くした。
自分の恋人と元婚約者では自分の恋人の方が不利であることは理解したようだ。
「ここで君たちが騒ぎを起こしても彼女が有利になることはない。そもそも婚約破棄の原因は君の不貞だからだ。それにここの会社と君の会社、業務提携してたよね?君がここで騒いでいたことが重役に知られたら大変じゃないの?」
「たかが弁護士の分際で何知ってるんだ。」
「弁護士の伝手を軽く見てもらっては困るよ。君が市川さんと婚約破棄したこと、この会社の噂になってるそうだよ、君が朝一に電話したおかげで。」
「なっ…。」
急に辺りが静まりかえる。
誰が「副社長…。」と言ってる。
「終業後にこんな騒ぎを起こした原因ははっきりしている。明日、事情を確認し今週中には会社としてどうするかはっきりさせる。皆、解散っ!」
よく響く声だ。
先ほどの女が深和ちゃんを一睨みして戻ってくる。
目の前の男に腕を絡ませてきた。
「これ以上君たちは市川さんに絡ませてないでね?」
女は僕まで睨みつけた。
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