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ある日のこと、俺はルシアと共に冒険者ギルドを訪れた。というのも、最近この町では行方不明者が続出しているというのだ。
「アーク様、何かあったんですか?」
ルシアが心配そうに尋ねてくる。彼女には詳しく話していないが、大賢者である俺の勘は何かがあると告げていた……
「とにかく行くぞ」
俺とルシアはギルドの中へと入った。中はかなり混雑していて騒がしい。おそらく何かの依頼でも貼り出されているのだろう。俺たちはカウンターへと向かった。
「おはようございます……」
俺が挨拶すると、受付嬢は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で応えてくれた。
「おはようございます、どのようなご用件でしょうか?」
「最近この辺りで行方不明者が出ると聞いてきたんだが……詳しいことを教えてくれないか?」
俺が問うと、彼女は困ったような顔をした。
「アーク様といえどギルドの情報を漏らすわけには……」
「心配なんだ。何かが起こっているなら知っておきたい」
俺がそう言うと、受付嬢はしばらく悩んだ後に小さく溜息をついた。そしてゆっくりと話し出す。
「実はこの町のどこかに『邪神教団』と呼ばれる組織が存在するという噂があるんです。彼らは魔族と取引をしているようで、このアーガスの近くでも魔族を見たという噂もあるんですよ」
「なるほど、それで行方不明者が出ているということか……」
俺が考えていると、ルシアが俺の手を握ってきた。彼女の顔を見ると不安そうな表情を浮かべているのがわかる。俺は彼女の手をそっと握ると、安心させるように微笑みかけた。
「安心しろ、俺が必ず助けてやるからな」
ルシアは嬉しそうな笑みを浮かべる。その笑顔に癒されながら、俺は冒険者ギルドを後にしたのだった……
◇
「あれが邪神教団のアジトか」
俺とルシアは町の郊外にある古びた屋敷の前にいた。周囲には人気がなく、静まり返っている。
「ルシア、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
彼女は力強く答えると、杖を構えた。彼女の装備は以前のような白いローブではなく、動きやすい軽装に変わっていた。これは大賢者である俺の提案によるものでもある。邪神教団のアジトに乗り込むのだから当然のことだ……
「行くぞ……」
俺はそう言って屋敷の中へと入っていく。中は思ったよりも暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
「気をつけてください、アーク様……」
ルシアが緊張した様子で言う。俺はそんな彼女の手を強く握ると、ゆっくりと先へと進んでいった……
俺たちは警戒しながら進んでいく。しかし何事もないまま奥へと進むことができた。そしてついに最奥部へと辿り着く。そこには巨大な扉があった。どうやらここが教団のアジトらしい……俺は覚悟を決めると、扉に手をかけたのだった……
扉を開けるとそこは広い部屋だった。壁一面には奇妙な紋様が描かれている。床には赤い絨毯が敷かれており、その上には黒いローブを着た男達が数十人ほど歩いていた。おそらくこの連中が邪神教団の信徒なのだろう……
「アーク様、あれを!」
ルシアが指さす方向には人影があった。フードを被っているため顔は分からないが、体格的に男であることが分かる。彼はこちらを振り向いた瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ようこそ我が城へ……」
男が芝居かかった口調で言う。その声に聞き覚えがあった……俺は警戒を強める。こいつは只者ではない……俺の勘がそう告げていたからだ。
「お前が邪神教団の幹部か?」
俺が問うと、男は愉快そうに笑った。
「その通りでございます。私は大司教の地位を持つ者……」
男は恭しくお辞儀をしてみせる。その態度とは裏腹に、彼から発せられる魔力は禍々しいものだった……
「何故この町を狙う? 魔族との繋がりは何だ?」
「簡単なことですよ……魔族様は我々に力を貸してくださる存在なのです。あのお方の望みを叶えることが我々の使命……そのためには邪魔なものを排除する必要がありました」
「魔族の目的とは何だ?」
「それは知りませんな……我々の目的は人間族の滅亡にある。そのために魔族様の力が必要だというだけのことでございます」
男は大袈裟な身振り手振りを交えながら演説を続ける。奴の自信は相当なものだ、よほど強い力を持っているのだろう……俺はルシアと目配せをすると、攻撃を仕掛けることにした。
「悪いが、お前を倒す!」
俺が叫ぶと同時に杖を振る。魔力の弾を生成し撃ち出す魔法だ。それをまともに受けてもなお、男は余裕の表情を見せていた……
「無駄なことですよ」
男が手をかざすと、見えない壁のようなものが生成される。俺の放った攻撃は全て防がれてしまった……だがそれでいい。これは牽制に過ぎないのだから……
「ルシア! 今だ!」
俺は合図を送ると同時に後方へ下がる。それと同時にルシアが魔法を発動した。
「【稲妻の槍(サンダースピア)】!」
凄まじい雷鳴と共に稲妻が男に向かって降り注いだ。直撃した男は絶叫を上げながら倒れ伏す。しかしそれでもなお、男は生きていた。
「馬鹿な……この私が負けるなど……」
男が立ち上がろうとするも、既に満身創痍であり立ち上がることができないようだった。俺はゆっくりと近づいていくと、男に語りかける。
「抵抗しなければ命までは取らない」
俺の言葉を聞いた男はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうですか……では最後に一つだけ教えて差し上げましょう……」
男の口が僅かに動くと、声が聞こえた。それは意味のある言葉ではない、ただの音だ。だが何かを伝えようとしていることだけはわかった……そして男は動かなくなると完全に絶命してしまったのだった……
「アーク様……」
ルシアが不安そうな表情を浮かべている。俺は彼女の手を握ると言った。
「大丈夫だ、心配するな」
そう言って微笑みかけるも彼女はまだ不安そうにしていた。俺はそんな彼女の額に優しく口づけをすると、ぎゅっと抱きしめてやる……するとようやく落ち着いたようだ。
「帰ろうか……」
俺の言葉にルシアは小さくうなずいたのだった……
「アーク様、何かあったんですか?」
ルシアが心配そうに尋ねてくる。彼女には詳しく話していないが、大賢者である俺の勘は何かがあると告げていた……
「とにかく行くぞ」
俺とルシアはギルドの中へと入った。中はかなり混雑していて騒がしい。おそらく何かの依頼でも貼り出されているのだろう。俺たちはカウンターへと向かった。
「おはようございます……」
俺が挨拶すると、受付嬢は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔で応えてくれた。
「おはようございます、どのようなご用件でしょうか?」
「最近この辺りで行方不明者が出ると聞いてきたんだが……詳しいことを教えてくれないか?」
俺が問うと、彼女は困ったような顔をした。
「アーク様といえどギルドの情報を漏らすわけには……」
「心配なんだ。何かが起こっているなら知っておきたい」
俺がそう言うと、受付嬢はしばらく悩んだ後に小さく溜息をついた。そしてゆっくりと話し出す。
「実はこの町のどこかに『邪神教団』と呼ばれる組織が存在するという噂があるんです。彼らは魔族と取引をしているようで、このアーガスの近くでも魔族を見たという噂もあるんですよ」
「なるほど、それで行方不明者が出ているということか……」
俺が考えていると、ルシアが俺の手を握ってきた。彼女の顔を見ると不安そうな表情を浮かべているのがわかる。俺は彼女の手をそっと握ると、安心させるように微笑みかけた。
「安心しろ、俺が必ず助けてやるからな」
ルシアは嬉しそうな笑みを浮かべる。その笑顔に癒されながら、俺は冒険者ギルドを後にしたのだった……
◇
「あれが邪神教団のアジトか」
俺とルシアは町の郊外にある古びた屋敷の前にいた。周囲には人気がなく、静まり返っている。
「ルシア、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
彼女は力強く答えると、杖を構えた。彼女の装備は以前のような白いローブではなく、動きやすい軽装に変わっていた。これは大賢者である俺の提案によるものでもある。邪神教団のアジトに乗り込むのだから当然のことだ……
「行くぞ……」
俺はそう言って屋敷の中へと入っていく。中は思ったよりも暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
「気をつけてください、アーク様……」
ルシアが緊張した様子で言う。俺はそんな彼女の手を強く握ると、ゆっくりと先へと進んでいった……
俺たちは警戒しながら進んでいく。しかし何事もないまま奥へと進むことができた。そしてついに最奥部へと辿り着く。そこには巨大な扉があった。どうやらここが教団のアジトらしい……俺は覚悟を決めると、扉に手をかけたのだった……
扉を開けるとそこは広い部屋だった。壁一面には奇妙な紋様が描かれている。床には赤い絨毯が敷かれており、その上には黒いローブを着た男達が数十人ほど歩いていた。おそらくこの連中が邪神教団の信徒なのだろう……
「アーク様、あれを!」
ルシアが指さす方向には人影があった。フードを被っているため顔は分からないが、体格的に男であることが分かる。彼はこちらを振り向いた瞬間、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ようこそ我が城へ……」
男が芝居かかった口調で言う。その声に聞き覚えがあった……俺は警戒を強める。こいつは只者ではない……俺の勘がそう告げていたからだ。
「お前が邪神教団の幹部か?」
俺が問うと、男は愉快そうに笑った。
「その通りでございます。私は大司教の地位を持つ者……」
男は恭しくお辞儀をしてみせる。その態度とは裏腹に、彼から発せられる魔力は禍々しいものだった……
「何故この町を狙う? 魔族との繋がりは何だ?」
「簡単なことですよ……魔族様は我々に力を貸してくださる存在なのです。あのお方の望みを叶えることが我々の使命……そのためには邪魔なものを排除する必要がありました」
「魔族の目的とは何だ?」
「それは知りませんな……我々の目的は人間族の滅亡にある。そのために魔族様の力が必要だというだけのことでございます」
男は大袈裟な身振り手振りを交えながら演説を続ける。奴の自信は相当なものだ、よほど強い力を持っているのだろう……俺はルシアと目配せをすると、攻撃を仕掛けることにした。
「悪いが、お前を倒す!」
俺が叫ぶと同時に杖を振る。魔力の弾を生成し撃ち出す魔法だ。それをまともに受けてもなお、男は余裕の表情を見せていた……
「無駄なことですよ」
男が手をかざすと、見えない壁のようなものが生成される。俺の放った攻撃は全て防がれてしまった……だがそれでいい。これは牽制に過ぎないのだから……
「ルシア! 今だ!」
俺は合図を送ると同時に後方へ下がる。それと同時にルシアが魔法を発動した。
「【稲妻の槍(サンダースピア)】!」
凄まじい雷鳴と共に稲妻が男に向かって降り注いだ。直撃した男は絶叫を上げながら倒れ伏す。しかしそれでもなお、男は生きていた。
「馬鹿な……この私が負けるなど……」
男が立ち上がろうとするも、既に満身創痍であり立ち上がることができないようだった。俺はゆっくりと近づいていくと、男に語りかける。
「抵抗しなければ命までは取らない」
俺の言葉を聞いた男はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうですか……では最後に一つだけ教えて差し上げましょう……」
男の口が僅かに動くと、声が聞こえた。それは意味のある言葉ではない、ただの音だ。だが何かを伝えようとしていることだけはわかった……そして男は動かなくなると完全に絶命してしまったのだった……
「アーク様……」
ルシアが不安そうな表情を浮かべている。俺は彼女の手を握ると言った。
「大丈夫だ、心配するな」
そう言って微笑みかけるも彼女はまだ不安そうにしていた。俺はそんな彼女の額に優しく口づけをすると、ぎゅっと抱きしめてやる……するとようやく落ち着いたようだ。
「帰ろうか……」
俺の言葉にルシアは小さくうなずいたのだった……
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