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第114話 俺、アーサーの世界を変える

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「じゃアルジャ・岩本、ドッペルゲンガー君よろしく」
「うん、良いよ。設定はどうする?」
「単純に的が欲しいだけだから特になしでいい」

 アーサーと俺の5メートル程先の空中に白い魔法陣が浮き上がっており、ドッペルゲンガーが出現したのを確認。

「よっしゃ、アーサー今から教える技なんだけど俺の師匠の技なんだけどさ」
「お師匠様のお師匠様の技!?」

 アーサーは目ン玉をひん剝き俺の顔ガン見しつつ半口を開け停止している。

「ガンブレードエンディミオンを使いたいなら裏技・・を使わないととてもじゃないけど扱えないんだ。それだけこの剣はピーキーなんだ。試しに振ってみ?」
「わかりました!」

 アーサーはガンブレードエンディミオンを両手で構え、上段から勢いよく振り下ろす動作を何度か続ける。

「くッ……」
「どう? どう感じた?」

 アーサーは手を止め肩で息をし、苦しそうな表情を見せた。

「構えている時や下ろす瞬間は何ともないんですが、下ろし終わるとまるで腕が鉛になった様に重くなります。これはツヴァイハンダーですか」
「確かに普通の剣より気持ち長めだが特に定義はない。お前がツヴァイハンダーとして使いたいならそう使ってもいい。柄に魔力を少しで良いから流してみ?」
「柄に魔力ですか」

 アーサーがそう言うと彼の持つ剣の柄が斜めに変形し、刀身が2つに割れ銃身が出現する。銃口からオレンジ色の光が徐々に強まっていく。
 俺はアーサーの後ろに一瞬で移動し、彼の両肩を両手でしっかり支える。

「えっ! ど、どうすれば良いですか? 急に形が!」
「まっすぐドッペルゲンガー君を狙え? 良いからお前はしっかり持って的に当てる事だけを考えろ」
「ハイ!」

 そうしてアーサーがドッペルゲンガーに狙いを付けるとオレンジ色の長いレーザーまるで大蛇がうねるが如くめちゃくちゃな軌道を描きながらも的にしっかりと命中を続け、光が収まると黒焦げとなった的が煙を上げながら膝をつきそのまま倒れた。

 相変わらずこの剣はほんとにめちゃくちゃだな。アーサーの顔の固まり様よ。

「こ、この衝撃は……」
「ヤバかっただろ? 言っとくけど俺が支えなかったらお前後ろにふっ飛んで壁に激突してたからな?」
「あの鉛の様な復帰時の重さ。そしてこの衝撃。僕にはこの剣は……扱え――」
「――ない事はないんだなこれが」
「本当ですか!?」
「さっき言ったでしょ。裏技使わないと扱えないって。お前がガン形態のエンディミオンを構える前、俺が後ろに一瞬で移動したでしょ? その技を今から教えるから」
「でも、それとこの剣の扱いに関係が?」
「まぁ、いいからいいから。動くなよ」

 俺はアーサーの頭に手を置きあるスキルを伝授させる。

「はい、準備完了」
「このスキルは?」
「良いか? この【瞬歩しゅんほ】というスキルはある一定の距離を一瞬で移動できる様になる。まぁ色々な意味で便利な技なんだわ。1回試しに使ってみ?」
「ハイ」

 アーサーの姿がかき消え1メートル程離れた所に姿を現した。

「はい、もう一度使ってもどってきて」

 彼の姿が消え俺の前に現れる。

「お見事。言っとくが瞬歩は溜めれば溜めるほど遠くに一瞬で移動できるぞ。まぁその分お前の魔力をコストにつかうけど」
「は、はぁ」

 彼は煮え切らない表情を見せる。

「わかってるぞ。これのどこが剣を扱うのに役立つのか? そう思ったよな。三度みたび言うけど裏技だからな。こっからが本番なんだよ。ちょっと剣貸して」

 アーサーから剣を受け取り、アーサーと同じく剣を上段から振り下ろす。

「一緒の様に見えます」
「ほんとぉ?」

 再び剣を構えアーサーに見せる為にほんの少しゆっくり切り下ろし、袈裟斬り、横薙ぎを連続で行った。

「ど、どうしてですか? やっぱりお師匠様の方が腕力が強いから?」
「いいや? 違う。いいかアーサー。これはいわゆる硬直ディレイと呼ばれるものだ」
「硬直?」
「そう。これは全職業生きとし生ける冒険者全てが平等に抱える問題だ。アーサーダンガンを出現させて撃つとどうなる?」
「銃口が少し上に向いて再び撃つのに少し時間がかかります」
「そう! それも硬直なんだよ。剣を振り下ろして再び構えるのもダンガンが撃てるようになるのも、この世の動作の終わり・・・・・・なの。これは俺だって例外じゃない。俺が普通にガンブレードエンディミオンを振ればお前とまったく同じ結果が待ってる。で、もしこのディレイを全くなくす方法があったとしたら?」
「ま、まさか……」
「――そのまさかだ! 何と瞬歩を使うとディレイを強制キャンセルできる様になっちまうんだ! しかもチョー簡単! 一瞬使ってやめるだけ! 更に更にィ消費される魔力はゼロという燃費の良さ! さ、もう一度剣を構えて、今度は瞬歩を一瞬起動させてから速攻でやめて振ってみ?」

 アーサーは剣先程と全く同じ動作で剣を振り下ろしすぐに剣が構えていた位置へと戻る。

「すごい……さっきまでの腕の重さが嘘の様です」
「じゃあ次、撃ってみようか。あの衝撃もディレイだから」

 アーサーは鞘を斜めにし銃へと形態を変形させ、真っ直ぐ前を見つめ、銃口から放たれたレーザーは一直線に線を描きコロッセオの壁にぶつかると大爆発を起こした。

「ナイスぅ! これが全ディレイを殺す超絶バランスブレイカーな裏技! 名付けて【瞬キャン】の全てだ! お前はもうこれから先、一切の硬直を気にせずバッカンバッカン銃撃てるし凄まじいスピードで剣を振るう事が可能となった! この裏技を知っているかいないかでは世界観違って見えるからな。もうダンガンを瞬キャン使って撃つとドババっと相手を蜂の巣どころの騒ぎじゃないよ。ボロ絹みたいにできちゃうから」

 まぁその分速攻で撃ち終わっちゃうからMPもドバドバ減ってくんだけどな。

「お師匠様ありがとうございます!」
「元気な返事イイゾ~コレ。あ、ちなみにガン形態のエンディミオンは空気中の二酸化炭素を取り込んで撃ってるからノーコストどこか環境に良いとか言うクッソどうでもいい特徴があるゾ。よぉし、今日のレクチャーはお終い! 明日に備えて寝ろ!」
「ハイ! おやすみなさい!」

 アーサーは後ろに振り向き出て行く所で俺はある事を思い出した。

「あー! 待て待て! こいつを渡すの忘れてた」
「え、なんですか?」

 振り返ったアーサーに対しインベントリを開き、白い四角形ボックスを彼の前まで持っていきタップする。
すると俺の手に黒色の牛革製ガンベルトが出現し、アーサーに向かって放り投げる。キャッチしたアーサーはマジマジと銃のホルスターを観察している。

「アーサー、良いかそいつは【ガン】と名の付いた武器専用の鞘みたいなもんだ。ガンブレードエンディミオンをホルスターに近づけてみろ」
「この垂れ下がっている出っ張りみたいなものに剣を近づけるんですか?」

 俺が頷くとアーサーはレッグホルスターに剣を恐る恐る近づけ、彼の手から剣が消え失せるとホルスターには黒いグリップのリボルバーが収まっていた。

「剣が……」
「よしアーサー、剣を抜いてみろ」
「どうすればいいんですか」
「この剣を使いたいなーって思えば良いんだよ。それでその太ももに固定されたホルスターから自動的に剣が抜けるから。実際に収まっている奴を抜く必要はないぞ。それは言わばただの格好つけ・・・・だから」
「わかりました」

 ホルスターから銃がかき消え、アーサーの側で剣が宙に浮き横にゆっくりと回転している。彼は剣を手に取り、横に縦に異常な素早さで剣を振るとホルスターに剣を近づけて、小さくため息をついた。

「出っ張りはレッグホルスターと言って、鞘の邪魔にならない様になっている。似合っているぞアーサー」
「お師匠様ありがとうございます! 使いこなしてみせます!」

 俺から離れ、一気に階段を駆け上がり彼はコロッセオから出ていった。

「よし、俺も戻るか」


 ジャンプしアルジャ・岩本の隣へ着地した。

「お疲れ~」
「おう、乙」
「ねぇ聞きたいんだけどさ」
「なに?」
「どうして同じ剣士のエスカさんには例の裏技教えてあげないんだい? あれだけテンション高めにバランスブレイカーって言ってたし、どう客観的に考えても2人一緒に教えて上げたほうがいいじゃないかい?」
「あぁ、その事か。あの技はエスカをハブにしたんじゃない。恐らくアーサーにしか覚えられんと思ったからだ。お前わざと言ってるだろ」
「……流石、もう気づいてた?」

 なんでニヤついてんだよ。戸棚お菓子見つけた親みたいなトーンで言いやがって。

「あいつって多分全ジョブの全装備とかアクセサリーとか装備できて、技も全部おぼえられるんだろ」
「そうだよ。それが勇者の特権ってやつだからね」
「やっぱりな。全くあいつがロボットの腕装備であるシルバリオンを着装できた時は内心ビビったわ。じゃ行こうぜ」

 俺とアルジャ・岩本はコロッセオを後にした。
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