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「ジーク様、朝からご苦労様です」
「ああ、リーゼか。お前も朝の訓練か?」
「えへへ。そうなんです……って言いたいところなんですけど、実はちょっと寝坊しちゃって」
「はは、リーゼらしいな」
二人の楽しそうに話す声が、はっきりとオリヴィアの耳には届いていた。
先程までの嬉しそうに綻んでいた表情は崩れ、今は戸惑った顔色へと変化している。
それでも奥の様子が気になり、オリヴィアは物陰から顔を覗かせてみることにした。
すると表情を崩しながら笑っているジークヴァルトの姿が、オリヴィアの瞳の中に映し出される。
その光景を目の前にして、ドクドクと鼓動の音が鳴り響く。
ジークヴァルトの今の表情は、きっと作り物の笑顔なんかではない。
あれは本心から楽しんでいる顔だ。
(どうして、そんな態度をとられているの……? それにジーク様の顔……)
ジークヴァルトは王太子で、リーゼルは男爵令嬢。
身分が違い過ぎる。
学園内では身分は平等とされているため、百歩譲ってジークヴァルトが下位貴族に気兼ねなく接しているのだと考えてもまだ納得が出来ない。
二ヶ月前までオリヴィアはジークヴァルトの傍にいた。
彼の傍にいたから、ジークヴァルトの他者達への態度はある程度理解していた。
オリヴィアの知る限りでは、親しい間柄でない者に対して、愛称呼びを許すなんてことは絶対になかった。
それなのに当然のように彼女の名前を愛称で呼び、己も同じように呼ばせている。
(どうして、ジーク様と呼ぶことをお許しになられたのですか。あれはわたしが特別だからではなかったの……?)
楽しそうに響いてくる会話とは裏腹に、オリヴィアの心は揺れて、不安から彼女の手はカタカタと震え始めていた。
「もうっ! そんなに笑わないでくださいよっ! これでも頑張って起きようとはしたんですからっ……、一応は」
「またメイドを困らせたのか?」
「うぅっ……」
「無理をしてまで、朝の訓練をする必要はないのではないか?」
「朝の訓練に参加していれば、周りも『おっ、頑張っているな!』と思ってくれそうですし、それに少しでもジーク様に近づきたいのもあるから」
「振りだけでは、何の成長にも繋がらないと思うが」
「うわぁ、厳しい意見」
「当然だ。リーゼのためだと思って言っているのだからな。助言とでも思ってくれ」
リーゼルは感情を隠すことなく表に出し、表情をころころと変えながら喋っている。
それに対してジークヴァルトは一切咎めることもなく、リーゼルに同調するかのように言葉を返していた。
傍からから見たらかなり異様な光景だ。
親しい間柄であるオリヴィアの前であっても、ここまで砕けた態度のジークヴァルトはあまり見たことがない。
(なによ……これ……)
目の前にいるのはオリヴィアの知っているジークヴァルトのはずなのに、別の人間を見ているような不思議な気分すら感じて来てしまう。
何よりもそんな姿をオリヴィアではなく、別の令嬢に向けられているということに、彼女の心は締め付けられる様な苦しさを覚えた。
「わかっていますっ! でも少しづつでも認めてもらいたいから……って、あ……。オリヴィア様、ですよね?」
「リヴィ……?」
そんな時、不意にリーゼルと目が合ってしまう。
オリヴィアは動揺から、隠れていることを忘れていたようだ。
リーゼルがオリヴィアの名前を出すと、ジークヴァルトの表情が驚きの色へと変わる。
「ああ、リーゼか。お前も朝の訓練か?」
「えへへ。そうなんです……って言いたいところなんですけど、実はちょっと寝坊しちゃって」
「はは、リーゼらしいな」
二人の楽しそうに話す声が、はっきりとオリヴィアの耳には届いていた。
先程までの嬉しそうに綻んでいた表情は崩れ、今は戸惑った顔色へと変化している。
それでも奥の様子が気になり、オリヴィアは物陰から顔を覗かせてみることにした。
すると表情を崩しながら笑っているジークヴァルトの姿が、オリヴィアの瞳の中に映し出される。
その光景を目の前にして、ドクドクと鼓動の音が鳴り響く。
ジークヴァルトの今の表情は、きっと作り物の笑顔なんかではない。
あれは本心から楽しんでいる顔だ。
(どうして、そんな態度をとられているの……? それにジーク様の顔……)
ジークヴァルトは王太子で、リーゼルは男爵令嬢。
身分が違い過ぎる。
学園内では身分は平等とされているため、百歩譲ってジークヴァルトが下位貴族に気兼ねなく接しているのだと考えてもまだ納得が出来ない。
二ヶ月前までオリヴィアはジークヴァルトの傍にいた。
彼の傍にいたから、ジークヴァルトの他者達への態度はある程度理解していた。
オリヴィアの知る限りでは、親しい間柄でない者に対して、愛称呼びを許すなんてことは絶対になかった。
それなのに当然のように彼女の名前を愛称で呼び、己も同じように呼ばせている。
(どうして、ジーク様と呼ぶことをお許しになられたのですか。あれはわたしが特別だからではなかったの……?)
楽しそうに響いてくる会話とは裏腹に、オリヴィアの心は揺れて、不安から彼女の手はカタカタと震え始めていた。
「もうっ! そんなに笑わないでくださいよっ! これでも頑張って起きようとはしたんですからっ……、一応は」
「またメイドを困らせたのか?」
「うぅっ……」
「無理をしてまで、朝の訓練をする必要はないのではないか?」
「朝の訓練に参加していれば、周りも『おっ、頑張っているな!』と思ってくれそうですし、それに少しでもジーク様に近づきたいのもあるから」
「振りだけでは、何の成長にも繋がらないと思うが」
「うわぁ、厳しい意見」
「当然だ。リーゼのためだと思って言っているのだからな。助言とでも思ってくれ」
リーゼルは感情を隠すことなく表に出し、表情をころころと変えながら喋っている。
それに対してジークヴァルトは一切咎めることもなく、リーゼルに同調するかのように言葉を返していた。
傍からから見たらかなり異様な光景だ。
親しい間柄であるオリヴィアの前であっても、ここまで砕けた態度のジークヴァルトはあまり見たことがない。
(なによ……これ……)
目の前にいるのはオリヴィアの知っているジークヴァルトのはずなのに、別の人間を見ているような不思議な気分すら感じて来てしまう。
何よりもそんな姿をオリヴィアではなく、別の令嬢に向けられているということに、彼女の心は締め付けられる様な苦しさを覚えた。
「わかっていますっ! でも少しづつでも認めてもらいたいから……って、あ……。オリヴィア様、ですよね?」
「リヴィ……?」
そんな時、不意にリーゼルと目が合ってしまう。
オリヴィアは動揺から、隠れていることを忘れていたようだ。
リーゼルがオリヴィアの名前を出すと、ジークヴァルトの表情が驚きの色へと変わる。
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