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「あ、あの……」
「来ていたんだな。おはよう、リヴィ」
ジークヴァルトの瞳がオリヴィアを捉えると、優しい表情へと変わっていく。
「おはようございます、ジーク様。それにリーゼル様」
オリヴィアはぎこちない声で挨拶を返した。
普段なら凜々しい態度で振る舞えるのだが、今はそんな風に意識する余裕はオリヴィアにはなかった。
それ程までにオリヴィアは動揺していた。
「今日の体調はどうだ? 無理はしていないか?」
「わたしならもう大丈夫です。二ヶ月もの間、休養を取らせて頂きましたから。王妃教育もその間止めてしまって、本当に申し訳なく思っています」
「そのことはいい。そんなことよりもリヴィの体の方が大切だ」
「……っ」
ジークヴァルトの表情を見ていると、本気で心配してくれているよう感じてしまう。
昨日感じた違和感は、気のせいだったのだろうか。
二か月前と変ることなく、自分のことを気に掛けてくれる姿にオリヴィアの胸は高鳴っていく。
その感情を胸に押させながら、オリヴィアは続けた。
「今日からでも王妃教育を再開して貰おうかと思っています」
「リヴィ、そのことなんだが……。暫くの間、王妃教育はやらなくていい」
「……え? どういう、こと、ですか……?」
「リヴィが王都を離れている間に、少し事情が変わったんだ」
オリヴィアが戸惑った声で問いかけると、ジークヴァルトは一瞬表情を曇らせた。
そして含んだような言い方をした。
(王妃教育をしなくていいって……どうして?)
「リヴィはこの機会に、もう少しのんびりと学園生活を送っていたらいい。王妃教育が再開したら、また大変になるのだからな」
「わたしの体のことを心配して頂けるのは有り難いのですが、ただでさえ遅れているのに、これ以上遅らせてしまったら……」
オリヴィアが困惑した面持ちで答えると、ジークヴァルトは彼女の両肩に手を添えて、瞳の奥をじっと見つめた。
突然碧色の瞳に囚われ、オリヴィアの鼓動はドキドキと鳴り始める。
「私はリヴィの体のことが何よりも心配なんだ。リヴィはいつだって進んで無理ばかりしようとするから……。今は私の言うことを大人しく受け入れて欲しい」
「……ジーク様」
「いいね」
「……はい」
そんな風に言われてしまうと、オリヴィアは何も言えなくなってしまう。
良く知っている優しい瞳を感じることが出来て、心の中に出来た不安も払拭しかけていた。
「あのぉ、お取り込み中のところ申し訳ないのですが、私の存在をお忘れではありませんかー?」
「あ、そういえばいたな」
控えめな声が横から響いてきて、二人はリーゼルの方へと視線を向けた。
オリヴィアはこの一部始終を見られていたのだと思うと急に恥ずかしくなり、リーゼルからすぐに視線を外してしまう。
しかしジークヴァルトは思い出したかのように小さく呟いた。
「うわぁっ、酷っ!」
「リーゼは気配を消すのが得意なんだな」
「ええー? それって褒めてますか? なんか違うような気もしますけど」
「褒めてはいないな」
「やっぱり……。分かっていましたよ。ジーク様は意地悪ですもんねっ!」
「リーゼは面白いからな」
ジークヴァルトは表情を崩しながらクスクスと笑っていた。
心の底から面白がっているように見えて、オリヴィアは驚いたように彼の顔を眺めていた。
そんな時ジークヴァルトと目が合ってしまう。
「リヴィ? どうした?」
「……ジーク様は、そのように笑われるのですね」
「あ……、まあ、な」
オリヴィアの言葉にジークヴァルトの表情が歪む。
何かまずいことでも言ったのだろうかと、オリヴィアは僅かに眉を寄せた。
「婚約者であるお二人の邪魔をしたら悪いと思うので、邪魔者は退散しますねっ」
「そこまでは言っていない」
「お気遣いなく。それではオリヴィア様、失礼します。あ、ジーク様も」
「私はついでか」
リーゼルが去ると、この場が急に静かになったように感じた。
まるで嵐のような人だなとオリヴィアは思っていた。
「あの……」
「どうした?」
オリヴィアはジークヴァルトの顔をじっと見つめながら声をかけた。
「リーゼル様とは随分仲良さそうに見えましたけど、どういった関係で?」
「あ、ああ……。昨日はあまり説明をしていなかったな。とりあえず立ち話も何だから、向こうで話そうか」
先程は動揺した態度を取ってしまったが、少し正常心を取り戻したことで、オリヴィアは素直に気になっていることを問いかけた。
ジークヴァルトは奥に見えるベンチに視線を向けた。
「わたしは立ち話でも構いません」
「そうはいかない。リヴィを朝から疲れさせたりなんて出来ないからな」
「……っ、気を遣い過ぎです。わたしならもうこのように、体調だって……」
「それだけリヴィのことが大切だってことだ」
そんな言い方はずるいとオリヴィアは思っていた。
だけど直ぐに手を繋がれて、強引にジークヴァルトは歩き出した。
掌から感じる、久しぶりのジークヴァルトの体温にオリヴィアはドキドキしてしまう。
「さあ、行こうか」
「……はい」
オリヴィアは仕方なく従い、ベンチに並ぶようにして腰掛けた。
今はジークヴァルトとリーゼルの関係について、聞かなくてはならない。
そうしなければ、オリヴィアの心はいつまでたっても平穏には戻らないはずだ。
「来ていたんだな。おはよう、リヴィ」
ジークヴァルトの瞳がオリヴィアを捉えると、優しい表情へと変わっていく。
「おはようございます、ジーク様。それにリーゼル様」
オリヴィアはぎこちない声で挨拶を返した。
普段なら凜々しい態度で振る舞えるのだが、今はそんな風に意識する余裕はオリヴィアにはなかった。
それ程までにオリヴィアは動揺していた。
「今日の体調はどうだ? 無理はしていないか?」
「わたしならもう大丈夫です。二ヶ月もの間、休養を取らせて頂きましたから。王妃教育もその間止めてしまって、本当に申し訳なく思っています」
「そのことはいい。そんなことよりもリヴィの体の方が大切だ」
「……っ」
ジークヴァルトの表情を見ていると、本気で心配してくれているよう感じてしまう。
昨日感じた違和感は、気のせいだったのだろうか。
二か月前と変ることなく、自分のことを気に掛けてくれる姿にオリヴィアの胸は高鳴っていく。
その感情を胸に押させながら、オリヴィアは続けた。
「今日からでも王妃教育を再開して貰おうかと思っています」
「リヴィ、そのことなんだが……。暫くの間、王妃教育はやらなくていい」
「……え? どういう、こと、ですか……?」
「リヴィが王都を離れている間に、少し事情が変わったんだ」
オリヴィアが戸惑った声で問いかけると、ジークヴァルトは一瞬表情を曇らせた。
そして含んだような言い方をした。
(王妃教育をしなくていいって……どうして?)
「リヴィはこの機会に、もう少しのんびりと学園生活を送っていたらいい。王妃教育が再開したら、また大変になるのだからな」
「わたしの体のことを心配して頂けるのは有り難いのですが、ただでさえ遅れているのに、これ以上遅らせてしまったら……」
オリヴィアが困惑した面持ちで答えると、ジークヴァルトは彼女の両肩に手を添えて、瞳の奥をじっと見つめた。
突然碧色の瞳に囚われ、オリヴィアの鼓動はドキドキと鳴り始める。
「私はリヴィの体のことが何よりも心配なんだ。リヴィはいつだって進んで無理ばかりしようとするから……。今は私の言うことを大人しく受け入れて欲しい」
「……ジーク様」
「いいね」
「……はい」
そんな風に言われてしまうと、オリヴィアは何も言えなくなってしまう。
良く知っている優しい瞳を感じることが出来て、心の中に出来た不安も払拭しかけていた。
「あのぉ、お取り込み中のところ申し訳ないのですが、私の存在をお忘れではありませんかー?」
「あ、そういえばいたな」
控えめな声が横から響いてきて、二人はリーゼルの方へと視線を向けた。
オリヴィアはこの一部始終を見られていたのだと思うと急に恥ずかしくなり、リーゼルからすぐに視線を外してしまう。
しかしジークヴァルトは思い出したかのように小さく呟いた。
「うわぁっ、酷っ!」
「リーゼは気配を消すのが得意なんだな」
「ええー? それって褒めてますか? なんか違うような気もしますけど」
「褒めてはいないな」
「やっぱり……。分かっていましたよ。ジーク様は意地悪ですもんねっ!」
「リーゼは面白いからな」
ジークヴァルトは表情を崩しながらクスクスと笑っていた。
心の底から面白がっているように見えて、オリヴィアは驚いたように彼の顔を眺めていた。
そんな時ジークヴァルトと目が合ってしまう。
「リヴィ? どうした?」
「……ジーク様は、そのように笑われるのですね」
「あ……、まあ、な」
オリヴィアの言葉にジークヴァルトの表情が歪む。
何かまずいことでも言ったのだろうかと、オリヴィアは僅かに眉を寄せた。
「婚約者であるお二人の邪魔をしたら悪いと思うので、邪魔者は退散しますねっ」
「そこまでは言っていない」
「お気遣いなく。それではオリヴィア様、失礼します。あ、ジーク様も」
「私はついでか」
リーゼルが去ると、この場が急に静かになったように感じた。
まるで嵐のような人だなとオリヴィアは思っていた。
「あの……」
「どうした?」
オリヴィアはジークヴァルトの顔をじっと見つめながら声をかけた。
「リーゼル様とは随分仲良さそうに見えましたけど、どういった関係で?」
「あ、ああ……。昨日はあまり説明をしていなかったな。とりあえず立ち話も何だから、向こうで話そうか」
先程は動揺した態度を取ってしまったが、少し正常心を取り戻したことで、オリヴィアは素直に気になっていることを問いかけた。
ジークヴァルトは奥に見えるベンチに視線を向けた。
「わたしは立ち話でも構いません」
「そうはいかない。リヴィを朝から疲れさせたりなんて出来ないからな」
「……っ、気を遣い過ぎです。わたしならもうこのように、体調だって……」
「それだけリヴィのことが大切だってことだ」
そんな言い方はずるいとオリヴィアは思っていた。
だけど直ぐに手を繋がれて、強引にジークヴァルトは歩き出した。
掌から感じる、久しぶりのジークヴァルトの体温にオリヴィアはドキドキしてしまう。
「さあ、行こうか」
「……はい」
オリヴィアは仕方なく従い、ベンチに並ぶようにして腰掛けた。
今はジークヴァルトとリーゼルの関係について、聞かなくてはならない。
そうしなければ、オリヴィアの心はいつまでたっても平穏には戻らないはずだ。
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