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「それで、あといくつ作るつもりなの?」
「え……? あと十個ほど」
突然話題を変えられて、油断していたこともありオリヴィアは素直に答えてしまう。
するとイヴァンはオリヴィアの前に置かれている道具を、自分の方へと移動した。
「僕も手伝うよ。魔法ほど魔力は消費されないけど、二十個も作ったらオリヴィア嬢の魔力はすっからかんでしょ?」
「すっからかん……ふふっ」
聞き慣れないその言葉が妙に面白く思えて、オリヴィアの口元からは小さな笑いが漏れた。
「あ、笑った。なに? すっからかんって言葉にツボちゃった?」
「そんな言葉、普段耳にしなかったので……つい」
オリヴィアは慌てるようにして自分の口元を手で隠した。
「たしかに君であれば納得だな。気に入ったのなら自由に使って良いよ」
「使いません!」
冗談交じりに言って来るイヴァンに対して、オリヴィアは即答で拒否した。
面白く感じるが、こんな言葉は淑女には不釣合いだ。
使うにしても場所を考えなくてはならない。
「僕が残りを作っている間に、君はこれを飲んでおいて」
「これって……」
イヴァンは制服のポケットから小さな赤い液体が入った瓶を取り出すと、机の上に置いた。
「そう、これは魔力回復薬」
「これを飲んだらまた二十個作れる……」
オリヴィアはぽつりと呟いた。
「ダメだよ。今日はこれ以上薬を作るのは禁止!」
「ですが……、それでは何のためにこれを飲むのですか?」
オリヴィアがきょとんとした顔で答えると、イヴァンは盛大にため息を漏らした。
「君の体のために決まってる。今日はもう魔力を使う予定が無いにしても、使い切った状態では体が怠いだろう。君はもっと自分の体のことを労るべきだ。じゃないと、……悲しむ人がいる」
「それは……、誰のことですか?」
「まあ、いるってことだよ。兎に角! それを飲んでから帰って貰うからね」
「……分かりました」
イヴァンに強く押し切られてしまい、オリヴィアは渋々従うことにした。
悲しむ人という言葉を聞いて、真っ先に頭に思い浮かんだのは父親の顔だった。
「ありがとうございます、イヴァン様」
「分かってくれたなら良かった。少し強引にはなってしまったけど、受け入れてくれて良かった。ありがとう」
結局残りの十個は全てイヴァンが作ってくれた。
オリヴィアはそれを奥の準備室にしまうと教室から出た。
放課後この教室を使うことは事前に許可を得ており、薬の保管についても伝えてある。
こんなものを邸に持ち帰ってしまえば、またあらぬ心配をかけてしまうかもしれない。
ここでのことはオリヴィアだけの秘密にしてある。
「今日はお手伝い、ありがとうございました」
「お礼はいらないよ。勝手にやったことだしね。明日も作るつもりなら、また手伝いに来るね」
「それはっ……」
「当たりかな。それじゃあ決まりだね」
またしてもイヴァンに押し切られてしまう。
「オリヴィア嬢、僕はこれから少し用事があるからここで。また明日ね」
イヴァンはへらりと緩く笑うと、掌をひらひらと振ってオリヴィアの前から去って行った。
(イヴァン様って、意外と強引な方なのね……)
オリヴィアの中でイヴァンの印象が少し変わった。
お節介な人だと思ってしまったが、オリヴィアの表情はどこか明るかった。
***
オリヴィアは外に待たせている馬車に乗って帰るために、校舎を出て乗り場へと向けて歩いていた。
すると進行方向の先に、見慣れた姿が視界に入る。
そこにいたのは今噂の渦中にいる人物、リーゼルだった。
(リーゼル様……? どうしてここに……)
オリヴィアは何故こんな場所にリーゼルの姿があるのだろうと不思議に思い、周囲に視線を巡らせた。
しかし授業が終わってから大分時間が経っていることもあり、この辺りには生徒の姿はひとりも見当たらない。
もしかしてジークヴァルトを待っているのだろうかと思うと、少し胸の奥がざわついた。
オリヴィアが更に進んでいくと、リーゼルも彼女の存在に気付いたようだ。
「リーゼルさん……? こんなところでどうしたの? もしかしてジーク様を待っているの?」
「違います。ジーク様はもう王宮にお戻りになられてます」
「それなら……、馬車を待っているの?」
オリヴィアが再度問うと、リーゼルは首を小さく横に振った。
「私、オリヴィア様を待ってました!」
「わたしを……?」
オリヴィアは理由が分からず不思議そうな顔を浮かべた。
「あ、あのっ……私、オリヴィア様には伝えておいた方がいいと思って……」
「なにかしら?」
先程から、リーゼルは緊張しているのか顔が強ばっているように見える。
二人は一度しか顔を合わせたことが無い。
初対面の時はそんなことを感じさせない程、砕けた態度を取っていたのに、その変わりように少し驚いてしまう。
「私……、ジーク様のこと、好きになっちゃったみたいです!」
「……え?」
オリヴィアは耳を疑った。
そしてみるみるうちに、彼女の顔からは表情が消えていく。
(この子は、一体何を言っているの……?)
「え……? あと十個ほど」
突然話題を変えられて、油断していたこともありオリヴィアは素直に答えてしまう。
するとイヴァンはオリヴィアの前に置かれている道具を、自分の方へと移動した。
「僕も手伝うよ。魔法ほど魔力は消費されないけど、二十個も作ったらオリヴィア嬢の魔力はすっからかんでしょ?」
「すっからかん……ふふっ」
聞き慣れないその言葉が妙に面白く思えて、オリヴィアの口元からは小さな笑いが漏れた。
「あ、笑った。なに? すっからかんって言葉にツボちゃった?」
「そんな言葉、普段耳にしなかったので……つい」
オリヴィアは慌てるようにして自分の口元を手で隠した。
「たしかに君であれば納得だな。気に入ったのなら自由に使って良いよ」
「使いません!」
冗談交じりに言って来るイヴァンに対して、オリヴィアは即答で拒否した。
面白く感じるが、こんな言葉は淑女には不釣合いだ。
使うにしても場所を考えなくてはならない。
「僕が残りを作っている間に、君はこれを飲んでおいて」
「これって……」
イヴァンは制服のポケットから小さな赤い液体が入った瓶を取り出すと、机の上に置いた。
「そう、これは魔力回復薬」
「これを飲んだらまた二十個作れる……」
オリヴィアはぽつりと呟いた。
「ダメだよ。今日はこれ以上薬を作るのは禁止!」
「ですが……、それでは何のためにこれを飲むのですか?」
オリヴィアがきょとんとした顔で答えると、イヴァンは盛大にため息を漏らした。
「君の体のために決まってる。今日はもう魔力を使う予定が無いにしても、使い切った状態では体が怠いだろう。君はもっと自分の体のことを労るべきだ。じゃないと、……悲しむ人がいる」
「それは……、誰のことですか?」
「まあ、いるってことだよ。兎に角! それを飲んでから帰って貰うからね」
「……分かりました」
イヴァンに強く押し切られてしまい、オリヴィアは渋々従うことにした。
悲しむ人という言葉を聞いて、真っ先に頭に思い浮かんだのは父親の顔だった。
「ありがとうございます、イヴァン様」
「分かってくれたなら良かった。少し強引にはなってしまったけど、受け入れてくれて良かった。ありがとう」
結局残りの十個は全てイヴァンが作ってくれた。
オリヴィアはそれを奥の準備室にしまうと教室から出た。
放課後この教室を使うことは事前に許可を得ており、薬の保管についても伝えてある。
こんなものを邸に持ち帰ってしまえば、またあらぬ心配をかけてしまうかもしれない。
ここでのことはオリヴィアだけの秘密にしてある。
「今日はお手伝い、ありがとうございました」
「お礼はいらないよ。勝手にやったことだしね。明日も作るつもりなら、また手伝いに来るね」
「それはっ……」
「当たりかな。それじゃあ決まりだね」
またしてもイヴァンに押し切られてしまう。
「オリヴィア嬢、僕はこれから少し用事があるからここで。また明日ね」
イヴァンはへらりと緩く笑うと、掌をひらひらと振ってオリヴィアの前から去って行った。
(イヴァン様って、意外と強引な方なのね……)
オリヴィアの中でイヴァンの印象が少し変わった。
お節介な人だと思ってしまったが、オリヴィアの表情はどこか明るかった。
***
オリヴィアは外に待たせている馬車に乗って帰るために、校舎を出て乗り場へと向けて歩いていた。
すると進行方向の先に、見慣れた姿が視界に入る。
そこにいたのは今噂の渦中にいる人物、リーゼルだった。
(リーゼル様……? どうしてここに……)
オリヴィアは何故こんな場所にリーゼルの姿があるのだろうと不思議に思い、周囲に視線を巡らせた。
しかし授業が終わってから大分時間が経っていることもあり、この辺りには生徒の姿はひとりも見当たらない。
もしかしてジークヴァルトを待っているのだろうかと思うと、少し胸の奥がざわついた。
オリヴィアが更に進んでいくと、リーゼルも彼女の存在に気付いたようだ。
「リーゼルさん……? こんなところでどうしたの? もしかしてジーク様を待っているの?」
「違います。ジーク様はもう王宮にお戻りになられてます」
「それなら……、馬車を待っているの?」
オリヴィアが再度問うと、リーゼルは首を小さく横に振った。
「私、オリヴィア様を待ってました!」
「わたしを……?」
オリヴィアは理由が分からず不思議そうな顔を浮かべた。
「あ、あのっ……私、オリヴィア様には伝えておいた方がいいと思って……」
「なにかしら?」
先程から、リーゼルは緊張しているのか顔が強ばっているように見える。
二人は一度しか顔を合わせたことが無い。
初対面の時はそんなことを感じさせない程、砕けた態度を取っていたのに、その変わりように少し驚いてしまう。
「私……、ジーク様のこと、好きになっちゃったみたいです!」
「……え?」
オリヴィアは耳を疑った。
そしてみるみるうちに、彼女の顔からは表情が消えていく。
(この子は、一体何を言っているの……?)
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