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1.報われない初恋
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「ヘレナ、……すまない」
「お父様?」
私は帰宅後、すぐ父の執務室に呼ばれ対面するようにソファーに腰を下ろした。
突然、訳も分からないまま謝られ、私は困惑した顔色を浮かべる。
私の名前はヘレナ・ブラント。
銀色の癖のない髪は腰ほどまであり、蜂蜜色の瞳は母譲りだ。
父は現国王の弟であり、ブラント公爵家に婿入り後も王宮で王の補佐をしている。
普段であれば、父はこの時間はまだ王宮にいる時間であるため、少し不思議に感じていた。
「頭をお上げくださいっ」
ゆっくりと上がった父の表情からは、なにか戸惑いのようなものを感じる。
その瞬間、きっと良くないことであることを私は察してしまった。
「ランベルト王太子殿下の婚約が決まった」
「え……」
私はその言葉に目を丸くさせた。
ランベルト・フォン・ノワール
彼はこの国の第一王子であり、王太子だ。
胸元まで伸びた金色のサラサラの髪に、宝石のような青い瞳。
見目麗しい容姿を持ち、聡明で頭の回転も速く、何をしても簡単に熟してしまう。
王子でありながら誰にでも分け隔てなく接し、男女共に慕われている存在だ。
私とは年も同じで従兄妹という関係柄、ランベルトとは幼い頃から一緒に過ごす機会がなにかと多かった。
そして、私が長年片思いを続けている相手でもある。
(う、そ……)
いつかこんな日が訪れることは覚悟していた。
だけど、余りにも突然過ぎて頭の中が真っ暗になる。
最初に父が謝ってきたことを考えれば、相手が私でないことは明白だ。
「相手はプライセル帝国の第一皇女、クラーラ姫だ」
「皇女……」
プライセル帝国といえば、この辺りでは一番の大国だ。
おそらく、裏では政治的な大きななにかが絡んでいるのだろう。
「それから、ヘレナの婚約も同時に決まった。相手は第二王子のブルーノ殿下だ」
「……っ!?」
衝撃は一度では終わらなかった。
私は驚きの余り言葉を失い、一人固まってしまう。
どうして、よりにもよってブルーノなのだろう。
彼は温厚なランベルトとは違い、いつも冷めている印象を受ける。
私を見つめる視線はいつも冷たく、嫌われていることが分かっていたから極力避けていた人間だ。
「ヘレナ、すまない。これはもう決定事項だ。王家はすでにヘレナを婚約者として受け入れる準備を始めている」
「……そんな、ブルーノ様だけは無理ですっ!」
私は必死な形相を浮かべて言い放つ。
なにを言っても無意味だということは分かっていたが、言わずにはいられなかった。
(ブルーノ様だけは絶対にだめ……。だって、カタリーナがずっと……)
カタリーナ・ライマン
伯爵令嬢であり、私に初めてできた同性の友達だ。
そして、彼女はブルーノを慕っている。
「貴族の婚姻は政略的な理由で結ばれることが多いのだと、ヘレナも分かっているだろう」
「それはっ……」
「本当はランベルト殿下と婚約させてやりたかったが、急にプライセル帝国の話が持ち上がって、トントン拍子に決まってしまったんだ」
「…………」
父の言葉を聞くと、私はなにも言えなくなってしまった。
私のためにランベルトとの婚約を進めようとしてくれた人間を、責められるはずがない。
それに、私は父のことを困らせたいわけでもなかった。
「決まったのは婚約だ。直ぐに婚姻を結ぶというものではない。少しづつで構わないから、この事実を受け入れなさい」
「……はい」
私の初恋は報われることなく終わりを迎えた。
それと同時に親友の慕っている相手との婚約が突然決まってしまい、私はこれからどうしたらいいのだろう。
「お父様?」
私は帰宅後、すぐ父の執務室に呼ばれ対面するようにソファーに腰を下ろした。
突然、訳も分からないまま謝られ、私は困惑した顔色を浮かべる。
私の名前はヘレナ・ブラント。
銀色の癖のない髪は腰ほどまであり、蜂蜜色の瞳は母譲りだ。
父は現国王の弟であり、ブラント公爵家に婿入り後も王宮で王の補佐をしている。
普段であれば、父はこの時間はまだ王宮にいる時間であるため、少し不思議に感じていた。
「頭をお上げくださいっ」
ゆっくりと上がった父の表情からは、なにか戸惑いのようなものを感じる。
その瞬間、きっと良くないことであることを私は察してしまった。
「ランベルト王太子殿下の婚約が決まった」
「え……」
私はその言葉に目を丸くさせた。
ランベルト・フォン・ノワール
彼はこの国の第一王子であり、王太子だ。
胸元まで伸びた金色のサラサラの髪に、宝石のような青い瞳。
見目麗しい容姿を持ち、聡明で頭の回転も速く、何をしても簡単に熟してしまう。
王子でありながら誰にでも分け隔てなく接し、男女共に慕われている存在だ。
私とは年も同じで従兄妹という関係柄、ランベルトとは幼い頃から一緒に過ごす機会がなにかと多かった。
そして、私が長年片思いを続けている相手でもある。
(う、そ……)
いつかこんな日が訪れることは覚悟していた。
だけど、余りにも突然過ぎて頭の中が真っ暗になる。
最初に父が謝ってきたことを考えれば、相手が私でないことは明白だ。
「相手はプライセル帝国の第一皇女、クラーラ姫だ」
「皇女……」
プライセル帝国といえば、この辺りでは一番の大国だ。
おそらく、裏では政治的な大きななにかが絡んでいるのだろう。
「それから、ヘレナの婚約も同時に決まった。相手は第二王子のブルーノ殿下だ」
「……っ!?」
衝撃は一度では終わらなかった。
私は驚きの余り言葉を失い、一人固まってしまう。
どうして、よりにもよってブルーノなのだろう。
彼は温厚なランベルトとは違い、いつも冷めている印象を受ける。
私を見つめる視線はいつも冷たく、嫌われていることが分かっていたから極力避けていた人間だ。
「ヘレナ、すまない。これはもう決定事項だ。王家はすでにヘレナを婚約者として受け入れる準備を始めている」
「……そんな、ブルーノ様だけは無理ですっ!」
私は必死な形相を浮かべて言い放つ。
なにを言っても無意味だということは分かっていたが、言わずにはいられなかった。
(ブルーノ様だけは絶対にだめ……。だって、カタリーナがずっと……)
カタリーナ・ライマン
伯爵令嬢であり、私に初めてできた同性の友達だ。
そして、彼女はブルーノを慕っている。
「貴族の婚姻は政略的な理由で結ばれることが多いのだと、ヘレナも分かっているだろう」
「それはっ……」
「本当はランベルト殿下と婚約させてやりたかったが、急にプライセル帝国の話が持ち上がって、トントン拍子に決まってしまったんだ」
「…………」
父の言葉を聞くと、私はなにも言えなくなってしまった。
私のためにランベルトとの婚約を進めようとしてくれた人間を、責められるはずがない。
それに、私は父のことを困らせたいわけでもなかった。
「決まったのは婚約だ。直ぐに婚姻を結ぶというものではない。少しづつで構わないから、この事実を受け入れなさい」
「……はい」
私の初恋は報われることなく終わりを迎えた。
それと同時に親友の慕っている相手との婚約が突然決まってしまい、私はこれからどうしたらいいのだろう。
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