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12. 教えて!ハカセ

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 療養中のソフィアはとってもとっても暇だった。彼女は何かしてないと気が済まないという性分で、休息が苦手だったため、サーシャにだる絡みをしまくっていた。
「サーシャ、側室ってみんな何してんの?」
「傍目から見ますと、朝起きて、化粧して着替えして、ご飯食べて、化粧して着替えして、散歩して、化粧して着替えて、ご飯食べて、化粧して着替えして、楽器鳴らして、化粧して着替えて、ご飯食べて、風呂入って寝るみたいな感じですよ。あと、わりとパーティーとかしてますが、たいてい自分の宮にいます。恐らく、皇太子殿下がいつ来ても良いようにしてるんですかね」
「……側室だからね」
 ソフィアは五年間、いつ来てもいいようにしていないどころか避けていたなと思った。
「まぁ、ご令嬢の趣味は琴、絵を描くで、気晴らしは散歩、パーティーだもんね。やることも限られて暇になる。私みたいに働く令嬢はそこそこレアだからね。高貴な方ほど働くのを避けてる」
 私は子爵の娘ですっごい身分が上というわけではないとソフィアは言った。
「あなたが働いてるのは奇特な性格だからですよ」
 家が云々という問題ではないと断じた。サーシャはソフィアを一般の令嬢とはかけ離れていると思っている。
「一つ良いですか?」
「うん?」
「貴族はたいてい魔法を使えるんですよね」
「うん、貴族でも魔法を使えない人はいるにはいるが少ないし、平民でも魔法を使える人はいるけど、貴族の養子に出されることが多いよ。ここにいる令嬢はみんな使えばするんじゃないかな」
「じゃあ、何で他の方は魔法で着替えや化粧しないんですか?ソフィア様はだいたい魔法ですませてますよね」
「あー、魔法でAの服を着るためには、その前に紐付けしないとダメなんだ。Aの服を登録して、それで着替えるぞってときに魔法を使うとAの服を着られる。でも、登録していないBの服は着られない。化粧も似たような感じ。令嬢というものはいつも違う服、違う化粧なんだ。だから、魔法でいちいち紐付けしてってやるより、使用人にやらせた方が早いってワケ」
 サーシャは、はあ、なるほどと納得した。違う服を着まくる令嬢に魔法は不便なのだろう。
「私は魔法省の服二つと外出用のドレス一つ、儀式用のドレス一つは魔法でパッて今やれるけど、他は、今すぐは無理」
 服の登録や魔法の行使は多少疲れるから、時間があるなら自分でやった方がいいとソフィアは続けた。魔法は準備をしなければいけないものが多く、面倒らしい。
「そういえば、側室は他に誰がいるっけ?」
「会ったことありますよね」
「ほら、側室が一回何人もばーって来たじゃん?それでわからなくなって」
 ソフィアはラーラに話しかけられた時、名前がわからなかった。側室の中の一人なのだろうと察しをつけて応対していた。
「側室はソフィア様と、他は三年前にいらしたラーラ様、タチアナ様、ジュリア様です」
「あ~、そう」
「ラーラ様は紫色の髪が特徴的な方でした。タチアナ様は金髪の背の高い方で、ジュリア様は黒髪の派手で気の強そうな方です」
「今度挨拶とか行こうかな」
 暇だしとソフィアは考えた。さすがに顔と名前は一致してた方がいいんじゃない?と反省した。
「タチアナ様はセキエイ宮、ジュリア様はキララ宮にお住まいです」
 場所は地図で確認しようとソフィアは真面目に思った。それまで頑張って覚えてよう、タチセキ、ジュリララね。ソフィアに語呂合わせのセンスは期待してはいけない。
「今まではラーラ様vsジュリア様って感じでした。タチアナ様はやや気が弱めみたいです。ラーラ様が子供産んだので一歩リードって感じでしたね。現在、ジュリア様も妊娠されていると聞いてます」
 それは伝えましたよねとサーシャはソフィアを見た。
「……子ども産まれ過ぎててよくわかんない」
 ソフィアはハルは命中率がいいねと下世話なことを思ったが、口に出すのはさすがに控えた。
「そういえば、タチアナ様がラーラ様のお子の面倒を見ることになったそうですよ」
「おー、じゃあ、なんかいい感じになったじゃない?ほら、タチアナさんは子どもいなくて、ジュリアさんはいるっていうか妊娠してんでしょ?」
「あなたはいませんけどね」
 それは置いといてとサーシャは話を続けた。
「ラーラ様は突然の心臓発作で亡くなったことになっていますよ」
「まあ、それがいいよ。人呪って自殺しましたーなんて身も蓋もない」
「それもそうですか」
「後宮ハカセ!ご講義ありがとー」
 ソフィアは話を切り上げると、落ち着きなく身体を動かした。ごろごろーごろごろー、あーあ、お空からおもしろいの降ってこないかなーと思った。










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