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四月、今日から花の女子高生だ。あたしの名前は、虹崎かすみ。世間一般で言うところの歴女だ。あるいは戦争マニアとも言う。もっとも、あたしは戦争マニアという呼ばれ方は好きじゃない。あたしの大嫌いな英国の首相、チャーチルも、あらゆる戦場を駆け巡った戦争マニアだったが、あんな帝国主義者と一緒にされたら迷惑だ。あたしはあくまで、劉備みたいな仁君で理想主義者でありたいだけだ。だから、研究する戦争は、ベトナム戦争みたいな民族解放戦争に限定してるつもりである。
入学式を終えて、部活動を選ぶ期間に入る。はっきり言って、あたしは体育会系には興味ない。理由は暑苦しそうだからだ。レギュラー争いもしんどいし、試合の応援も正直ダルい。だから、プロ野球観戦なども全く興味がもてない。仕方ないから文化系のにしようと、あれこれ物色していると、ふいに『歴史クラブ』というのに目が行った。気になったので、のぞいてみることにする。
ところが、部室の扉を開けると、いきなり黒板消しが、あたしの顔めがけて飛んでくる。
「高橋ィ、五月の取材旅行の計画は、どうなっとんじゃー!」
「それは前回も説明したと思いますが、中国の長春まで行くとなると、生徒会から予算がおりそうにありません。だいたい、部長は長春まで、共産党軍が長春城にこもる国民党軍を包囲している間に、餓死した長春市民の数を調べに行くとおっしゃいますが、言葉の違いの問題とか、どうする気ですか?」
「そこは、理数系科目の代わりに中国語の授業を選択しとる、高橋の腕の見せどころやろうが」
「だから、高校レベルの中国語で、中国人と会話できるわけないと、何べん言わすんですか?」
部長と呼ばれたショートヘアの女の子と、高橋と呼ばれた眼鏡男子とが、「ぐぬぬぬ」とうなりながら、にらみ合う。
「あの、あたし一応、部活を見学したいんですけど、ここは何をする部ですか?」
あたしの言葉に、ようやく二人は我に返る。
「ああ、新入生か。よく来てくれたな。見苦しいところを見せてしもうて、すまん。ウチは三年生で部長の田井中智恵。そして、こっちの眼鏡くんが、二年生で会計担当の高橋登や」
高橋さんのほうも、「どうも」と一礼する。
「で、ウチらは、世界の無名な人物や戦死者のことを主に研究する部や。さっき、国共内戦の戦場だった長春で、共産党軍が国民党軍を兵糧攻めにしたから、餓死した市民の数を調べに行くと言うたのに、この高橋がなかなか賛成せんのでな」
「仕方ないでしょう。いくら、文化祭の展示でインパクトのあることをやりたいと言っても、中国へ行ってまでこんなことしたら、向こうの権力者に消されますよ」
「そこが歴史研究の面白いところやん。アラビアのロレンスなんて、トルコの軍事施設を見学した際に、案内人から巧みに逃げて、単独で軍事機密を見て回ったそうやからな」
「アラビアのロレンスと僕を一緒にしないでください。ロレンスと言えば、かのチャーチルが『わしはロレンス以上の男を知らない』と評したほどの英傑ですよ」
「そやから、ウチもロレンスに続くんや」
「妄想癖もいい加減にしてもらわないと、僕も怒りますよ」
再び二人の間に一触即発の険悪な空気がただよう。
「あの、あたしも中国語は全然できないんですけど、中国がヤバい独裁国家だってことはわかるんで、高校生だけで取材旅行に行かないほうが良いと思うんですが。だいたい、中国共産党のことを調べたけりゃ、日本国内にいても、できるんじゃないですか?」
「チッチッ、わかっとらんな。歴史研究ってのは、現地に行かにゃわからんことも、いっぱいあるんやで」
「だったら、部長一人でアフガニスタンでも北朝鮮でも行ってくださいよ。まあ、あんな国に女子高生が一人で行けば、無事に帰れるはずがないですがね」
「そりゃ、ウチ一人でも行きたいけど、肝心の旅費が生徒会から出んのやから、仕方ないやん」
入学式を終えて、部活動を選ぶ期間に入る。はっきり言って、あたしは体育会系には興味ない。理由は暑苦しそうだからだ。レギュラー争いもしんどいし、試合の応援も正直ダルい。だから、プロ野球観戦なども全く興味がもてない。仕方ないから文化系のにしようと、あれこれ物色していると、ふいに『歴史クラブ』というのに目が行った。気になったので、のぞいてみることにする。
ところが、部室の扉を開けると、いきなり黒板消しが、あたしの顔めがけて飛んでくる。
「高橋ィ、五月の取材旅行の計画は、どうなっとんじゃー!」
「それは前回も説明したと思いますが、中国の長春まで行くとなると、生徒会から予算がおりそうにありません。だいたい、部長は長春まで、共産党軍が長春城にこもる国民党軍を包囲している間に、餓死した長春市民の数を調べに行くとおっしゃいますが、言葉の違いの問題とか、どうする気ですか?」
「そこは、理数系科目の代わりに中国語の授業を選択しとる、高橋の腕の見せどころやろうが」
「だから、高校レベルの中国語で、中国人と会話できるわけないと、何べん言わすんですか?」
部長と呼ばれたショートヘアの女の子と、高橋と呼ばれた眼鏡男子とが、「ぐぬぬぬ」とうなりながら、にらみ合う。
「あの、あたし一応、部活を見学したいんですけど、ここは何をする部ですか?」
あたしの言葉に、ようやく二人は我に返る。
「ああ、新入生か。よく来てくれたな。見苦しいところを見せてしもうて、すまん。ウチは三年生で部長の田井中智恵。そして、こっちの眼鏡くんが、二年生で会計担当の高橋登や」
高橋さんのほうも、「どうも」と一礼する。
「で、ウチらは、世界の無名な人物や戦死者のことを主に研究する部や。さっき、国共内戦の戦場だった長春で、共産党軍が国民党軍を兵糧攻めにしたから、餓死した市民の数を調べに行くと言うたのに、この高橋がなかなか賛成せんのでな」
「仕方ないでしょう。いくら、文化祭の展示でインパクトのあることをやりたいと言っても、中国へ行ってまでこんなことしたら、向こうの権力者に消されますよ」
「そこが歴史研究の面白いところやん。アラビアのロレンスなんて、トルコの軍事施設を見学した際に、案内人から巧みに逃げて、単独で軍事機密を見て回ったそうやからな」
「アラビアのロレンスと僕を一緒にしないでください。ロレンスと言えば、かのチャーチルが『わしはロレンス以上の男を知らない』と評したほどの英傑ですよ」
「そやから、ウチもロレンスに続くんや」
「妄想癖もいい加減にしてもらわないと、僕も怒りますよ」
再び二人の間に一触即発の険悪な空気がただよう。
「あの、あたしも中国語は全然できないんですけど、中国がヤバい独裁国家だってことはわかるんで、高校生だけで取材旅行に行かないほうが良いと思うんですが。だいたい、中国共産党のことを調べたけりゃ、日本国内にいても、できるんじゃないですか?」
「チッチッ、わかっとらんな。歴史研究ってのは、現地に行かにゃわからんことも、いっぱいあるんやで」
「だったら、部長一人でアフガニスタンでも北朝鮮でも行ってくださいよ。まあ、あんな国に女子高生が一人で行けば、無事に帰れるはずがないですがね」
「そりゃ、ウチ一人でも行きたいけど、肝心の旅費が生徒会から出んのやから、仕方ないやん」
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