恋愛小説2

七海美波

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激論の末に、とりあえず、その日は三人で市立図書館に行くことに落ち着いた。
「毛沢東に関する本の中で、『長春を死城たらしめよ』というセリフがないかどうか、探してみて」
三人はまず、パソコンで「毛沢東」と打ち込んで検索してみる。とたんに、パソコンに関連書籍がパッパッと出てくるが、これが実に多いのだ。
「ちょっと、毛沢東にまつわる本だけで数百冊はありますよ。この中から、どうやって絞り込めと?」
あたしは悲鳴をあげる。「長春を死城たらしめよ」というセリフもキーワードとして打ち込んでみたが、結果は同じだ。だいたい、たった一行のセリフで決定打になるはずがない。
「部長、この際、文化大革命で江青と対決して、多くの人々の命を救った周恩来の特集を組んでも良いのでは?」
「あかん、あかん。周恩来なら、ハン・スーインが既に長い伝記を出版しとるやん。ウチらはハン・スーインの二番煎じをやる気はないんやからな」
「だったら、毛沢東の愛人の張玉鳳でも特集したらどうですか?」
「あかん、あかん。愛人なんて不潔や。高橋は男やから許せるやろうけど、女のウチは絶対許せん」
「愛人は不潔なのに、餓死者はかまわないんですね。部長はゾンビの出てくるホラー映画でも観てりゃ満足では?」
とたんに田井中部長は、高橋さんにヘッドロックをくらわせる。高橋さんは「わああっ! 降参です! ギブギブ!」と叫びながら、床をバンバンたたく。同時に図書館の職員が、「あなたたち、うるさいですよ」と怒る。
「あたしが思うに、この際、キーワードを『長春の歴史』とでもしたほうが、ヒットしやすいんじゃないですか?」
「グッドアイデアや。それでいこう」
そして、長春の歴史で検索すると、安彦良和『虹色のトロツキー』などがヒットした。この漫画には、日本が満州国を建国して、長春を「新京」として満州国の首都にしたあたりから出てくる。早速、借りて皆で読み始めた。
「てか、この漫画、あたしが歴女だから意味わかりますけど、素人が読んだら、意味がわからない気がしますね。トロツキーなんてソ連人が出てきますし。しかも、トロツキーに『農民は小ブルジョアだから、農民は革命を起こせない』とか言わせてるあたりは、読者を混乱させるだけですよ」
「せやな。そもそも、ロシア革命自体、ウチもよくわからんし。まだ『三國志』や『項羽と劉邦』や『太平天国の乱』で解釈できる中国のほうが、よくわかる」
『虹色のトロツキー』を読み進めるうちに、新疆ウイグル自治区の歴史まで出てくる。
「ほう、伊寧という、ウイグル族による独立国家『東トルキスタン共和国』の首都に設定された町が出てくるんか。よく調べとるやんけ」
「あたしが単純に分類すると、毛沢東が魏なら、少数民族はさしずめ蜀ですね。少数民族を助けようとするインドなどの大国が、さしずめ呉でしょう」
「中国共産党の圧政からの民族解放は、ウチも賛成や。ウイグル族の独立運動家なら、ドイツに亡命したドルクン・エイサや、アメリカに亡命したラビア・カーディルがおるし、危険をおかして中国に行かんでも、充分に調べられるしな」
「なら、次の文化祭の展示は、ウイグル族の独立運動でいきましょう。あ~、僕も肩の荷がおりましたよ」
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