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あたしは早速、後藤先生に関する情報を集め始めた。まず、ふだんの授業の様子から調べる。といっても、SNSはスパイがいそうで危険だし、生徒に聞き込みするのも、スパイが紛れ込んでいそうで危険だ。
考えこんでいるうち、ふと、後藤先生が国立O大学卒なのを自慢にしてるのを思い出した。
「そうだ。O大学卒の人たちに話を聞いてみるという手があるじゃん」
あたしは早速、O大学卒業生のホームページを探してみることにした。だが、O大学のホームページはあるが、卒業生のホームページはなかなか見つからない。仕方ないので、息抜きに漫画家のホームページを見てみる。漫画家には国立大学出身者も何人もいるからだ。
「へえ、三浦建太郎とかも、大学行ってたんだ。彼のファンタジー漫画、グロいけど面白いからな。中世の西欧の歴史も詳しいし」
あたしは国立某大学卒の漫画家、福富信兵衛のホームページに遊びに行くようになった。福富先生の過去作やイラストは、三頭身のかわいいキャラが多くて、あたしの好みに合った。掲示板に書き込みするうちに、福富先生から、いろいろ話しかけられるようになっていった。
『僕の漫画やイラストを評価してくださって嬉しいです。恥ずかしながら、いい年なのに、あまり売れなくて、自慢になるのが国立O大学卒ということだけなんですよ。学歴なんていう、過去の栄光にすがってるだけの男なんて、ダメだとわかってるんですけどね』
「国立O大学卒ですか! もしかして、後藤昇太って卒業生、ご存知ですか?」
『いや、存じませんね。まあ、知ってる卒業生がいるかもしれないので、聞いてはみますが。学部とかはわかりませんか?』
「うちの高校の倫理政経の教師ですから、たぶん文学部か教育学部あたりだと思います」
その日はそこで終わり、それから数日間、福富先生から連絡はなかった。どうやら、捜索は難航しているらしい。
十日ほどたち、あたしが忘れかけた頃になって、ようやく福富先生から連絡が入った。
『思いのほか、時間がかかりましたが、ようやく手がかりがつかめましたよ。僕のアシスタントの友人が、国立O大学の文学部で。彼と居酒屋で飲みながら聞いた話だと、後藤先生って、国立O大学では反戦行動委員会という極左サークルに入ってて、活動にのめりこみすぎるあまり、何度か留年したらしいです』
「え~? よく、それで教員採用試験に受かりましたね。思想的に問題あるのに。試験官たちの目は節穴ですか?」
『それが、試験官の中に六嶋先生がいて、前日に一緒にパブで飲んだついでに、面接対策を教えちゃったらしいんですよ。当時、六嶋先生は教育委員会にも顔がきいたそうですから』
「それで、後藤先生の人となりとか、だいたいわかりますか? 何が得意で、何が苦手とか? 何が好きで、何が嫌いとか?」
『わかりました。その友人と会ってみますか? もちろん、トラブル防止のため、僕とアシスタントの方も同席しますが』
こうして、一週間後、あたしは福富先生たちとファミレスでオフラインで会った。福富先生は三十代の漫画家らしく、太った眼鏡のヒゲの似合うおじさんである。アシスタントの方は、眼鏡もかけず、福富先生よりは若そうだが、それでも太っており、老いを感じさせた。この年でアシスタントということは、たぶん、プロアシだろう。アシスタントの友人の方は、やせぎすで実年齢より若く見える。
「虹崎かすみさんでしたね。オフラインでは初めまして」
福富先生は軽く会釈をする。続いてアシスタントと友人も会釈をする。
「このアシスタントの駒沢くんが、大学の漫画研究会時代に、飲み会で知り合って意気投合したのが、この友人の小平くんです。小平くんは入学当初は、反戦行動委員会と漫画研究会を兼部していましたが、その後、反戦行動委員会のほうが忙しくて、漫画研究会を辞めましてね。それでも、駒沢くんとは、まめに連絡を取り合っていましたから。素性は駒沢くんが保証します」
「それより、せっかくファミレスに来たんですから、何か食べましょうよ。虹崎さんには、ぼくがおごりますから」
駒沢さんがメニューを開く。
「そんな。悪いですよ。あたしから会ってくれと、お願いしたのに」
「まあまあ、他人の好意は、素直に受けておくものですよ。それに、この年になると、若い女性と会食できる機会なんて、無いですから」
結局、あたしは駒沢さんの好意に甘えることにして、ハンバーグセットを注文する。福富先生は手持ちぶさたな様子で、生ビールを飲んでいた。
考えこんでいるうち、ふと、後藤先生が国立O大学卒なのを自慢にしてるのを思い出した。
「そうだ。O大学卒の人たちに話を聞いてみるという手があるじゃん」
あたしは早速、O大学卒業生のホームページを探してみることにした。だが、O大学のホームページはあるが、卒業生のホームページはなかなか見つからない。仕方ないので、息抜きに漫画家のホームページを見てみる。漫画家には国立大学出身者も何人もいるからだ。
「へえ、三浦建太郎とかも、大学行ってたんだ。彼のファンタジー漫画、グロいけど面白いからな。中世の西欧の歴史も詳しいし」
あたしは国立某大学卒の漫画家、福富信兵衛のホームページに遊びに行くようになった。福富先生の過去作やイラストは、三頭身のかわいいキャラが多くて、あたしの好みに合った。掲示板に書き込みするうちに、福富先生から、いろいろ話しかけられるようになっていった。
『僕の漫画やイラストを評価してくださって嬉しいです。恥ずかしながら、いい年なのに、あまり売れなくて、自慢になるのが国立O大学卒ということだけなんですよ。学歴なんていう、過去の栄光にすがってるだけの男なんて、ダメだとわかってるんですけどね』
「国立O大学卒ですか! もしかして、後藤昇太って卒業生、ご存知ですか?」
『いや、存じませんね。まあ、知ってる卒業生がいるかもしれないので、聞いてはみますが。学部とかはわかりませんか?』
「うちの高校の倫理政経の教師ですから、たぶん文学部か教育学部あたりだと思います」
その日はそこで終わり、それから数日間、福富先生から連絡はなかった。どうやら、捜索は難航しているらしい。
十日ほどたち、あたしが忘れかけた頃になって、ようやく福富先生から連絡が入った。
『思いのほか、時間がかかりましたが、ようやく手がかりがつかめましたよ。僕のアシスタントの友人が、国立O大学の文学部で。彼と居酒屋で飲みながら聞いた話だと、後藤先生って、国立O大学では反戦行動委員会という極左サークルに入ってて、活動にのめりこみすぎるあまり、何度か留年したらしいです』
「え~? よく、それで教員採用試験に受かりましたね。思想的に問題あるのに。試験官たちの目は節穴ですか?」
『それが、試験官の中に六嶋先生がいて、前日に一緒にパブで飲んだついでに、面接対策を教えちゃったらしいんですよ。当時、六嶋先生は教育委員会にも顔がきいたそうですから』
「それで、後藤先生の人となりとか、だいたいわかりますか? 何が得意で、何が苦手とか? 何が好きで、何が嫌いとか?」
『わかりました。その友人と会ってみますか? もちろん、トラブル防止のため、僕とアシスタントの方も同席しますが』
こうして、一週間後、あたしは福富先生たちとファミレスでオフラインで会った。福富先生は三十代の漫画家らしく、太った眼鏡のヒゲの似合うおじさんである。アシスタントの方は、眼鏡もかけず、福富先生よりは若そうだが、それでも太っており、老いを感じさせた。この年でアシスタントということは、たぶん、プロアシだろう。アシスタントの友人の方は、やせぎすで実年齢より若く見える。
「虹崎かすみさんでしたね。オフラインでは初めまして」
福富先生は軽く会釈をする。続いてアシスタントと友人も会釈をする。
「このアシスタントの駒沢くんが、大学の漫画研究会時代に、飲み会で知り合って意気投合したのが、この友人の小平くんです。小平くんは入学当初は、反戦行動委員会と漫画研究会を兼部していましたが、その後、反戦行動委員会のほうが忙しくて、漫画研究会を辞めましてね。それでも、駒沢くんとは、まめに連絡を取り合っていましたから。素性は駒沢くんが保証します」
「それより、せっかくファミレスに来たんですから、何か食べましょうよ。虹崎さんには、ぼくがおごりますから」
駒沢さんがメニューを開く。
「そんな。悪いですよ。あたしから会ってくれと、お願いしたのに」
「まあまあ、他人の好意は、素直に受けておくものですよ。それに、この年になると、若い女性と会食できる機会なんて、無いですから」
結局、あたしは駒沢さんの好意に甘えることにして、ハンバーグセットを注文する。福富先生は手持ちぶさたな様子で、生ビールを飲んでいた。
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