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週末、私は妹を連れて、近所の将棋教室に連れて行った。将棋教室は、小さな建物の二階を丸ごと借りきっていて、大きな室内には小学生から中学生ぐらいの子供たちが十数人いて、机に座って将棋をさしていた。机上には必ずタイマーがあり、手を考える持ち時間は、一回の勝負につき、合計十分間と決められていた。妹は室内に入るなり、「わあっ」と歓声をあげると、早速、講師の女性に対局をお願いした。講師の紹介で、同い年ぐらいの女の子との対局が決まる。互いに礼をし、「お願いします」とあいさつをすると、妹の先手で対局が始まる。妹は私に対してやったように、角の斜め前に桂馬を跳ねさせる「鬼ごろし」をやってきた。当初は桂馬を順調に跳ねさせて、敵陣に桂馬が攻め込んで成ったまでは良いが、それ以前に敵は金や銀を前面に配置しており、成った桂馬は早々に金や銀に取られてしまう。妹の顔が引きつり、「ぎゃー、私の戦法が通じない」と泣きそうな顔になってしまった。相手の女の子は、「ふっ、まだまだ甘いわね。そんな奇襲じみた戦法なんて、熟練者の私にはお見通しよ。あんたって、バカの一つ覚えみたいに、鬼ごろしばかり使ってきたんでしょうが、それを封じられたら終わりよ」と言って、ニヤリと笑った。それでも妹は諦めず、次は中飛車に切りかえて攻勢に転じる。妹は、「どうかしら?私の得意な戦法は、鬼ごろしだけじゃないのよ。飛車と角を駆使した中飛車も、私の持ち味の一つよ」と言って、中央の敵陣を崩そうと試みる。しかし、相手の女の子は、両端の香車を駆使して、左右から妹の陣を崩しにかかった。このとき、持ち駒の桂馬を左右に打って、香車の攻撃を巧みに助けながら、左右の香車を取ってしまい、妹の陣の両側に拠点を作る。「あんた、桂馬を二枚取られたのが、どれだけ痛かったか考えた?桂馬が二枚あったから、私の攻撃はやりやすくなったし、逆にあんたの陣の香車の守りが薄くなってしまった。これで、私は中央の防御を金と銀に任せて、敵陣の両側から飛車と角を攻め込ませ、中央の陣を圧迫できるわ」相手の女の子は、クックックッと不敵に笑う。妹はヤケになったのか、顔は真っ赤になってしまい、呼吸も荒くなり、駒の打ち方もポカミスが目立つようになってきた。そのため、飛車も角も相手の女の子に取られてしまい、最後には詰んでしまう。「あーあ、口ほどにもないわね。あんた、どうせ、ユーチューブで戦法をいくつかかじっただけで、ろくに実戦経験もない素人でしょ。打ち方を見てればわかるわ。最初から型通りに打ってきて、それが破られるとビックリして対処ができなくなる。おまけに、こちらが巧みに動揺をさそえば、いとも簡単にはまって想定通りに動揺してくれる。実にわかりやすいわ。はっきり言って、井の中の蛙ね。もっと広い世界を知らないとダメよー」妹はキレて、将棋の駒を相手の女の子に投げつけ、講師が仲裁に入るほどだった。
妹を負かした相手の女の子の名前は、井神頼子。妹からすれば、かなりの熟練者だが、将棋教室の中では、まだまだ下位の成績に過ぎないのだ。結局、その一局だけで妹は将棋教室から飛び出し、私と一緒に帰宅する途中、ずっと泣きっぱなしだった。妹は泣きながらも、「私、将棋、もっと強くなりたい。もっともっと強くなって、あの井神のクソバカをいつかギャフンと言わせてやるんだ」とつぶやいていた。
その日以来、妹は狂ったように将棋ばかりやり続けた。ユーチューブで将棋の動画を観まくったり、詰将棋の本をボロボロになるまで読んだり、私に対局を申し込んだり、本気で将棋に取り組み始めたのだ。その様子は鬼気迫るものがあった。夜遅くまでAIと対局し、早起きしてユーチューブの動画を物色し、学校の休み時間まで詰将棋をやり続けた。さすがの私も心配になり、「ここまで根をつめても、いつか過労で倒れるよ。もっと気楽にやろう。将棋だけが人生じゃないんだからさ」と言ったが、「黙ってて。私は今、初めて敗北の苦さを知ったの。今までは、他人がやってるのを見るだけで、そっくりに真似して褒められてきた。でも、将棋教室の井神のクソバカの打ち方だけは、私には真似できない技術だった。私は井神のクソバカにも負けない技術を身につけたい」と言って、全く聞き入れなかった。正直、妹がここまで何かに熱中するのは、初めてのことだった。
妹を負かした相手の女の子の名前は、井神頼子。妹からすれば、かなりの熟練者だが、将棋教室の中では、まだまだ下位の成績に過ぎないのだ。結局、その一局だけで妹は将棋教室から飛び出し、私と一緒に帰宅する途中、ずっと泣きっぱなしだった。妹は泣きながらも、「私、将棋、もっと強くなりたい。もっともっと強くなって、あの井神のクソバカをいつかギャフンと言わせてやるんだ」とつぶやいていた。
その日以来、妹は狂ったように将棋ばかりやり続けた。ユーチューブで将棋の動画を観まくったり、詰将棋の本をボロボロになるまで読んだり、私に対局を申し込んだり、本気で将棋に取り組み始めたのだ。その様子は鬼気迫るものがあった。夜遅くまでAIと対局し、早起きしてユーチューブの動画を物色し、学校の休み時間まで詰将棋をやり続けた。さすがの私も心配になり、「ここまで根をつめても、いつか過労で倒れるよ。もっと気楽にやろう。将棋だけが人生じゃないんだからさ」と言ったが、「黙ってて。私は今、初めて敗北の苦さを知ったの。今までは、他人がやってるのを見るだけで、そっくりに真似して褒められてきた。でも、将棋教室の井神のクソバカの打ち方だけは、私には真似できない技術だった。私は井神のクソバカにも負けない技術を身につけたい」と言って、全く聞き入れなかった。正直、妹がここまで何かに熱中するのは、初めてのことだった。
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