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契約関係くらいが、ちょうど良い。
3.
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理由が気になり答えを促すものの、工藤はこちらをちらりと見てから「いや、なんでもない」と言って黙ってしまった。何か言いづらいことなのかもしれない。
「言いづらいことなら、無理に言わなくて大丈夫だから!」
「いや、悪い、歯切れ悪くて……。あーそうだ、偽装婚約の件、話しても良い?」
「うん、もちろん! 工藤にとってのメリットを確認しておきたかったし」
突然、偽装婚約の話に切り替わった。でも、それが今日の本題でもある。会社を辞めない理由は……またいつか、折を見て教えてくれるだろう。
私はぴしっと姿勢を正して、工藤の顔を見た。
「俺がシリコンバレーで起業したこともあるって話したよな? で、俺の師匠というか、界隈では重鎮って呼ばれているような爺さんがいて、その人に学生の頃から面倒を見てもらってたんだ」
「へぇ、そんな人が」
「そう、本当に色んなことを教えてくれてさ。よく俺みたいな若造の面倒を見てくれたなって感じだけど」
その人との関係が、どう偽装婚約に繋がるのだろう? まだ話が読めず、首を傾げる。
「で、その爺さんは今はもうだいぶ回復してきたんだけど……一番病状が酷い時に今にも死にそうな顔で『渚の伴侶を死ぬ前に見たかった』とか言うから、俺言っちゃったんだよ、『一応彼女はいるから、安心してくれ』って」
「なるほど……」
それを聞いて、だんだん話が読めてきた。
「まぁ、もちろんその時付き合ってる人なんていない訳なんだけど。で、ずっと彼女がいる体にしてたから、元気になって『付き合ってもう長いんだろう? そろそろ婚約でもしないのか? は?まだプロポーズしてない!? 一度二人で顔を見せに来い』って言い出して」
「それは……」
工藤の顔を見ていると、げっそりした様子というか。まぁ、そういう顔が出来るのも、その恩人の方が元気だからこそなんだけど。
「そのお師匠さん? に嘘をつくのは、大丈夫なの? 工藤はそれで良いの?」
「まぁ、確かに嘘をつき続けるのは気が引けるんだけど……あの人、周りにも『渚は婚約間近』とか言いふらしてるみたいだし、俺が“幸せそうにしてる”って事実が重要だろうから」
工藤が苦々しい顔で話しているのを見ると、誠実であろうとした結果の『苦肉の策』なのかもしれない。
「だから、中途半端に誤魔化すより、一度ちゃんと目に見える形で見せた方が良さそうだなと思って」
「うーん、そっか……それで工藤が後悔しないなら……」
「まぁ、青山にも負担になる訳だからな。やっぱり難しければ、無理しなくても……」
そう言い淀む工藤にどう返そうか悩んでいると、手元のスマホが『ヴーッ』と鳴り始めた。誰だろう、と着信元を見てみれば、また元カレ・伊吹だ。
どうしようか迷っている間に、着信は切れた。電話をしてみたものの、先ほど工藤に『婚約者だ』と言われたことを思い出したのかもしれない。
「電話、元カレからだったけどすぐ切れた」
「うわ、マジか。また電話してきたのか?」
「うん。着信拒否した方が良いのかな」
「まぁ、少し証拠残してから着信拒否すれば良さそうだけど。とはいえ、青山の負担になるようであれば無理しなくて良いと思う。必要であれば俺も一緒に警察に行くし、何なら知り合いの弁護士も紹介する」
「工藤……」
なんて頼れる同期なんだろう。
それにしても、伊吹の異常な行動には本当にゾッとする。背筋にひやりと、冷たいものが走るような。工藤にも偽装婚約のメリットがあるなら……本当に、お願いしても良いのかな、と思い始めていた。
「工藤、偽装婚約の話、お願いしても良い……?」
「あぁ、もちろん。俺が提案したことだしな。それじゃあ……一応、決め事はしておくか?」
「うん、そうだね」
その後は、今回の偽装婚約についての決め事を二人で話しあった。
まず、期間は三ヶ月。工藤の恩人・竹井さんは順調に回復していることもあって、ちょうど三ヶ月後に仲間内で快気祝いを企画しているらしい。出来れば、そこまでは婚約者でいてほしいと言われた。
あと、万が一伊吹の件が解決していなければ、その期間は延長してくれるらしい。
「うん、期間も大丈夫。後は何を決めておけばいいかな……って、あ! 住む場所は? アパート解約するってさっき電話で言ってたけど、どうしよう……そもそも私ってば後先考えずに飛び出しちゃったし……」
「言いづらいことなら、無理に言わなくて大丈夫だから!」
「いや、悪い、歯切れ悪くて……。あーそうだ、偽装婚約の件、話しても良い?」
「うん、もちろん! 工藤にとってのメリットを確認しておきたかったし」
突然、偽装婚約の話に切り替わった。でも、それが今日の本題でもある。会社を辞めない理由は……またいつか、折を見て教えてくれるだろう。
私はぴしっと姿勢を正して、工藤の顔を見た。
「俺がシリコンバレーで起業したこともあるって話したよな? で、俺の師匠というか、界隈では重鎮って呼ばれているような爺さんがいて、その人に学生の頃から面倒を見てもらってたんだ」
「へぇ、そんな人が」
「そう、本当に色んなことを教えてくれてさ。よく俺みたいな若造の面倒を見てくれたなって感じだけど」
その人との関係が、どう偽装婚約に繋がるのだろう? まだ話が読めず、首を傾げる。
「で、その爺さんは今はもうだいぶ回復してきたんだけど……一番病状が酷い時に今にも死にそうな顔で『渚の伴侶を死ぬ前に見たかった』とか言うから、俺言っちゃったんだよ、『一応彼女はいるから、安心してくれ』って」
「なるほど……」
それを聞いて、だんだん話が読めてきた。
「まぁ、もちろんその時付き合ってる人なんていない訳なんだけど。で、ずっと彼女がいる体にしてたから、元気になって『付き合ってもう長いんだろう? そろそろ婚約でもしないのか? は?まだプロポーズしてない!? 一度二人で顔を見せに来い』って言い出して」
「それは……」
工藤の顔を見ていると、げっそりした様子というか。まぁ、そういう顔が出来るのも、その恩人の方が元気だからこそなんだけど。
「そのお師匠さん? に嘘をつくのは、大丈夫なの? 工藤はそれで良いの?」
「まぁ、確かに嘘をつき続けるのは気が引けるんだけど……あの人、周りにも『渚は婚約間近』とか言いふらしてるみたいだし、俺が“幸せそうにしてる”って事実が重要だろうから」
工藤が苦々しい顔で話しているのを見ると、誠実であろうとした結果の『苦肉の策』なのかもしれない。
「だから、中途半端に誤魔化すより、一度ちゃんと目に見える形で見せた方が良さそうだなと思って」
「うーん、そっか……それで工藤が後悔しないなら……」
「まぁ、青山にも負担になる訳だからな。やっぱり難しければ、無理しなくても……」
そう言い淀む工藤にどう返そうか悩んでいると、手元のスマホが『ヴーッ』と鳴り始めた。誰だろう、と着信元を見てみれば、また元カレ・伊吹だ。
どうしようか迷っている間に、着信は切れた。電話をしてみたものの、先ほど工藤に『婚約者だ』と言われたことを思い出したのかもしれない。
「電話、元カレからだったけどすぐ切れた」
「うわ、マジか。また電話してきたのか?」
「うん。着信拒否した方が良いのかな」
「まぁ、少し証拠残してから着信拒否すれば良さそうだけど。とはいえ、青山の負担になるようであれば無理しなくて良いと思う。必要であれば俺も一緒に警察に行くし、何なら知り合いの弁護士も紹介する」
「工藤……」
なんて頼れる同期なんだろう。
それにしても、伊吹の異常な行動には本当にゾッとする。背筋にひやりと、冷たいものが走るような。工藤にも偽装婚約のメリットがあるなら……本当に、お願いしても良いのかな、と思い始めていた。
「工藤、偽装婚約の話、お願いしても良い……?」
「あぁ、もちろん。俺が提案したことだしな。それじゃあ……一応、決め事はしておくか?」
「うん、そうだね」
その後は、今回の偽装婚約についての決め事を二人で話しあった。
まず、期間は三ヶ月。工藤の恩人・竹井さんは順調に回復していることもあって、ちょうど三ヶ月後に仲間内で快気祝いを企画しているらしい。出来れば、そこまでは婚約者でいてほしいと言われた。
あと、万が一伊吹の件が解決していなければ、その期間は延長してくれるらしい。
「うん、期間も大丈夫。後は何を決めておけばいいかな……って、あ! 住む場所は? アパート解約するってさっき電話で言ってたけど、どうしよう……そもそも私ってば後先考えずに飛び出しちゃったし……」
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