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第6話:可愛いって、私のことですか?
4.
しおりを挟むそう言って、脱衣スペースの扉を閉めた私は、一目散で自室に戻る。戻った途端、その場でへなへなと座り込んでしまった。
頭の中はパニックで、ブツブツと独り言が止まらない。
「え、何、あの溢れ出る色気は……!? 色気に当てられて、クラクラしちゃうわ……。あれ? そういえば、あんなスチルが乙女ゲームでなかったっけ? えぇっと、そう! クリス王太子のオフショットだわ! 『水も滴る良い男スチル』!!
でも、クリス様のオフショットより圧倒的にカイ様の方が色気が溢れ出てた……目の前で本物を見ちゃったからかな? それに『可愛い』って言ってたし、『おやすみ』は耳の真横で言われるし、もう何あれ反則でしょ……」
前世では大して恋愛もせずに死んでしまったから、こういう時にどういう態度を取るのが正解なのか分からなかった。
というか、これが恋心なのか、突然の事故でドキドキしているのか……多分、後者だろうと言い聞かせるように結論づけたのだった。
***
次の日の朝。
今日は三人で朝食を食べていた。準備をしている時、あまりにも私の動きがぎこちなくて、ケイティは何か勘付いているようだった。
「お嬢様、何かありましたか?」
「えっ!? あ、な、何も無いわよ! 寝る前に読んでいた本が面白くて、つい夜更かししてしまって寝不足なの」
「そうですか、なら良いのですが」
実際、昨日はあまり眠れなかった。そこにカイ様が登場して、さらに動きがぎこちなくなる。カイ様が何かをボソッと言っていた。
「これは俺にもチャンスがあるということかな?」
「……カイ様、まさかエリアナ様に手を出した訳では無いですよね?」
「ハハ、そんなことはしてないよ。ちょっとした事故があってね。フッ……本当にエリアナは可愛いなぁ」
二人の会話はよく聞こえなかったけれど、ニコニコしているカイ様と、何だか納得いっていない様子のケイティが私を見ていた。
この後、三人でご飯を食べた後は、カイ様は仕事があると言って外に出た。
私達は家の掃除や洗濯を終えてから、畑の様子を見に行くことにした。昨日種を植えたばかりだし、何も無いはずなのだが……
「きゃぁぁあ! な、何あれ!?!」
「お嬢様!! あれ、カイ様がおっしゃっていた火属性の魔獣では無いですか!!?」
「えぇえーーーーーーーーっ!?!」
この辺りに魔獣が出たと言っていたけれど、まさかこんな日中の街の外れに出てくるとは思わなくて。
というか、魔獣と対決するのは聖女様とその取り巻きの仕事じゃないのーーーっ!?!
「やだ、ケイティ、あの魔獣こっち見てるわよ? というか、見た目がほぼキツネじゃない!!」
「え、お嬢様、キツネって何ですか!?! ここは私が注意を引きますので、お嬢様は誰か助けを呼んできてください……!!」
ケイティは箒を持っているが、足がガタガタ震えている。こんな状況で一人残していけないし、カイ様はいない。
セカンドライフ始まって以来の、絶体絶命のピンチだったーー。
***
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