婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

有明波音

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第7話:初めての魔獣退治

1.

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 ガタガタ震えるケイティを置いていく訳にいかない。絶体絶命のピンチでも、なぜか私は冷静だった。

 見た目がキツネを一回り大きくしたような感じだったから、あまり怖くなかったのかもしれない。体からは炎が渦巻き、額には小さな魔石が光っていた。

 そして、昨日種を植えた畑の辺りをクンクンと嗅ぐように、歩き回っている。


(あの魔獣、お腹を空かせて街に降りて来たのかしら? もしそうならパンを取りに行きたいけど、このまま襲ってきて大火傷しそうだし、だからと言って放置する訳にもいかないわね……)


 その時、私は良いアイデアを閃いてしまった。


「あ! 私、水魔法が使えるじゃない!! 自分で倒してしまえば良いんだわ!」

「おおおおお嬢様ぁっ! こんな時まで無茶なこと言わないでください~~~ッ!!!」

「そうと決まれば、ケイティ! 家の中から余っているパンを持ってきて頂戴! あと魔石も!」

「魔石は分かりますけど、なぜ! 今!! パンなのですかッ!?!」

「あの魔獣、お腹が空いてそうだし、パンを食べてる最中に水魔法をかけるわ!!」

「そんな無茶な、いや、でも取ってきます!!!」


 ケイティは走りながら「もうヤケクソ~~!!」と叫んでいて、つい吹き出してしまいそうになった。

 でも、魔獣はこちらにジリジリと近づいてくる。今背中を向けたりでもしたら、襲いかかってくるだろう。昨日カイ様にもらったペンダントをぎゅっと握りしめる。


『エリアナ! 何かあったのか!?』

「カイ様、今目の前に魔獣がいるのですが……私、頑張って倒してみますね!!」

『ハァ!? ちょ、待てエリアナ、すぐ! 風魔法で飛んでいくから……!」

「すみません! お待ちしてます!!」


 そんなやり取りをしている間に、ケイティが息を切らして戻ってきた。


「エ、エリアナ様っ……まず、パンですっ! ハァッハァッ」

「ケイティ、ありがとう! ほーらキツネさん! 美味しい美味しいパンですよ~!」

「お嬢様……イヌじゃないんですから……」


 ケイティは呼吸を整えながらも、私の緊張感のない発言に力が抜けているようだった。私はパンを魔獣に向けて投げる。

 魔獣は『アァ?』とでも言いたげな顔をしているが、クンクン嗅いでパンを食べ始めた。


 その間に、私は渡された魔石を握り締めながら、自分の中心に沢山の魔力を集めるようなイメージをする。

 ギュウッと魔力を凝縮するイメージが出来たら、バッと両手を前に出し、そしてその魔力を一気に放出した。

 あまりの威力に強さに、反動で体が倒れそうになるが、足を踏ん張って持ち堪える。


『ギィアァァァァァッッ!!!!』


 大量の水を浴びた魔獣が、叫び声をあげた。それと同時に、体に纏っていた炎がシュゥゥと消えていく。あっという間に小さくなった魔獣の額から、魔石がポロッと落ちていった。

 そして魔獣だった生き物は、森の方に向かって逃げていった。


 その様子を見た私は、ホッと胸を撫で下ろした。ケイティはへなへなとその場に座り込んでしまう。


「お、お嬢様……お見事でした……もの凄い威力でしたね」

「えぇ、魔石があったお陰様かしら? あんなに水魔法を放出したの、初めてだわ……」


 呆然としていると、「エリアナ!!」と叫ぶカイ様の声が聞こえてきた。
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