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第8話:シナリオ通りにいかない世界
1.
しおりを挟む目を覚ますと、そこは家のリビングの天井だった。どうやら意識を手放した後、カイ様がリビングのソファでまで運んでくれたようだ。
起き上がると、ケイティの声が聞こえた。
「お嬢様! 起きたのですね! 体調はいかがですか?」
「ケイティ、まだ魔力は少ない感じがするけど、もう大丈夫よ。私、結構寝てしまったのかしら?」
「いえ、数時間ですよ。アンディ様も帰ってこられたのですが、少しお話しできそうでしょうか?」
「えぇ、もちろんよ。街の状況も確認したいし」
そう言って皆が座っている場所に移動する。ケイティの隣に腰を下ろし、カイ様、アンディと向かい合わせになった。
「エリアナ、もう体調は大丈夫?」
「えぇ、カイ様が運んでくださったのですよね? ありがとうございました」
「いや、とても軽かったよ。エリアナは人に料理を振る舞うだけじゃなくて、自分でもしっかり食べた方がいいな」
ふわっと微笑むカイ様。以前だったら何とも思わなかったのに、最近カイ様の距離感がおかしいからか、いちいちドキドキしてしまう。
二人の間に甘い雰囲気が流れ始めた所で、アンディが咳払いをした。
「エリアナ様、ちょうどお二人には話していた所だったのですが、街の状況を報告しても宜しいでしょうか?」
「えぇ、もちろん。お願いします」
「ここ最近、魔獣の目撃情報はあったのですが……どうやら、今日エリアナ様が退治して下さった魔獣が連日街に降りてきていたようです」
「なるほど、あのキツネみたいな魔獣が……」
「あの、キツネとは?」
「あ、いえ、それは大丈夫。それで?」
アンディは『キツネ』について気になったようだが、話を続けた。
「それで……その合間も、水魔法が使える住人が退治を試みたのですが、警戒心が強いのか逃げるのが早く、なかなか攻撃が当たらなかったそうです。
それで、次の日には畑が焼けたようになっていて、収穫前の野菜を食い散らかした跡が残っていたそうでして」
「それは、きっとお腹が空いていたのね!」
「そうなんです。あの魔獣、お腹が空いていたようなんです。それにしてもエリアナ様、どうしてお腹が空いていると分かったのですか?
パンを投げたとケイティから聞きました」
「畑の辺りで匂いを嗅ぐ仕草をしていたんだけど……でも、本当にお腹が空いているかどうかは分からなかったわ。
ただ、真っ向勝負をしたら負けると思っていたから、何かで気を引くしかないと思って。それで思いついたのがパンだったの」
「なるほど……」
アンディは納得いったような、いかなかったような顔をしているが、本当に思いついたのがパンだったのだから仕方がない。
「エリアナ様が退治して気を失われた後、私もすぐにこちらに来たのですが。さらに時間が経ってから、ようやく王家の騎士がやってきましたよ。もう数日前から魔獣は現れていたというのに」
「あら、やっと来たのね! それでどうなったの!?」
「もうこちらで退治したので帰ってもらって問題ない、と帰らせました。王家はこの辺りで魔獣が出ると想定していなかったそうで、来るのが遅れたと言っていました。
全く、本当に仕事が出来ない人達です」
「全くだな。あぁ、そうだ。エリアナ、魔獣が落としていった魔石はこれだよ。君が持っていると良い」
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