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第9話:回想 sideカイ
2.
しおりを挟む「あぁ、エリアナ嬢が私のパートナーだったらな」
「カイ様、エリアナ様はクリス王太子の婚約者ですし、それはなかなか……」
「もちろん分かっている。私が出来るのは、今こうやって彼女を眺めるだけだ。帝国に帰ったら、散々見合い話を用意して待っているんだろうな。父上は」
ハァ、とため息が溢れてしまう。でも、仕方のないことだ。無理やり奪うことは彼女も喜ばないだろう。
そう思って1年過ごしてきたのに、まさか、あの王太子が婚約破棄をするなんてーー。
「アンディ、神様は私に味方してくれたと思わないか?」
「えぇ、このようなことがあり得るのですね。この後はどうされるのですか?」
クリス王太子の婚約破棄宣言の後、私達はエリアナがどのような行動に出るか伺っていた。どうやら、王都の外れの街・グラニットに侍女と二人で行くというのだから驚いた。
(彼女もまさかあっさり身を引くとは思わなかったな……王太子妃教育は大変だったろうに。どういう心境の変化だろう? クリス殿には既に愛想をつかせていたのか?)
彼女にアプローチしようと、グラニットまで着いてきてしまった。
魔法学園卒業と同時に、マリン帝国に戻らなければならないのだが……魔獣や瘴気の影響を調べると、最もらしい理由をつけて出来る限り残ることにした。
全てはエリアナを皇太子妃に迎えるためだ。失敗は許されない……。
グラニットに着いてからのエリアナの行動は、本当に面白かった。食堂でご飯を食べた後に、料理をするために市場に行くと言い出して。家の前に行くと良い匂いが漂っていて、堪らずドアをノックしてしまっていた。
パンを売り始め、王太子からの突然の横やりもあったが、彼女は毅然とした態度で立ち向かっていた。
シャワーを浴びた直後にばったり鉢合わせた時は、顔を真っ赤にしていてつい自分の腕の中に閉じ込めたくなってしまった。
なんて可愛らしいんだろう。
でも、抱きしめなかった自分を褒めてやりたい。
(あの時のエリアナは、本当に可愛かったな。あの日を境に、『元同級生』ではなく『男性』として意識してもらえたような気がする)
流石に魔獣と対峙しているのを見た時は血の気が引いたが……。事前に通信用の魔道具を渡しておいて、本当に良かった。
(追放されて惨めな気持ちになるどころか、どこまでも前向きに、人生を切り開いている。危なかっしい所もあるが、彼女は何て素敵な人なんだろう)
私は想いが募るばかりだった。
なぜ、あんなに美味しいものを作れるんだろう? とか、
なぜ、卒業パーティーを境に人が変わったようになったんだろう? とか、
疑問に思うことは沢山あるが……考えても分からないことは、気にしても仕方がない。
この先も、彼女が何の憂いもなく笑っていられるよう、私が守りたいと決意を新たにした。
***
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