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第10話:エリアナの潜入捜査
3.
しおりを挟む(コンフィなんて時間のかかる低温調理、魔道具でも使ったのかしら? やっぱり一般市民が食べていないようなものを、普段から食べているのね……!)
先ほどまで聖女マリア様と男性陣の関係が気になっていたのに、今では料理のことが頭の大半を占めている。
しかし、突然クリス様に声をかけられて、無理やり意識が戻された。
「お前達は……以前から王家の侍女として働いていた者か? 見たことがない顔だな」
(ぎくぅっ!)
飛び上がりそうになるが、そこは王太子妃教育の賜物だろうか。顔には一切出さずに答えた。
「いえ、今回臨時で採用されました。私はオフィーリアと申します、王太子殿下」
「そうか。オフィーリア、お前はマリアと歳が近そうだな。この後彼女の話し相手になってくれないか? まだこの国に来て日も浅く、知り合いもいない」
「わっ、私が、ですか?」
「不満か?」
「いえ、滅相もございません。私で宜しければ、喜んで」
笑顔が引き攣りそうになるが、王太子の命令を断るなんてもっての外だ。潜入捜査と言って意気込んできたが、まさかここまで接触できるとは思いも寄らなかった。
果たして、エリアナだとバレずに会話できるだろうか……。
ケイティも不安そうな顔でこちらを見ていた。
その後、指定された部屋に向かうと、聖女マリア様が待っていた。
「マリア様、初めまして。侍女のオフィーリアと申します。王太子殿下の命により、参りました」
「オフィーリアさん、こんにちは!マリアです。あのぉ、年も近いのでそんなにかしこまらなくても……」
「失礼いたしました、あ、いえ、ごめんなさい。聖女様ということもあり、つい」
「そうですよね……」
マリア様は憂いを帯びた表情で、視線を下げた。彼女は彼女で、苦労が多いのかもしれない。
「失礼ですが、マリア様はおいくつなのでしょうか?」
「私は17歳の高校2年生です。あ、この世界には高校なんてないんだった……。オフィーリアさんは何歳ですか?」
「私は18歳です」
「そうなんですね、でも、もう侍女として働いていてすごいですね」
「マリア様の方が素晴らしいですよ。この国唯一の存在なのですから」
私は出会って早々、一気に踏み込んだ会話に出た。『この国唯一の存在』と言われて、どのような反応をするのか気になったからだ。
「それが……ここだけの話ですが、私、光魔法が使えないんです。もしかしたら『無属性』なのかもしれません」
「まぁ……」
「本当はクリス様に『誰にも言うな』と言われていたのですが、私、もう辛くて……。
ある日突然この世界に飛ばされて、知っている人は誰もいないし、家族にももう会えないし……。でも、クリス様の手を手放したら私は生きていけなくて……うぅっ」
「そうだったのですね」
泣き始めたマリア様の背中をさする。やはり、彼女はこの世界では孤独で、何とか生きていくために必死だったんだ。
歳の近い女性につい、弱音も吐きたくなってしまったのだろう。それにしても、無属性とは……。
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