婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

有明波音

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第19話:命に替えても

2.

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「エリアナ嬢、本当に素晴らしい魔法だった。誰一人死ななかったのは、あなたのお陰だ」

「エリアナ様、本当にありがとうございました」

「いえ、でも……マリア様もカイ様も、まだ目を覚まさないのですね。早く戻りましょう?」

「あぁ、そうだな」


 そうして、アンディはカイ様を、レオナルド様がマリア様を担いで、私たちは魔窟の出口を目指して歩いて行ったーー。


***


 魔獣の王・サタンを退治してから1週間。

 私はカイ様が横たわるベッドの横で、彼が起きるのをずっと待っていた。

 マリア様はあの日から3日後には目を覚ましたが、カイ様は闇魔法が直撃したからか、まだ目を覚ましていない。


 医師や治癒魔法使いは「外傷は無いから、直に目を覚ますはず」と言っていたが、日に日に、本当に目を覚ますのか不安になっていた。


「私、カイ様がいないともうダメみたいです……」


 眠るカイ様に向かって、つい独り言が漏れてしまう。

 人は恋をすると、こんなに弱くなってしまうのだろうか? 自分でも、この感情の変化に驚いている。

 思い返してみると、これまでもカイ様といると今まで出会ったことのないような感情に沢山直面してきた。


『エリアナ、今何を考えてた? ……他の男のことでも考えてるのかと思った』
『私は結婚するなら、そこに愛があると嬉しいが』
『エリアナ、顔が真っ赤。可愛い』
『本当に無事で良かった……』
『エリアナは、騎士団長のような男が好みなのか?』
『エリアナの作るパンが食べたい。後で、私のために作ってくれる?』

『……エリアナ、愛してる』


 カイ様がこれまで何度も、言葉と態度で愛情を伝えてくれていた。次は私が返していきたい。もうその想いに一切の揺らぎがなかった。

 カイ様がお父様への手紙に『自分の命に替えてでも守る』と書いてくれたように、私もカイ様に対して同じように思っていた。


ーーコンコンッ

「はい」
「エリアナ、入るぞ」

 ガチャっと扉を開けたのは、クリス様だった。後ろにアンジェロ様もついて来ている。


「ずっと側で座っているのも疲れただろう?」
「いえ、全く。私がしたくてしておりますから」


 クリス様なりの気遣いなのかもしれないが、私は本当に『疲れた』と思っていない。ただただ、カイ様の側で、無事を祈っているだけだ。


「エリアナと少し話がしたい。ここはアンジェロに変わってもらっても良いか? 必要であれば、治癒魔法も施してもらおう」

「……分かりました。伺いますね。アンジェロ様、宜しくお願いします」

「はい、お任せください」


 アンジェロ様に一礼し、私はカイ様が眠る部屋から退室した。クリス様の後に付いていき、応接室のような部屋に入った。
 向かい合わせになり、それぞれソファに座る。


「クリス様、お話というのは?」

「あぁ、まずマリアのことだが。彼女は目覚めた後、自分の抱える心の闇に向き合った。今まで見て見ぬふりをしていた、と私に溢した」

「……そうだったのですね」

「この世界で生きていくために私との婚約も了承したが、本当に好きなのはアンジェロであることも明かしてくれた」

「……まぁ! それで、どうなったのですか?」
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