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第19話:命に替えても
3.
しおりを挟む「彼女が聖女ではなく一般市民である以上、私も無理に結婚を推し進める理由がない。強いて言うなら、エリアナと婚約破棄してまで乗り換えたくせにと周りから非難を受けるかもしれないが……。
国王の了承を得た上で、私は婚約を破棄しても構わないと彼女に伝えた」
「そうだったのですね」
クリス様は「ハァ」と溜息をつきながら、「全く、私は本当に駄目な王太子だな」と呟いて視線を落とした。
いつも自信満々なクリス様が珍しく弱っている様子で、こんな彼を見るのは初めてだった。
……いや、もしかしたら、こういう一面は以前からあったのかもしれない。私はマリア様の一件もあり、人の表面的な部分しか見れていなかったと反省していた。
「それで、マリアには自分の元いた世界に戻りたいか、確認をした」
「まぁ……! と言うことは、戻れる可能性もあるということですか?」
「あぁ、無いことは無い。一定の条件が全て揃えば……まぁそれもかなり難易度が高いのだが。あと、元いた世界に戻ったとして、時間軸がどれくらいズレているのかは保証できない。
こちらの世界に転移した日の次の日かもしれないし、一年後かもしれないし……何十年も経っているかもしれない。そうなると、住んでいた場所も、家族もいないかもしれない」
「そうなのですね……マリア様はどうされるのですか?」
「それを聞いて、かなり悩んでいた。まだ決めかねているようだ。良ければ、エリアナに彼女の相談相手になってもらえたら嬉しい」
「……私が聖女となってしまった今、マリア様は会いたくないのではないでしょうか?」
「いや、とても喜んでいたよ。エリアナがこの世界を救ってくれたと。複雑な気持ちでないかと言えば嘘ではないが、食を通して市民を幸せにしてきたエリアナだからこそ、光魔法が与えられたんじゃないか、と」
「そうおっしゃっていたのですね……」
こちらの国の都合で勝手に召喚して、聖女ではなかった……そんなマリア様に対して、クリス様も罪悪感を感じているのだろうか。
婚約を破棄しても構わない、と彼女に伝えたと言っていたけれど、少なからず彼女に対する愛情も芽生えていたんじゃ無いかと感じた。
「クリス様がお話したかったのは、マリア様の件だけですか?」
「いや……エリアナ、もう一つの件がメインなのだが……」
クリス様は少し言いづらそうにしており、私は首を傾げる。一体何の話だろう?
「……もし、カイ殿が目覚めなかったらどうするのだ?」
「え……」
そんなことを問いかけられて、想像したくもないことが頭の中に映像として掠める。
カイ様がこのまま目を覚まさず、大泣きする私。生きている心地がしない毎日に、何年も、何十年も彼を思いながら生きていく自分……。
考えただけで血の気が引くようだった。
「そんな……ことは、考えたくも無いです」
「……私と、もう一度やり直さないか?」
「え?」
突然の提案に、目を白黒とさせてしまう。冗談なんかではなく、クリス様の目は本気だった。でもーー。
「それは……私が聖女だから、ですか?」
「そうではない。この間、君がカイ殿に連れて行かれるのを見て、やっと気付いたんだ。私は、いつだって君の気を引きたかったんだって」
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