婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
33 / 54

第33話 竜天女の墓

しおりを挟む
 黒竜様の姿になったアイザックに乗って、空を移動します。
 そして、目的地であるとある霊山れいざんに到着します。

 竜都から歩いたら一日もかかる距離なはずなのに、あっという間にたどり着いてしまった。
 竜に乗って移動するのって、本当に便利ね。


 ──それにしてもこの山、カレジ王国の竜山に似ている気がする。

 そこは緑が豊富で、水が多く湧き出ている不思議な山でした。
 祭祀用の建物や柱が点在していて、神聖な場所であることもうかがえます。

 その建物のひとつに、竜木に囲まれているほこらがありました。
 どうやらここが、目的の場所のようね。


 私は黒竜様の背から降りて、祠に書かれている文字を読みます。

「この古代文字が、ジェネラス竜国の文字だったとは驚きよね」

 カレジ王国で研究していた、竜山の遺跡の古代文字。
 その正体は、ジェネラス竜国の竜語による文字だったのです。

 それはつまり、カレジ王国とジェネラス竜国が、古くから親交があった証拠でもある。
 ジェネラス竜国で初めて本を読んだ時に受けた衝撃は、いまだに忘れられない。

 そして祠の文字は、竜語でこう書かれていました。


「偉大なる竜天女、ここに眠る」


 人の姿に戻ったアイザックが、私の隣に立ちました。
 手には、竜木の花で造られた花束が持っています。


「竜天女に会いに行くって、お墓のことだったのね」

「勘違いさせたのならすまない。だが、来てみたかっただろう?」

「もちろん! アイザック、私を連れてきてくれてありがとう」


 私と同じ、竜を愛した女性。
 きっと道半ばで倒れてしまい、後悔が深かったことでしょう。


「でも、安心してください……あなたがやり残したことは、私が対処しておきましたから」


 竜天女が竜のためにと創り出した竜茶。
 そのおかげで竜は、こんなにも強大な存在へと成長した。

 その結果、竜天女は竜茶の毒により命を落とした。
 さぞ、無念だったことでしょう。

 竜天女がやり残した竜茶についての後始末。
 すべて私が、お引き受けしました。


「ですので、安心してお眠りくださいませ」


 アイザックから、花束を受け取ります。

 竜天女が愛した、竜を象徴する花。
 たとえそれが人族にとって毒であろうとも、それをお墓に手向けることが竜天女にとっては嬉しいことだろうと思った。

 だって、私がそうだから。
 竜の花であれば、たとえ毒であろうともそれをでたい。

 毒だとわかっていても、竜茶を飲みたい。
 きっと竜天女も、私と同じでどうしようもないくらい竜が好きなはずだから、これで喜んでくれるはず。


「竜天女様、また来ますね」


 偉大なる先輩のお墓を後にします。

 今度は私が、この国の竜たちを幸せにしてみせる。
 あなたの分まで、私が頑張りますとも。

 ──なにせ私は、竜天女の再来らしいですからね。



 そうして竜茶の毒による事件が落ち着き、国が日常に戻った頃。
 私とアイザックは、国王陛下に呼ばれました。

 謁見えっけんの間に到着した私たちは、玉座に座る陛下へとご挨拶をします。
 すると、陛下が私たちをかつてないほどに大歓迎してくれました。

「アイザックそしてルシル! 今日はよく来てくれた」

 アイザックのお父上である国王陛下と会ったのは、竜茶の真相を伝えた時以来です。
 あの時は国中の研究者たちに、私の研究内容を発表した。

 これまで大勢の人の前で竜研究を披露したことはなかったから、とても記憶に残っている。


 その時の様子と比べると、いまの陛下はすこぶる体調が悪そう。
 顔色も悪ければ、覇気もなくなっている。

 ──この数か月で、まさかここまでお老けになるなんて。


 国王陛下が竜茶の毒のことを知って、大変ショックを受けていることは知っていた。
 なにせ自分が人族のためを思って下賜かししていた物が、実は毒だったなんて思いもしなかったことでしょう。

 心を痛めた陛下は長らく床に伏せられていたという噂だったけど、それは本当のようね。


 そんな大変な時に、わざわざ私たちを呼び出して何をするつもりなのかしら。
 しかも大臣や官僚だけでなく、国の重鎮たちも一同に集まっている。


「二人に来てもらったのはほかでもない。大切な話があるのだ」

 国王陛下が、私の顔を見ます。


「まずルシル……我が国の人族を救ってくれて、感謝する」

「へ、陛下! 頭をお上げください!」

 一国いっこくの王が誰かに頭を下げるなんてこと、あっていいはずがない。
 前代未聞だし、私なんかにそんなことする必要はまったくないのに。


「ルシル、君は素晴らしい功績をあげた。竜茶に含まれていた竜毒の発見、並びに竜毒の解毒薬の発明、さらには居住区に住む人族の治療の陣頭指揮……特に竜毒については、建国以来誰も気づくことのできなかった偉大な発見だ。これらの功績を称えて──」

 陛下が、侍従から黒色に輝く何かを受け取ります。


「ルシル・ウラヌス嬢……そなたに黒竜勲章を授与する」

「く、勲章!?」


 私が勲章を!?
 そんなの聞いてないんですけど!

 周囲の人たちも、驚きの声をあげます。


「凄いぞ。黒竜勲章だ!」
「ジェネラス竜国に大いなる発展をさせた功労者にしか授与されない、あの黒竜勲章か!?」
「しかも女性が黒竜勲章を授与されるのは初めてのことだぞ」
「ルシル様の貢献を考えれば、当然のことだな」


 困惑する私に対して、アイザックが「ルシル」と小声で促してくれます。
 我に返った私は、頭を下げながら拝謁します。


「陛下、ありがたく頂戴いたします」


 国王陛下から黒竜勲章を受け取りました。
 そして、気が付いてしまいます。

 ──ちょっと待って。この勲章、竜の鱗でできてるんですけど!

 えへへ。
 良い物もらっちゃったかも。
 あとで詳しく調べることにしましょう。


「続いてアイザック、前へ」


 国王陛下の前にアイザックが移動します。
 そして、陛下が立ち上がりました。

「我は今回の竜毒に関する事実を、重く受け止めている。これまで犠牲者がでたのも、ひとえに我のせいであろう……よって我はこの責任を取り、譲位をすることにした」


 謁見えっけんの間に、どよめきが発せられます。
 その発言が意味することは、ひとつ。


「アイザック王太子……我はそなたに、この王冠を与える」

「……陛下。このアイザック、謹んでお引き受けしましょう」


 アイザックが王になる。

 それが決まった瞬間でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

妹に命じられて辺境伯へ嫁いだら王都で魔王が復活しました(完)

みかん畑
恋愛
家族から才能がないと思われ、蔑まれていた姉が辺境で溺愛されたりするお話です。 2/21完結

《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

黄舞
恋愛
 精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。  驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。  それなのに……。 「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」  私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。 「もし良かったら同行してくれないか?」  隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。  その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。  第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!  この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。  追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。  薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。  作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。 他サイトでも投稿しています。

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

【完結】転生の次は召喚ですか? 私は聖女なんかじゃありません。いい加減にして下さい!

金峯蓮華
恋愛
「聖女だ! 聖女様だ!」 「成功だ! 召喚は成功したぞ!」 聖女? 召喚? 何のことだ。私はスーパーで閉店時間の寸前に値引きした食料品を買おうとしていたのよ。 あっ、そうか、あの魔法陣……。 まさか私、召喚されたの? 突然、召喚され、見知らぬ世界に連れて行かれたようだ。 まったく。転生の次は召喚? 私には前世の記憶があった。どこかの国の公爵令嬢だった記憶だ。 また、同じような世界に来たとは。 聖女として召喚されたからには、何か仕事があるのだろう。さっさと済ませ早く元の世界に戻りたい。 こんな理不尽許してなるものか。 私は元の世界に帰るぞ!! さて、愛梨は元の世界に戻れるのでしょうか? 作者独自のファンタジーの世界が舞台です。 緩いご都合主義なお話です。 誤字脱字多いです。 大きな気持ちで教えてもらえると助かります。 R15は保険です。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

処理中です...