婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

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第35話 ルシルの乗竜クラブ

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 アイザックが王になった。
 それにともない、アイザックの仕事量は爆発的に増加しました。

 国が新王の体制になったこと、竜茶についての後始末、人族への補助や賠償など、災害が続くカレジ王国への支援など繊細な事案も多いため、一朝一夕いっちょういっせきにはいかないみたい。


 対して私はというと、ついに私たちの結婚式の準備に取り掛かることになりました。

 会場の場所や内装はどうするとか、来賓の選別や席順はどうするとか、衣装はどうする、などなど、決めることが多すぎてこっちも一朝一夕いっちょういっせきにはいかない!

 ジェネラス竜国の文化や風習にまだ慣れていない私には決められないこともあるので、ドラヘ商会の会長であるブラッドや、新たに私の侍女となったマイカにアドバイスをもらいながら着々と準備を進めていきます。

 ──それでも、たまには休みがほしい。

 せっかくジェネラス竜国にいるのに竜とたわむれないなんて、絶対おかしい!

 そう私が駄々だだをこねたところ、なんと一日お休みをいただけることになりました。
 そろそろガス抜きをしないと私が暴走して、竜を探しに山に突撃しなけないとアイザックは思ったのでしょう。
 さすがは私の助手、よく私のことがわかってるね!


 そうしてやってきたのが、竜都郊外にある乗竜クラブ。
 つまりは、乗馬クラブです!

 ジェネラス竜国では馬の代わりに、二足歩行で走る地竜の背に乗る文化があります。
 私も一度乗ってみたいと思ったから、アイザックにお願いして準備してもらったの。

 なので今日はスカートではなく、乗馬用のパンツを着用しています。
 思う存分、地竜に乗るぞー!


「ルシル様、本気ですか? 本当に地竜に乗るのですか?」

 そう私のことを心配してくるのは、ドラッヘ商会の商会長ことブラッドです。

 彼はアイザックの側近なんだけど、最近はずっと私のことを補佐してくれている。
 正直言って、この国では信頼できる人はまだ少ないうえになんでも気軽に相談できるので、ブラッドの存在はかなり助かっています。


「もしもルシル様が怪我でもされたら、アイザック様になんといわれるか……」

「大丈夫、大丈夫! これでも私、馬には乗れるんだから!」

「地竜は馬よりも難易度が高いんですよ。それにルシル様は、運動はあまりお得意ではないでしょう?」

「平気だって! 地竜の上に乗るくらい余裕よ。だって私、アイザックの上には何度も乗ってるんだもん!

「アイザック様の上に!? そ、それはそれは、なかなか激しいことをしているのですね……」

「全然激しくなんかないわよ。大きくて安定してるから、けっこう安心できるのよ」


 黒竜様の姿になったアイザックの体は、本当に大きい。
 だからアイザックの上に乗って空を飛んでも、かなり安定している。
 振り落とされる心配もない。


「ほほう、ということはルシル様のほうが激しいと……」

「そうね……アイザックの上に乗るとついテンションが上がっちゃって、我を忘れることはあるかも」

「我が主たちの意外な事実を知ってしまいました。それだけ仲が良ければ、この国の未来は安泰ですね」


 ──ん?

 なんか会話が噛み合っているようで、噛み合っていない気がするんだけど。
 気のせいかな?


 そうこうしながら、私はついに地竜の上に乗竜します。

「ブラッド! 絶対にそばから離れないでね!」

「はいはい、わかっておりますよ。でも本当は、アイザック様がそばにいて欲しいんですよね?」

「アイザックは仕事が忙しくて来られないって言ってたんだから、しょうがないじゃない! それよりも思ったよりも高くて安定しなくて、めちゃくちゃ怖いんだけど!」

 地竜の上は、想像以上に恐ろしいところでした。
 馬よりも高いうえに、二足歩行をするから不安定。

 もうそれだけでも怖いっていうのに、地竜は馬よりも馬力があるらしいです。
 いきなり地竜が走り出しでもしたら、吹き飛ばされてしまいそうなの!

「怖いのはわかりましたが、いまのお気持ちはどうですか?」

「そりゃもちろん、最高よ!」

 地竜に乗る。
 竜好きとしては、絶対に叶えてみたいことの一つでした。

 地竜に乗るのに慣れたら、乗竜しながら山にフィールドワークに出かけたいわね。


「この地竜はアイザック様よりルシル様へ贈られた特別な地竜です。気性きしょうもおとなしいですし、ルシル様であればすぐに乗りこなせるはずですよ」

「この子、たしかにかしこいわ。私が手綱たづなを操っているというよりは、この子が私を乗せている感じがする」


 しかもこの地竜の色は黒色で、アイザックの竜の姿を連想させる。
 なんだかチビアイザックみたい。


「この子の名前、なににしようかしら? チビアイザック……チビアとか?」

「それ、アイザック様が知ったらショックを受けますよ……ん、なんだあれ?」


 ブラッドが草原の向こうへと視線を移します。
 遠くから、なにかが乗竜クラブに近付いてきているのだ。


「ブラッド、あれはなに?」

「なんでしょう…………あれは……まさか、地竜の群れ!? なんでこんなところに!」


 視界を覆い尽くすような、地竜の群れがこちらに走ってきました。
 しかもその数匹どころの話ではない。

 何十匹もの地竜が、こちらにめがけて突進してきました。
 もしかして、地竜が暴走してる!?


「あの地竜たちはどうしたの? 真っすぐこっちに向かってきてるんだけど!」

「ルシル様、お逃げください!」

「といっても、どうすれば?」

 私、まだ地竜を上手く操れないんだけど!

 地竜の速度は馬よりも速い。
 私が右往左往しているうちに、地竜たちの群れは目の前にまで来ていました。

 こんなにもたくさんの地竜の群れにぶつかれば、ただでは済まない。
 死を覚悟します。


 ──このままじゃ、踏みつぶされてしまう!


「ギャアッ!」

「チビア!?」

 私の地竜──チビアが、走り出した!

 しかも地竜の群れとは逆方向です。
 やだ……私の地竜、頭良いかも!


「いいぞ地竜! ルシル様、私のことをは置いて、そのままお逃げください!」

「だめよ、ブラッドも早く!」


 ブラッドは私の地竜の世話をしていたから、乗竜していない。
 このままここに残せば、間違いなく地竜の群れにひき殺されてしまう!

「さあ、ブラッド! 私の手を握って!」

「……この恩は忘れません」


 ブラッドが私の背後に乗竜します。
 これで一緒に逃げられる。

 それでも、まだピンチを脱却したわけではありませんでした。
 二人乗りをしているせいで、地竜の群れに追いつかれそうになってしまったの。


「このままじゃ、追いつかれる!」


 地竜の群れが、すぐ後ろまで迫っている。


 もうだめ。
 助けて、アイザック……!


 私が諦めかけたその瞬間。
 地上に大きな影がかかります。


「まさか、あれは……!?」


 空を見上げます。
 すると、そこには黒く大きな竜がこちらへ向かって飛んできていました。

 あれは黒竜様。
 ということは──


「アイザック!」
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