婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
37 / 54

第37話 メイドの刺客

しおりを挟む
 乗竜クラブでの事件から数日後。

 侍女のマイカから、私についての悪い噂が流れていることを教えられます。

 きっかけは、結婚式の準備をしている時に令嬢たちが話す噂話を聞いたことでした。
 どうやら私の話題みたいなんだけど、それがまったく身に覚えのない内容だったの。

 だから侍女のマイカに、噂の内容を調べてもらったのです。


「ルシル様、大変申し上げにくいのですが」

「気にしなくていいから、全部話してちょうだい」

「では……」


 マイカが話してくれた私の噂話は、正気を疑うような内容ばかりでした。

 例えば──

 ルシルが竜好きというのは嘘で、竜を虐待している。
 竜茶の毒を飲んで妊娠できない体になった。
 むしろ竜茶を飲んで倒れたのは自作自演。
 竜毒はルシルが発明した。
 アイザックのことを体で誘惑して落とした悪女。
 媚薬を飲ませて王妃の立場を不当に手に入れた魔女。

 などなど、どれも荒唐無稽こうとうむけいな話ばかり。

 話を聞くだけで、頭に血が上ってきそうな嘘ばかりです。


「私が竜のことを虐待するなんて、あるはずないのに!」


 そのことも腹が立つけど、同時に妊娠できない体になったというでたらめについても嫌気がする。
 もしもこれから王妃になる人物に子どもができないとわかれば、婚約は解消されてもおかしくない。

 他の噂についても、文句を言いたくなるような罵詈雑言ばかりです。

 明らかに、私を王妃の座から蹴り落としたい人物が流したのでしょう。


「このこと、アイザックは知っているのかしら?」

「陛下はご存知です。むしろルシル様にこの噂話が流れないようにと、ご命じになっておりました」


 ということは、マイカは無理を承知で私にこの噂話を教えてくれたのね。

 マイカとは、最初はギクシャクすることもあったけど、いまでは信頼できる侍女に育ってくれている。
 私専属の侍女としては、申し分ない働きをしてくれました。


「こんな噂話、城内の誰も信じてはいません。それに陛下は、この噂話を流した者を探しているようです」

「アイザックったら、私に内緒でそんなことをしていたのね」


 今度、それとなくお礼を伝えておかないとね。

 この噂話については、本当に荒唐無稽な内容ばかりなので、いずれ誰からも信じられずに忘れられていく。
 だから、この話はこれでお終い。

 そう思っていました。




 それから数日後。


 急遽、アイザックが地方都市への視察を行うことを発表しました。
 地方にいる官僚たちへの挨拶周りを兼ねて、視察旅行をするのだとか。

 結婚式前のこの時期にわざわざすることでもないのにね。


 そうしてアイザックが旅立った日に、異変が起きます。


 それは私が一人で、研究室で竜の鱗について調べている時のことでした。


「ルシル様、失礼します。紅茶をお持ちいたしました」

「……ちょっと、待ちなさい」


 研究室に入ってきたメイドに、待ったをかけます。


「扉の前にかけておいた文字を見なかった? いまは繊細な作業をしているから、誰であろうと入るべからずって書いてあったはずだけど」

「も、申し訳ございませんっ!」


 頭を下げて謝罪をするメイドを見て、なにか違和感を感じます。


「あなた、マイカじゃないわね。マイカはどうしたの?」

「マイカは親が危篤きとくだと連絡があり、至急、家に帰ることになりました」


 親が危篤!?
 それは大変だから、仕方ないわね。

 でも、マイカからはそんな話、何も聞いていなかったのだけど。


「……あなた、初めて見る顔ね」

「はい、今日から配属になりました」


 そんな話、私は知らない。
 とはいえ、次期王妃である私は忙しい。

 メイドの管理は私の管轄ではないということもあって、細かいことまでは把握できていません。


「それにしても……」


 この子、メイドにしてはやけに体格が良いわね。
 筋肉も発達していて、まるでメイドじゃなくて兵士のよう。


「とにかく、紅茶はあとでもらうから、寝室に置いておいてちょうだい。ここは危ないから、あなたも早く部屋の外に出るのよ」

「……かしこまりました、ルシル様」


 メイドはそう言いながら紅茶をテーブルの上に置きます。
 もしかして私の話を聞いていなかったのかしらとため息をついた瞬間、突如メイドが走り出しました。

 しかも、動きが完全にメイドではない。
 まるで訓練されたアサシンのような俊敏さでした。

 突然の展開に理解できなかった私は、動揺して案山子かかしのように動けなくなります。

 そして瞬く間に私のところまで移動したメイドは、私の体を羽交はがめにしながら、口元に布を当ててきました。


「あなた、なにをするつもり!?」

「ルシル様には、このままおとなしく眠っていただきます」


 この布の匂い、まさか催眠性の薬!?


「ルシル様はもう二度と目を覚ますことはないかと存じます。ですががご理解くださいませ、これも仕事なのです」

「そ、そん……なぁ……」


 ──暗殺者。

 その言葉を思い浮かべた時は、すでに体の力は抜けてしまっていました。
 乗竜クラブで私を狙ったのは、きっとこのメイドか、もしくはその仲間だったのだと悟ります。


「ア、アイ、ザックぅ……」


 意識が落ちる瞬間、アイザックの顔が頭に浮かびました。


 ──せめて最後に、ひと目でいいからアイザックに会いたかったな。


 そのまま私の意識は、深い闇へと落ちていきます。

 意識が消える寸前に、バタンという扉が開くようないう大きな音がした気がしたけど、私にはその音の正体を知るすべは残っていませんでした………………。



 このまま、私は殺される。


 そのはずだったのに、私の意識は再び覚醒します。
 
 そして気が付いた時には、目の前にアイザックがいました。



「……あれ、アイザック?」

「ルシル、目を覚ましたか!」


 アイザックが私のことを見下ろしている。
 どうやら私は、寝ていたようです。


 もしかしてこれは、夢?

 いや、走馬灯そうまとう

 はたまた、死後の世界だったりして……?


「あ、わかったわ。私は死んじゃったから、最後に私が望む夢を見ているのね!」


 だからアイザックが出てきたんだ。
 それなら納得ね!


「なら、最後に、少しくらいは……いいわよね?」

「え……ル、ルシル!?」


 私はアイザックの首元に両手を回します。
 そのままアイザックの顔を手前に寄せて、口づけをしましった。


 アイザックからキスをされることは、何度もあった。
 けれども私から積極的に動いたことは、ほとんどなかったはず。

 だから、一度くらいは私から強引にしてみたかった。


 ──それに、これは私の夢。

 なにをしたって、恥ずかしくはない。
 

 愛する彼のことを求める私の欲望は、アイザックの口内を蹂躙じゅうりんします。
 舌と舌が触れ合い、唾液が絡み合う。

 アイザックの唇は柔らかくて、とても甘美な味でした。


「……ルシル、今日はやけに大胆なんだな?」

「だって最期だもの。私、死んじゃったみたいだしね」


 最期くらい、素直になってみたい。
 貯まりに溜まった私からアイザックへの愛情を、ここで一気に発散しているの。
 


「それにあなたは私の妄想の中のアイザックなんでしょ? なら、なにをしたって恥ずかしくないわ」


 所詮は、夢の中の話。

 だからすべては、私の中での出来事のはず。



「……ルシルには悪いんだが、俺は妄想でも夢でもなんでもない」

「…………なら、幻とか?」

「幻には実体はないだろう?」

「………………たしかに」


 そこで私は、これはおかしいと気が付きました。

 夢にしては、あまりにもリアルすぎる。
 むしろ、現実にしか思えない。


 もしかしてこのアイザックは──本物?



「ちょっと聞きたいんだけど、私って生きてる?」

「もちろん」

「なんで? たしか暗殺者のメイドに襲われて……」

「すぐに俺が助けに入った。メイドは捕まえて牢屋ろうやに入れたし、ルシルは無事だ」

「…………ということは、さっきの出来事も、現実?」

「……………………積極的なルシルも、悪くなかったぞ」



 生まれてこの方、自分の顔がこんなにも熱くなったことはありません。


 誰か!

 いますぐ私を殺して!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。 「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」 理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。 どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。 何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。 両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。 しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。 「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」

役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。 絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。 しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身! 「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」 シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

処理中です...