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第37話 メイドの刺客
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乗竜クラブでの事件から数日後。
侍女のマイカから、私についての悪い噂が流れていることを教えられます。
きっかけは、結婚式の準備をしている時に令嬢たちが話す噂話を聞いたことでした。
どうやら私の話題みたいなんだけど、それがまったく身に覚えのない内容だったの。
だから侍女のマイカに、噂の内容を調べてもらったのです。
「ルシル様、大変申し上げにくいのですが」
「気にしなくていいから、全部話してちょうだい」
「では……」
マイカが話してくれた私の噂話は、正気を疑うような内容ばかりでした。
例えば──
ルシルが竜好きというのは嘘で、竜を虐待している。
竜茶の毒を飲んで妊娠できない体になった。
むしろ竜茶を飲んで倒れたのは自作自演。
竜毒はルシルが発明した。
アイザックのことを体で誘惑して落とした悪女。
媚薬を飲ませて王妃の立場を不当に手に入れた魔女。
などなど、どれも荒唐無稽な話ばかり。
話を聞くだけで、頭に血が上ってきそうな嘘ばかりです。
「私が竜のことを虐待するなんて、あるはずないのに!」
そのことも腹が立つけど、同時に妊娠できない体になったというでたらめについても嫌気がする。
もしもこれから王妃になる人物に子どもができないとわかれば、婚約は解消されてもおかしくない。
他の噂についても、文句を言いたくなるような罵詈雑言ばかりです。
明らかに、私を王妃の座から蹴り落としたい人物が流したのでしょう。
「このこと、アイザックは知っているのかしら?」
「陛下はご存知です。むしろルシル様にこの噂話が流れないようにと、ご命じになっておりました」
ということは、マイカは無理を承知で私にこの噂話を教えてくれたのね。
マイカとは、最初はギクシャクすることもあったけど、いまでは信頼できる侍女に育ってくれている。
私専属の侍女としては、申し分ない働きをしてくれました。
「こんな噂話、城内の誰も信じてはいません。それに陛下は、この噂話を流した者を探しているようです」
「アイザックったら、私に内緒でそんなことをしていたのね」
今度、それとなくお礼を伝えておかないとね。
この噂話については、本当に荒唐無稽な内容ばかりなので、いずれ誰からも信じられずに忘れられていく。
だから、この話はこれでお終い。
そう思っていました。
それから数日後。
急遽、アイザックが地方都市への視察を行うことを発表しました。
地方にいる官僚たちへの挨拶周りを兼ねて、視察旅行をするのだとか。
結婚式前のこの時期にわざわざすることでもないのにね。
そうしてアイザックが旅立った日に、異変が起きます。
それは私が一人で、研究室で竜の鱗について調べている時のことでした。
「ルシル様、失礼します。紅茶をお持ちいたしました」
「……ちょっと、待ちなさい」
研究室に入ってきたメイドに、待ったをかけます。
「扉の前にかけておいた文字を見なかった? いまは繊細な作業をしているから、誰であろうと入るべからずって書いてあったはずだけど」
「も、申し訳ございませんっ!」
頭を下げて謝罪をするメイドを見て、なにか違和感を感じます。
「あなた、マイカじゃないわね。マイカはどうしたの?」
「マイカは親が危篤だと連絡があり、至急、家に帰ることになりました」
親が危篤!?
それは大変だから、仕方ないわね。
でも、マイカからはそんな話、何も聞いていなかったのだけど。
「……あなた、初めて見る顔ね」
「はい、今日から配属になりました」
そんな話、私は知らない。
とはいえ、次期王妃である私は忙しい。
メイドの管理は私の管轄ではないということもあって、細かいことまでは把握できていません。
「それにしても……」
この子、メイドにしてはやけに体格が良いわね。
筋肉も発達していて、まるでメイドじゃなくて兵士のよう。
「とにかく、紅茶はあとでもらうから、寝室に置いておいてちょうだい。ここは危ないから、あなたも早く部屋の外に出るのよ」
「……かしこまりました、ルシル様」
メイドはそう言いながら紅茶をテーブルの上に置きます。
もしかして私の話を聞いていなかったのかしらとため息をついた瞬間、突如メイドが走り出しました。
しかも、動きが完全にメイドではない。
まるで訓練されたアサシンのような俊敏さでした。
突然の展開に理解できなかった私は、動揺して案山子のように動けなくなります。
そして瞬く間に私のところまで移動したメイドは、私の体を羽交い締めにしながら、口元に布を当ててきました。
「あなた、なにをするつもり!?」
「ルシル様には、このままおとなしく眠っていただきます」
この布の匂い、まさか催眠性の薬!?
「ルシル様はもう二度と目を覚ますことはないかと存じます。ですががご理解くださいませ、これも仕事なのです」
「そ、そん……なぁ……」
──暗殺者。
その言葉を思い浮かべた時は、すでに体の力は抜けてしまっていました。
乗竜クラブで私を狙ったのは、きっとこのメイドか、もしくはその仲間だったのだと悟ります。
「ア、アイ、ザックぅ……」
意識が落ちる瞬間、アイザックの顔が頭に浮かびました。
──せめて最後に、ひと目でいいからアイザックに会いたかったな。
そのまま私の意識は、深い闇へと落ちていきます。
意識が消える寸前に、バタンという扉が開くようないう大きな音がした気がしたけど、私にはその音の正体を知るすべは残っていませんでした………………。
このまま、私は殺される。
そのはずだったのに、私の意識は再び覚醒します。
そして気が付いた時には、目の前にアイザックがいました。
「……あれ、アイザック?」
「ルシル、目を覚ましたか!」
アイザックが私のことを見下ろしている。
どうやら私は、寝ていたようです。
もしかしてこれは、夢?
いや、走馬灯?
はたまた、死後の世界だったりして……?
「あ、わかったわ。私は死んじゃったから、最後に私が望む夢を見ているのね!」
だからアイザックが出てきたんだ。
それなら納得ね!
「なら、最後に、少しくらいは……いいわよね?」
「え……ル、ルシル!?」
私はアイザックの首元に両手を回します。
そのままアイザックの顔を手前に寄せて、口づけをしましった。
アイザックからキスをされることは、何度もあった。
けれども私から積極的に動いたことは、ほとんどなかったはず。
だから、一度くらいは私から強引にしてみたかった。
──それに、これは私の夢。
なにをしたって、恥ずかしくはない。
愛する彼のことを求める私の欲望は、アイザックの口内を蹂躙します。
舌と舌が触れ合い、唾液が絡み合う。
アイザックの唇は柔らかくて、とても甘美な味でした。
「……ルシル、今日はやけに大胆なんだな?」
「だって最期だもの。私、死んじゃったみたいだしね」
最期くらい、素直になってみたい。
貯まりに溜まった私からアイザックへの愛情を、ここで一気に発散しているの。
「それにあなたは私の妄想の中のアイザックなんでしょ? なら、なにをしたって恥ずかしくないわ」
所詮は、夢の中の話。
だからすべては、私の中での出来事のはず。
「……ルシルには悪いんだが、俺は妄想でも夢でもなんでもない」
「…………なら、幻とか?」
「幻には実体はないだろう?」
「………………たしかに」
そこで私は、これはおかしいと気が付きました。
夢にしては、あまりにもリアルすぎる。
むしろ、現実にしか思えない。
もしかしてこのアイザックは──本物?
「ちょっと聞きたいんだけど、私って生きてる?」
「もちろん」
「なんで? たしか暗殺者のメイドに襲われて……」
「すぐに俺が助けに入った。メイドは捕まえて牢屋に入れたし、ルシルは無事だ」
「…………ということは、さっきの出来事も、現実?」
「……………………積極的なルシルも、悪くなかったぞ」
生まれてこの方、自分の顔がこんなにも熱くなったことはありません。
誰か!
いますぐ私を殺して!!
侍女のマイカから、私についての悪い噂が流れていることを教えられます。
きっかけは、結婚式の準備をしている時に令嬢たちが話す噂話を聞いたことでした。
どうやら私の話題みたいなんだけど、それがまったく身に覚えのない内容だったの。
だから侍女のマイカに、噂の内容を調べてもらったのです。
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「では……」
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竜茶の毒を飲んで妊娠できない体になった。
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アイザックのことを体で誘惑して落とした悪女。
媚薬を飲ませて王妃の立場を不当に手に入れた魔女。
などなど、どれも荒唐無稽な話ばかり。
話を聞くだけで、頭に血が上ってきそうな嘘ばかりです。
「私が竜のことを虐待するなんて、あるはずないのに!」
そのことも腹が立つけど、同時に妊娠できない体になったというでたらめについても嫌気がする。
もしもこれから王妃になる人物に子どもができないとわかれば、婚約は解消されてもおかしくない。
他の噂についても、文句を言いたくなるような罵詈雑言ばかりです。
明らかに、私を王妃の座から蹴り落としたい人物が流したのでしょう。
「このこと、アイザックは知っているのかしら?」
「陛下はご存知です。むしろルシル様にこの噂話が流れないようにと、ご命じになっておりました」
ということは、マイカは無理を承知で私にこの噂話を教えてくれたのね。
マイカとは、最初はギクシャクすることもあったけど、いまでは信頼できる侍女に育ってくれている。
私専属の侍女としては、申し分ない働きをしてくれました。
「こんな噂話、城内の誰も信じてはいません。それに陛下は、この噂話を流した者を探しているようです」
「アイザックったら、私に内緒でそんなことをしていたのね」
今度、それとなくお礼を伝えておかないとね。
この噂話については、本当に荒唐無稽な内容ばかりなので、いずれ誰からも信じられずに忘れられていく。
だから、この話はこれでお終い。
そう思っていました。
それから数日後。
急遽、アイザックが地方都市への視察を行うことを発表しました。
地方にいる官僚たちへの挨拶周りを兼ねて、視察旅行をするのだとか。
結婚式前のこの時期にわざわざすることでもないのにね。
そうしてアイザックが旅立った日に、異変が起きます。
それは私が一人で、研究室で竜の鱗について調べている時のことでした。
「ルシル様、失礼します。紅茶をお持ちいたしました」
「……ちょっと、待ちなさい」
研究室に入ってきたメイドに、待ったをかけます。
「扉の前にかけておいた文字を見なかった? いまは繊細な作業をしているから、誰であろうと入るべからずって書いてあったはずだけど」
「も、申し訳ございませんっ!」
頭を下げて謝罪をするメイドを見て、なにか違和感を感じます。
「あなた、マイカじゃないわね。マイカはどうしたの?」
「マイカは親が危篤だと連絡があり、至急、家に帰ることになりました」
親が危篤!?
それは大変だから、仕方ないわね。
でも、マイカからはそんな話、何も聞いていなかったのだけど。
「……あなた、初めて見る顔ね」
「はい、今日から配属になりました」
そんな話、私は知らない。
とはいえ、次期王妃である私は忙しい。
メイドの管理は私の管轄ではないということもあって、細かいことまでは把握できていません。
「それにしても……」
この子、メイドにしてはやけに体格が良いわね。
筋肉も発達していて、まるでメイドじゃなくて兵士のよう。
「とにかく、紅茶はあとでもらうから、寝室に置いておいてちょうだい。ここは危ないから、あなたも早く部屋の外に出るのよ」
「……かしこまりました、ルシル様」
メイドはそう言いながら紅茶をテーブルの上に置きます。
もしかして私の話を聞いていなかったのかしらとため息をついた瞬間、突如メイドが走り出しました。
しかも、動きが完全にメイドではない。
まるで訓練されたアサシンのような俊敏さでした。
突然の展開に理解できなかった私は、動揺して案山子のように動けなくなります。
そして瞬く間に私のところまで移動したメイドは、私の体を羽交い締めにしながら、口元に布を当ててきました。
「あなた、なにをするつもり!?」
「ルシル様には、このままおとなしく眠っていただきます」
この布の匂い、まさか催眠性の薬!?
「ルシル様はもう二度と目を覚ますことはないかと存じます。ですががご理解くださいませ、これも仕事なのです」
「そ、そん……なぁ……」
──暗殺者。
その言葉を思い浮かべた時は、すでに体の力は抜けてしまっていました。
乗竜クラブで私を狙ったのは、きっとこのメイドか、もしくはその仲間だったのだと悟ります。
「ア、アイ、ザックぅ……」
意識が落ちる瞬間、アイザックの顔が頭に浮かびました。
──せめて最後に、ひと目でいいからアイザックに会いたかったな。
そのまま私の意識は、深い闇へと落ちていきます。
意識が消える寸前に、バタンという扉が開くようないう大きな音がした気がしたけど、私にはその音の正体を知るすべは残っていませんでした………………。
このまま、私は殺される。
そのはずだったのに、私の意識は再び覚醒します。
そして気が付いた時には、目の前にアイザックがいました。
「……あれ、アイザック?」
「ルシル、目を覚ましたか!」
アイザックが私のことを見下ろしている。
どうやら私は、寝ていたようです。
もしかしてこれは、夢?
いや、走馬灯?
はたまた、死後の世界だったりして……?
「あ、わかったわ。私は死んじゃったから、最後に私が望む夢を見ているのね!」
だからアイザックが出てきたんだ。
それなら納得ね!
「なら、最後に、少しくらいは……いいわよね?」
「え……ル、ルシル!?」
私はアイザックの首元に両手を回します。
そのままアイザックの顔を手前に寄せて、口づけをしましった。
アイザックからキスをされることは、何度もあった。
けれども私から積極的に動いたことは、ほとんどなかったはず。
だから、一度くらいは私から強引にしてみたかった。
──それに、これは私の夢。
なにをしたって、恥ずかしくはない。
愛する彼のことを求める私の欲望は、アイザックの口内を蹂躙します。
舌と舌が触れ合い、唾液が絡み合う。
アイザックの唇は柔らかくて、とても甘美な味でした。
「……ルシル、今日はやけに大胆なんだな?」
「だって最期だもの。私、死んじゃったみたいだしね」
最期くらい、素直になってみたい。
貯まりに溜まった私からアイザックへの愛情を、ここで一気に発散しているの。
「それにあなたは私の妄想の中のアイザックなんでしょ? なら、なにをしたって恥ずかしくないわ」
所詮は、夢の中の話。
だからすべては、私の中での出来事のはず。
「……ルシルには悪いんだが、俺は妄想でも夢でもなんでもない」
「…………なら、幻とか?」
「幻には実体はないだろう?」
「………………たしかに」
そこで私は、これはおかしいと気が付きました。
夢にしては、あまりにもリアルすぎる。
むしろ、現実にしか思えない。
もしかしてこのアイザックは──本物?
「ちょっと聞きたいんだけど、私って生きてる?」
「もちろん」
「なんで? たしか暗殺者のメイドに襲われて……」
「すぐに俺が助けに入った。メイドは捕まえて牢屋に入れたし、ルシルは無事だ」
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