婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

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第52話 黒竜のウェディングドレス

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 私とアイザックがカレジ王国の王都を訪れてから、三か月が経ちました。

 あれからカレジ王国民の避難が本格的に始まり、ついに国民のほとんどを国外に退避させることに成功しました。

 無事に避難が完了したのは、カレジ王国の人たちが積極的に動いてくれたこともあったけど、なによりもアイザックたちの活躍が大きかった。

 飛竜部隊だけでなく、アイザックやイライアス第二王子が空から数えきれないくらいの避難民を運びました。
 もしも空を自由に飛び回るアイザックたちがいなければ、逃げられなかった人たちが多く存在していたはずです。


 他にも、国境付近の王国民たちは、陸路で国外へ脱出しました。
 そちらはドラッヘ商会長であるブラッドが活躍してくれたおかげで、スムーズに避難民を誘導できました。

 大陸一といわれるドラッヘ商会の力は凄まじく、さらにそこへジェネラス竜国からの応援部隊も合流したことで、安全な避難経路を陸路に作ることができたのだ。

 そうして三か月に渡る避難活動が、ついに完了しました。


 カレジ王国の避難民たちは、続々とジェネラス竜国に集まってきています。

 そんな彼らは、アイザックによってジェネラス竜国の市民権を得ることができる。

 それだけでなく、ジェネラス竜国はカレジ王国の何倍も国力があるため、以前よりも生活環境が大幅に良くなる。
 望めば土地も与えられるみたいで、一からやり直そうと奮起している農民もたくさんいます。
 
 そのせいか、暗い表情の人ばかりでなく、明るい人たちも多い。

 これら避難民たちのまとめ役になってくれたデイセンは、私にこう言ってくれました。


「これから大変なことも多いかもしれないけど、命があればまたやり直せる……ルシル様とアイザック様への恩は、生涯忘れませんじゃ」


 その言葉だけでも、みんなを助けるために頑張って良かったと思えた。
 
 デイセンたち避難民は、これからはジェネラス竜国の新しい民となる。
 そして、これからこの国の王妃になる私には、彼らの生活を守る義務があります。

 ──私も、頑張らないとね。

 みんなが安全に、そして過ごしやすい国にしていきたい。
 そう、新しい目標を持つことができました。


 それから数日後。
 カレジ王国の避難民たちの受け入れがやっと終わった頃に、生まれ故郷が完全に滅亡したという報せがジェネラス竜国に届きました。


 カレジ王国全土に天変地異が起き、王都は灰燼かいじんしたらしいです。
 わずかに残った場所も、魔物たちが占拠したとか。

 もうあの国は、人が住める場所ではなくなったのです。


 ちなみに元カレジ王国の王族たちも、ジェネラス竜国に亡命してきています。
 だけど彼らは、もう王族でも貴族でもない。

 ただの平民になったのです。

 元婚約者のクラウス王太子やカテリーナ子爵令嬢もその一人。
 聞いた話では、彼らは荒地に送られて、そこで農地を開墾しているとか。

 自分たちがこれまでさんざん見下してきた平民の生活をすることこそが、クラウス王太子たちへの罰。
 そうアイザックたちは判断したみたい。


 こうしてカレジ王国が滅亡し、ジェネラス竜国の内政が落ち着いた頃に、ついにあの日がやってきました。



 ジェネラス竜国の王城のとある一室で、私は侍女のマイカによって身支度を整えてもらいます。
 けれども、大きな鏡に映る自分の姿に、まだ実感が湧かない。
 
 婚約式の時は竜天女を表した蒼竜のドレスを着たけど、今日は違う。
 私の体にぴったりと寄り添うのは、深い闇を抱くような黒色。

 漆黒のウェディングドレスが、まるで夜空のように私を包み込んでいます。

 胸元から裾にかけて散りばめられた竜晶石は、まるで星々のよう。


「ルシル様、本当にお綺麗ですっ!」と、侍女のマイカが目を輝かせながら賛美を続けます。

「なんて素敵なドレスなんでしょう! でもルシル様、どうして黒をお選びになったのですか?」

「アイザックは黒竜だから、彼の色に合わせたのよ」


 このジェネラス竜国の王であり、私の推しの竜であり、そして私の旦那様になるアイザック。 
 黒竜の名を持つ彼のために、この黒竜のウェディングドレスを選んだのだ。


「それにこの色だと、なんだか私まで竜になった気になるでしょう?」


 私は鏡に映る自分を見つめながら、胸が高鳴るのを感じます。
 憧れの竜に少しでも近付けたと思うだけで、とても気分が良くなるのよね。

 ふと窓の外に目をやると、飛竜たちが優雅に空を舞う姿が見えました。
 城の外では、私たちのことを祝福してくれている人たちでいっぱいだという。


 そうこうしているうちに、ノックの音とともにアイザックが部屋に入ってきます。

 黒い正装に身に包んだ彼の姿は、まさに気高き神竜のようでした。
 衣服には金の刺繍で竜の紋章が施されており、いつも以上に彼のことを凛々しく感じてしまいます。


「ルシル、準備はどう……」

 言葉の途中で、アイザックは息を呑むように静かになります。
 その二つの瞳が、まるで時が止まったかのように私を見つめている。

 きっと、漆黒のドレスに身を包んだ私の姿が、彼の瞳に映っているのでしょう。


「ん? いきなり固まっちゃって、どうしたの?」

 からかうような私の言葉に、アイザックは我に返ったように微笑みます。
 ゆっくりと私の前まで歩み寄ると、その大きな手が私の頬に触れました。


「ルシル、綺麗だ」
 
「……ありがとう。アイザックも、素敵よ。」

「驚いた。今日のルシルは、まるで月光に舞う黒竜のように美しい」

「アイザックも、恋人を助けるために処刑場に現れた、守護竜のようにカッコいいわ」


 二人そろって、小さく笑い合います。
 こんなときだというのに、竜にたとえるのが私たちらしいと思ったから。


「ルシル、準備はいいか?」

「ええ、もちろんよ」

 
 数か月前までは、私たちは助手と研究者という関係だった。
 実験室で毎日のように一緒に研究をしていたあの頃が、はるか昔のように感じられる。

 そんな私たちは今日、夫婦になります。


 心の準備もできている。

 これから私は、ついにアイザックと結婚するのだ。
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