異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

忍び寄るストーカー

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 左腕の感覚がない。だらんと生命が抜けたように下がり、動かそうとしても信号がすべて弾かれているかのように反応がない。

「く……なんで……」

「なっ、なんでだと? おめでたいやつだな。ぽっ、ポイントを手に入れられるチャンスがあるなら、奪うに決まってるだろ!」

 そう俺の甘えた思考を罵り、ゲルニカは杖を取り出す。いよいよ、本気で俺を倒そうとするらしい。
 空気を杖先に集め、それが球体となっていく。

「——————エア・ボール!」

 啖呵を切ったわりにはあまりにも矮小な魔法。魔法で相殺するまでもなく、刀で薙ぎ払うと簡単に霧散した。

「なっ!?」

 舐めているわけではなく、本気でそれが通用すると思っていた驚き方だ。

 ゲルニカの戦闘力はお世辞にも高いとは言えない。魔法実践の授業やこの武闘祭を通して見てきた上での分析だ。使える属性は風と光の二種類だが、どちらも攻撃に転用できるほど洗練されているわけではない。

 そんなこと本人が一番分かっていると思うが。

「さっきの時点で、腕じゃなくて首を飛ばすんだったな」

「ぐ、ぐぅぅぅ!」

 俺をわざわざ倒さなかったあたり、きっと目的はポイントなんかじゃない。おそらく俺に対する恨み、あるいは嫉妬とかか。

 編入生で目立つ立場にある以上、ある程度は覚悟していたが、どうしてもこうモヤモヤとしてしまう。

「きっ、気にくわん……気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん気にくわん!!」

 激情のままにゲルニカは不満を吐きだす。一見するとただの嫉妬に思えるが、自己嫌悪の裏返しにも取れて、

「きっ、貴様のすべてが気にくわん! 途中から入った分際で周りから認められて!    二個も、三個も天から与えられて! さっきもなんだ!? 僕ちゃんを憐れんでいるのか!?」

 弾丸のように感情が飛び、俺の心を撃ち抜いていく。

「おっ、お前なんかこのクラスに――――」

 とゲルニカが言いかけたが、思いもよらないことで遮られる。

「——――え?」

 後ろから氷の剣で貫かれ、みるみる体が凍結していき、やがて人間の氷像となり果てた。

「な……にが……」

 起こったのか分からない。
 だが、その答え合わせをするように、

「ご、ごめん……ね? でも、流石に私の彼氏様を傷つけるのは許せない……かな」

 エメラルドグリーンの髪を靡かせながら、ゲルニカの背後に少女が現れる。まるでカメレオンが擬態を解いたかのような登場だ。

「れ、レインッ!? なんでここに……て、あ」

 言った後、己の失態に気が付く。

「ひ、久しぶりにな、名前……呼んでくれ、たね? ふふ、ふひっ」

 狂ったように顔を紅潮させ、不気味に笑う。これまで積み重ねてきた苦労が水の泡だ。

 顔に手をあてて猛省するが、やってしまったことは仕方ない。ここは切り替えて、

「え、ええとだな。まず、どうしてここに?」

「ず、ずっと後ろ、いたから」

「……ッ!?」

 衝撃のカミングアウトに思わず喉が鳴る。‘‘ずっと後ろに‘‘だと?

「健一君がD組の人と戦ってるときに偶然見かけて、それで……」

「そ、そうか……」

 だったら手伝って欲しかったが、まぁ最初に協力を求めなかったのは俺だ。そこは飲み込もう。

「それで、ゲルニカを突き刺したことだけど……」

「そっ、それはさ。ほ、ほら許せないじゃん。私の彼氏様に助けを求めておいて、恩を仇で返すようなことして。そんなこと許せないよね。優しさを向けられて、肩まで貸してもらって、あんなに密着させてもらってたのに」

 徐々に言葉の速度が上がっていき、彼女の怒りと嫉妬が織り交ぜられて、怒気を孕む。

「私だって……私だって、まだそんなことしてないのに……」

「レイン……」

 って、違うだろ俺。そもそも俺とレインは付き合ってないだろ。

 あまりにも自然に‘‘彼氏様‘‘なんて言うから、危うく受け入れそうになる。

「はぁ……で、そのゲルニカは生きてんのか?」

 刺されてから凍り付いたので、まだ生存しているっぽいが、

「あ、これで解放できる、よ」

 レインが氷像に触れると一瞬にして氷が砕け、それと同時に木人形も破裂する。ゲルニカは意識を失ったままだ。
 こうして、あっけなくゲルニカは敗退となった。

 ともあれ、問題はこれからどうするかだ。

 ゲルニカの策略にまんまと嵌まった俺の左腕は、もはや使いものにならない。利き腕じゃなかっただけ良かったが、ハンデにしては重すぎる。

 木人形で分かりにくいが、実際は腕が切断されている判定なのだろう。そこまでの重症は流石に因子では治せない。

 どうしたものか。

「そ、その腕……動かなそう?」

「ああ、こればっかりは俺の失態だからしゃーないけど、少し困るな」

 いつもと感覚が違うというだけで動きが鈍くなる。その結果、隙が生まれて即終了なんて未来が容易に描ける。

「そ、それじゃあ……私が腕の代わりになる、よ?」

「腕の代わりって……」

「文字通りだよ。何でもする、します。だって私は健一君の彼女なんだもん。尽くすのは当然……だよね」

「いや待て待て待て! だから、俺と君は恋人同士じゃない! それに、俺にはもう彼女がいるんだ!」

「ふふ、大丈夫だよ、健一君。私は全部わかってるから」

「分かってるって、何を……」

「いいのいいの、これは私の問題だから。気にしないで。それより―――」

 レインが俺の動かない腕の横へと来て、そこにピタリとくっつき、

「ふふ、これで左腕……だね」

「おい! 離してくれ!」

「だめだよ、腕はちゃんと腕のとこにいなきゃね」

 頬をすり寄せ、腕を絡め、その胸の中にうずめる。引きはがそうにも腕に力が入らず、拘束が解けない。

「もう、離さないから……ふふふふふふふ」

 やつれた顔に喜びの色を写し、とてつもなくヤンデレチックなセリフを吐く。

 そうして俺は、完全にあれは選択をミスった、と悟るのだった。
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