異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

第三章蛇足③ 裸の付き合い第二弾

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 長い屋敷生活、その中で一度も立ち入っていない場所があることに気が付いた。
 それは———

「お、おお……ここが……!」

 屋敷で働く執事、メイド用の風呂。存在を知ってはいたが、一度も見たことがなかったのだ。

 やはり気になるのが風呂好きというもの。
 フリードに頼み、入る許可をもらった。

「構わんが、大したところじゃないぞ」

 そう言ってはいたが、この広さを見れば感嘆の声もこぼれる。

 風呂は……二種類か。
 片方は普通のっぽいが、もう一個は温泉仕様になっている。

 他の人は今はいないみたいだな。誰かと一緒でも楽しそうだと思ったけど、一人でゆっくり入るのも良いしな。

 俺は入念に体を洗い、湯に浸かり始めた。

 つま先から腿、そして腰と順々に湯に沈めていく。温かい感触が入ったところを起点に全身へと巡り、筋肉が緩みだす。

 自然と笑みがこぼれ、おっさんの呻き声みたいな音が腹から響く。

「おおぉぉ……これはまた……」

 俺が現在入っているのは白濁の湯。

 これはいつも入っているモノと変わらなそうだが、こちらの方が広い。おそらくは大勢いる使用人のために広くとっているのだろう。

 男性用だけでこの広さなのだから、女性のところと足すと俺が使っているところよりも遥かに大きい。

 濃度も十分。広さの解放感も相まって、最高の仕上がりだ。
 こう、自分だけがこの広大な浴槽を独占していると思うと至上の贅沢を感じる。

 そんな風に悦に浸っていると、風呂の扉が開き、誰かが入ってきた。

 使用人の誰かかな? と目を向けると、

「おや、珍しいですね」

 そこには、目が潰れそうなほど美形の裸体があった。

「し、シルバーさん!?」

 なるほど。彼もこっちの方を使っているのか。確かに、これまで一度も被ったことがなかったな。

 挨拶そこそこに体を洗いに行き、俺と同じ浴槽に入ってくる。

 うーむ、なんとも暴力的な裸体だろうか。
 普段は服に隠れていて分からないが、シルバーもかなりの肉体を持っている。

 肉体を眺める俺を気にすることもなく、

「勉学の方は順調ですか?」

「はい、ばっちりです。このままいけば受かると思います」

 なんなら、今試験を受けろと言われても受かる自信があるくらいだ。

「まぁこれもメアのおかげですね」

「確かに、それもあると思いますが、一番は石動さん自身の努力の賜物だと思いますよ」

「そう……ですかね?」

 ストレートに褒められて、思わず声が変に上ずる。

 なんだかんだ、シルバーとゆっくり話す機会ってあんまなかったな。話す時は大体フリードが傍にいたし、二人で会話する時も俺へのアドバイスだったりだからな。

 これもプライベートな事を話すチャンスか。

「そういえば、シルバーさんって、なんでフリードに仕えてるんですか?」

 一番長い付き合いだと聞いているが、詳しい話は一度も聞いたことがない。

「そうですね……特に大きな理由があるわけじゃないです」

「ただ……」とシルバーは言葉を紡ぐ。

「あの人が私にとっての、王であり、親であり……友人だから……ですかね?」

「……?」

 王……というのは分かる。親で友人とは一体どういうことだ?

「すみません。分かりづらいですよね」

「え、あ、まぁ……」

「要は、私にとってとても……とても大事な人だから、ということです」

「な、なるほど」

 フリードの信頼具合から見ても、二人に並々ならぬ絆があることが窺える。
 それこそ、俺なんかが立ち入れないような深い関係が。

 そこがなんだか羨ましくて、それでいて微笑ましいのだ。

「やっぱり、シルバーさんが一番付き合いが長いんですか?」

「ええ。それはもう」

 そう言ってシルバーは笑う。初めて会った時の無機質な印象とはかなり離れているその表情に親しみを感じる。

 そういえば最初に会った時は組み伏せられたっけか。
 あれは……まぁ、飛び掛かった俺が悪いな、うん。

 吸血鬼に老いの概念はあまりないと聞いた。そこから考えるに、きっと数百年の仲だろう。

「明らかに長そうですもんね。それじゃあ、次にロイド達かな?」

 ロイドとレイズ、あるいは屋敷の使用人達だろうか?

 そう思ったのだが、

「いえ、地方にいる吸血鬼が次点にきますね」

「地方にいる?」

「はい。私のような直属の部下が他にもいるんです。現在は吸血鬼達が問題を起こさないように、監視の役割として地方に配置されてます」

「あー……そういうことか」

 それもそうだ。いくら王と言えど、領地の全てを一人で見れるわけがない。それにしても直属の部下か……ロイド達と同じ扱いで、地方の監視を任されるくらいだ。一体どんなやつらなのだろうか。

「いつか、紹介しますよ。誰も彼も、皆個性が強くて面白いですよ」

 興味を抱くを俺を察してなのか、シルバーはそう言う。

「そ、それは……ちょっと怖いかもですね……」

 シルバーの指す、個性が強い、がどの程度なのか想像するだけで恐ろしい。

 腕とか吹っ飛ばされたりしないよな?

 それから、俺とシルバーは他愛のない話で盛り上がり、気づけば一時間も風呂に入り続けていた。

 その後、脱水症状で倒れたことは詳しく言わないでおこう。
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