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第三章 王立学校
第三章蛇足⑦ 「ワタクシの物になりなさい!」
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武闘祭での俺の出番は終わり、前日に怪我をしたキリヤのお見舞いに行こうと病室へ向かった道中。見知った二人組とすれ違った。
視界の端で追いつつも何となく気まずさを感じ、無視して通り過ぎようとするのだが、
「私達に何か言いたいことでもあるのかしら」
そう言って話しかけてくる青髪の少女、ラキ・エルジェリアは鋭い眼光でこちらを睨んできていた。その瞳は彼女の毒舌の片鱗を感じさせるもので、思いがけず縮こまってしまう。
しまった。顔に出てたか?
「いや、とくに……」
「とぼけないで。どうせ、私達があっさり負けたことを内心笑ってるんでしょ」
そう言えば昨日の試合、俺がホフマンとやり合ってる時にこの二人はアルエルと戦っていたんだったな。
「笑ってねぇよ。あれは相手が悪かったと思うぜ」
四天王の一人、アルエル・エルロットはこの学校の上位も上位の人間だ。魔力量に技量、そして使い魔との連携。どれを上げても欠点がない。
そもそもの話、二年生の中で勝てる者がいるのかどうかも怪しい。たとえ、ガルドやトウヤでも勝てない可能性が高いだろう。
「その言い草、あーし気に入らなーい」
「そうね。やっぱり三位ともなると余裕から違うのかしら」
「違わねーよ。焦ってビビッて、そんで収まるとこに収まっただけだ」
俺のやり方で、俺にできることをした。それにクロバやレインの助けもあってのあの順位でもある。かなり上振れしたと言ってもいいかもしれない。
「……一つ聞かせて。仮に、あの時あなたと四天王の二人しかいなかったら、あなたは勝ってた?」
「厳しいとは思う。最善は尽くすけどな」
「……そう」
俺の返答に不満を感じたのか、はたまた安心したのか、微妙な表情でラキはそっと下を向く。
そんな会話の合間を縫って、俺の背後の方からコツコツと足音が聞こえてきた。
「あらあら、何の話をしてらっしゃいますの?」
後ろを振り返るとそこには、金髪でロール髪の人形のような少女が不遜な笑みでこちらの会話に飛び入ってくる。
「リスカ……あなた」
「なるほど……ふふっ、敗北の傷を男に慰めてもらうなんて、あなた方もお可愛いところがありますのね」
「はぁ?」
「変なこと言わないで頂戴」
「あら、否定しなくてもいいですのに」
カラカラと二人の神経を逆なでするように笑い、リスカは手に持っていた扇を閉じる。
「だったらあんたも慰めてもらえば? 被害者一号」
「言ったら慰めてもらえるんですの?」
アメリアの皮肉ものらりと躱し、リスカは俺に視線を移してきた。その長いまつげに吸い込まれそうな感覚を覚えるが、「ふぅ」とため息をついて誤魔化す。
「俺に変なパスだすなよ……」
やはり女子の争い事は怖い。なんというか、正面からぶつかるのではなく、どれだけ遠回しに相手を打ち負かせるかに特化しているように思える。
きっと俺じゃ一生かかってもレスバに勝てないだろう。
苦い顔をする俺を気にすることもなく、リスカは腕を組み、
「イスルギさん。三位入賞おめでとうございます。よく生き残りましたわね」
「半分は他の奴のおかげだけどな。ま、ありがと」
こうやって素直に褒められると悪い気はしない。でも、リスカって自己中心的に見えて、案外素直なのかという気持ちが同時に湧き上がってきた。
申し訳ないが、典型的なお嬢様の彼岸不遜な態度がどうしても頭に浮かんで、偏見が先に来てしまう。
例えばだが、「あなたが上位に入るなんて、何かの間違いですわ!」ぐらいは言うと思っていた。
ごめんな、リスカ。
心で謝る俺にニコリとリスカは笑いかけてくる。
「そんなイスルギさんに提案がありますの」
「ん?」
そう言って勢いよく俺に扇の先端を向け、
「あなた、ワタクシの物になりなさい!」
「え」
「は」
「はぁぁぁぁ!?」
突然の宣言に俺を始めとした一同が驚嘆の声を上げる。今何て言った? ワタクシのもの? 物……モノ?
「ちょっ!? リスカ、あんた何言って!?」
「あら、当然のことですわ。顔良し、学力良し、実力良し。同年代の者と比較しても有望なのは目に見えて分かる。手は早めに打つのがよくって?」
リスカは扇を広げ、口元を隠しながら上部からこちらを覗いてくる。
「あなた……前にいた婚約者は?」
「……ああ、あの殿方には謹んで辞退させていただきましたわ。もとからそこまで我が家の利となる者では無かったので」
婚約者がいたのかよというツッコみと、しかも切ったのかよというツッコみが口元まで出かかる。しかし、それを遮るように再度リスカは口を開き、
「ワタクシにあなたという男は相応しい。当家に婿入りという形で入りなさい!」
そう、ほぼプロポーズのようなセリフが響き渡った。
「い、いやいやいやいや! 無理だって!」
「あら? 何か不満が?」
「大ありだ! 第一、俺には恋人がいる!」
「そしたら、その恋人共々我が家に入ればいいのですわ!」
「無茶苦茶すぎんだろ!」
リスカの驚愕の提案にあのラキも呆れながら、
「……そうね、流石に暴論がすぎるんじゃないかしら」
「引くわー」
アメリア共々俺を擁護するかのように諭してくれる。
今だけお前たちが女神に見えるぜ。
「ってか、そもそもリスカって俺のこと好きなわけじゃないだろ? それなのに結婚とか……ほら、な?」
俺とリスカの接点と言ったらほぼ無いと言ってもいい。そりゃクラスが同じなのだから顔を合わせる機会も話す機会もそれなりにあるのだが、そんなの他の同級生も同じだ。
しかし、リスカは薄ら笑いをして、
「あら? ワタクシ、こう見えてあなたのこと、かなり好意的に見ていますのよ?」
「へ?」
再び大胆発言に空気が凍り付く。それでもなお、リスカはその自信に満ちた振る舞いを崩さず、
「ま、断るというなら今はそれでいいですわ。でも、ワタクシ欲張りですの。一度狙った獲物は逃がさないくらいには、ね」
そう言って俺の瞳の奥をじっと見つめてきて、背筋にゾクッと寒気が走る。そんな俺の反応とは対照的に声高らかに、
「それじゃあ、ごきげんよう!」
言うだけ言って、リスカは歩いて行ってしまった。
「なんかまた悩みの種が……」
再びフリードが以前言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
「人間にはヤバい奴が多い」
どうやらその裏付けが完了してしまったようだ。実際のところ、この学校は頭の良い人が多いからその気は感じづらいが、ふとした時に垣間見る機会がある。
「結婚おめでとう、イスルギくん。まさか在学中に結婚するなんて、あなたが初めてじゃないかしら」
「しねーよ! 勝手に話進めんな!」
冗談混じりにラキが小馬鹿にした表情を向けてくる。一方、アメリアはまだ引いている時の顔のままで、
「あんたもよく厄介なのに目付けられるね」
意外にも、俺に同情してくれているようだった。
厄介な者に……か。
思えば最近、こいつらも含めて厄介事に巻き込まれている気がしてならない。
それはレインであり、リスカであり、そしてこれからきっとホフマンも入るのだろう。そう考えるとため息も自然と出てしまうものだ。
「まぁ……たしかに」
そう呟いて、思わず視線がアメリアに向かっていってしまった。意外と目敏い彼女はそれを見逃さず、
「今、あーし達のことも厄介だって思ったろ?」
じっとこちらを睨んでくる。
いつもなら否定するところだが、思考よりも先に口が勝手に動き、
「分かってんじゃねーか」
「てめっ!?」
俺の言葉に触発されたアメリアが身を乗り出してくる。怒りを露わにする彼女をラキは制止し、
「行くわよ、アメリア。これ以上時間を無駄にしたくないわ」
「わ、分かった」
「それじゃ、またねイスルギくん。あ、間違えた。旦那君」
「やめろよ!?」
惜しみなく先ほどの出来事をいじり、二人は立ち去って行った。
「はぁ……せっかくレインから解放されたと思ったのにな……」
リスカはレインより話が通じる?と思うので、そこだけはまだ救いかもしれない。
ともあれ、先が恐ろしいな。
俺の耳には、彼女の発言がなおも残り続けていた。
視界の端で追いつつも何となく気まずさを感じ、無視して通り過ぎようとするのだが、
「私達に何か言いたいことでもあるのかしら」
そう言って話しかけてくる青髪の少女、ラキ・エルジェリアは鋭い眼光でこちらを睨んできていた。その瞳は彼女の毒舌の片鱗を感じさせるもので、思いがけず縮こまってしまう。
しまった。顔に出てたか?
「いや、とくに……」
「とぼけないで。どうせ、私達があっさり負けたことを内心笑ってるんでしょ」
そう言えば昨日の試合、俺がホフマンとやり合ってる時にこの二人はアルエルと戦っていたんだったな。
「笑ってねぇよ。あれは相手が悪かったと思うぜ」
四天王の一人、アルエル・エルロットはこの学校の上位も上位の人間だ。魔力量に技量、そして使い魔との連携。どれを上げても欠点がない。
そもそもの話、二年生の中で勝てる者がいるのかどうかも怪しい。たとえ、ガルドやトウヤでも勝てない可能性が高いだろう。
「その言い草、あーし気に入らなーい」
「そうね。やっぱり三位ともなると余裕から違うのかしら」
「違わねーよ。焦ってビビッて、そんで収まるとこに収まっただけだ」
俺のやり方で、俺にできることをした。それにクロバやレインの助けもあってのあの順位でもある。かなり上振れしたと言ってもいいかもしれない。
「……一つ聞かせて。仮に、あの時あなたと四天王の二人しかいなかったら、あなたは勝ってた?」
「厳しいとは思う。最善は尽くすけどな」
「……そう」
俺の返答に不満を感じたのか、はたまた安心したのか、微妙な表情でラキはそっと下を向く。
そんな会話の合間を縫って、俺の背後の方からコツコツと足音が聞こえてきた。
「あらあら、何の話をしてらっしゃいますの?」
後ろを振り返るとそこには、金髪でロール髪の人形のような少女が不遜な笑みでこちらの会話に飛び入ってくる。
「リスカ……あなた」
「なるほど……ふふっ、敗北の傷を男に慰めてもらうなんて、あなた方もお可愛いところがありますのね」
「はぁ?」
「変なこと言わないで頂戴」
「あら、否定しなくてもいいですのに」
カラカラと二人の神経を逆なでするように笑い、リスカは手に持っていた扇を閉じる。
「だったらあんたも慰めてもらえば? 被害者一号」
「言ったら慰めてもらえるんですの?」
アメリアの皮肉ものらりと躱し、リスカは俺に視線を移してきた。その長いまつげに吸い込まれそうな感覚を覚えるが、「ふぅ」とため息をついて誤魔化す。
「俺に変なパスだすなよ……」
やはり女子の争い事は怖い。なんというか、正面からぶつかるのではなく、どれだけ遠回しに相手を打ち負かせるかに特化しているように思える。
きっと俺じゃ一生かかってもレスバに勝てないだろう。
苦い顔をする俺を気にすることもなく、リスカは腕を組み、
「イスルギさん。三位入賞おめでとうございます。よく生き残りましたわね」
「半分は他の奴のおかげだけどな。ま、ありがと」
こうやって素直に褒められると悪い気はしない。でも、リスカって自己中心的に見えて、案外素直なのかという気持ちが同時に湧き上がってきた。
申し訳ないが、典型的なお嬢様の彼岸不遜な態度がどうしても頭に浮かんで、偏見が先に来てしまう。
例えばだが、「あなたが上位に入るなんて、何かの間違いですわ!」ぐらいは言うと思っていた。
ごめんな、リスカ。
心で謝る俺にニコリとリスカは笑いかけてくる。
「そんなイスルギさんに提案がありますの」
「ん?」
そう言って勢いよく俺に扇の先端を向け、
「あなた、ワタクシの物になりなさい!」
「え」
「は」
「はぁぁぁぁ!?」
突然の宣言に俺を始めとした一同が驚嘆の声を上げる。今何て言った? ワタクシのもの? 物……モノ?
「ちょっ!? リスカ、あんた何言って!?」
「あら、当然のことですわ。顔良し、学力良し、実力良し。同年代の者と比較しても有望なのは目に見えて分かる。手は早めに打つのがよくって?」
リスカは扇を広げ、口元を隠しながら上部からこちらを覗いてくる。
「あなた……前にいた婚約者は?」
「……ああ、あの殿方には謹んで辞退させていただきましたわ。もとからそこまで我が家の利となる者では無かったので」
婚約者がいたのかよというツッコみと、しかも切ったのかよというツッコみが口元まで出かかる。しかし、それを遮るように再度リスカは口を開き、
「ワタクシにあなたという男は相応しい。当家に婿入りという形で入りなさい!」
そう、ほぼプロポーズのようなセリフが響き渡った。
「い、いやいやいやいや! 無理だって!」
「あら? 何か不満が?」
「大ありだ! 第一、俺には恋人がいる!」
「そしたら、その恋人共々我が家に入ればいいのですわ!」
「無茶苦茶すぎんだろ!」
リスカの驚愕の提案にあのラキも呆れながら、
「……そうね、流石に暴論がすぎるんじゃないかしら」
「引くわー」
アメリア共々俺を擁護するかのように諭してくれる。
今だけお前たちが女神に見えるぜ。
「ってか、そもそもリスカって俺のこと好きなわけじゃないだろ? それなのに結婚とか……ほら、な?」
俺とリスカの接点と言ったらほぼ無いと言ってもいい。そりゃクラスが同じなのだから顔を合わせる機会も話す機会もそれなりにあるのだが、そんなの他の同級生も同じだ。
しかし、リスカは薄ら笑いをして、
「あら? ワタクシ、こう見えてあなたのこと、かなり好意的に見ていますのよ?」
「へ?」
再び大胆発言に空気が凍り付く。それでもなお、リスカはその自信に満ちた振る舞いを崩さず、
「ま、断るというなら今はそれでいいですわ。でも、ワタクシ欲張りですの。一度狙った獲物は逃がさないくらいには、ね」
そう言って俺の瞳の奥をじっと見つめてきて、背筋にゾクッと寒気が走る。そんな俺の反応とは対照的に声高らかに、
「それじゃあ、ごきげんよう!」
言うだけ言って、リスカは歩いて行ってしまった。
「なんかまた悩みの種が……」
再びフリードが以前言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
「人間にはヤバい奴が多い」
どうやらその裏付けが完了してしまったようだ。実際のところ、この学校は頭の良い人が多いからその気は感じづらいが、ふとした時に垣間見る機会がある。
「結婚おめでとう、イスルギくん。まさか在学中に結婚するなんて、あなたが初めてじゃないかしら」
「しねーよ! 勝手に話進めんな!」
冗談混じりにラキが小馬鹿にした表情を向けてくる。一方、アメリアはまだ引いている時の顔のままで、
「あんたもよく厄介なのに目付けられるね」
意外にも、俺に同情してくれているようだった。
厄介な者に……か。
思えば最近、こいつらも含めて厄介事に巻き込まれている気がしてならない。
それはレインであり、リスカであり、そしてこれからきっとホフマンも入るのだろう。そう考えるとため息も自然と出てしまうものだ。
「まぁ……たしかに」
そう呟いて、思わず視線がアメリアに向かっていってしまった。意外と目敏い彼女はそれを見逃さず、
「今、あーし達のことも厄介だって思ったろ?」
じっとこちらを睨んでくる。
いつもなら否定するところだが、思考よりも先に口が勝手に動き、
「分かってんじゃねーか」
「てめっ!?」
俺の言葉に触発されたアメリアが身を乗り出してくる。怒りを露わにする彼女をラキは制止し、
「行くわよ、アメリア。これ以上時間を無駄にしたくないわ」
「わ、分かった」
「それじゃ、またねイスルギくん。あ、間違えた。旦那君」
「やめろよ!?」
惜しみなく先ほどの出来事をいじり、二人は立ち去って行った。
「はぁ……せっかくレインから解放されたと思ったのにな……」
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