冒険者を引退してバーのマスターになりました

ぜーたまっくす

文字の大きさ
20 / 60

20 領主ご来店

しおりを挟む
「あの時、勇者との同行を拒否し、市民に紛れた者・・・ハルヒト:サカナバか・・・」

軍人でもないのに度々名前の出てくるハル・・・気にならないわけがなかった。

それゆえに領主はハルの調査を命じたのである。



決して多くは無い支度金を持って城下に下り、勇者の協力もあって店を出した・・・あの男・・・

あっという間に冒険者ギルドでランクを上げワイバーンを単独討伐するほどの力・・・

最初は小僧という報告だったが、グラスランドの可能性を指摘、抗争の黒幕にベンニーニャがいる事を仄めかす。

獣人やエルフ、ドワーフといった亜人とも友好関係を築く・・・あの男・・・

あの気難しいフェアリーが住み着くくらいは害の無い男・・・

書かれた内容は一般的には異常ともいえるが、異世界からの召喚者となれば納得もいく・・・


その上、フォーセリア公爵のハインデル、エルディラント伯爵家の令嬢とも交流を持つ・・・か・・・


調査書に目を通し呟く・・・


「今一度、おうてみるか・・・」

ミスルトウに行ってみることを決意する・・・もちろんお忍びで・・・だ。

この領主もまた他世界の領主の例に漏れず、お出かけが好きな人物だった・・・


そして今に至る・・・

ハインデル様を引き連れてのご来店だ・・・

仕入れていたベルフェクションをボトルで出し、好きなように飲んでもらう・・・


「ハル殿はこの先どうするおつもりか?」

唐突な質問・・・どんな意味を持つのか?

「私はこの店を切り盛りして趣味のお酒に携われれば満足なのですが」

怪訝そうな表情・・・

「力もコネも場合によっては権力すらあるのにか?」

いや・・・権力は無いだろ?あるのはハインデル様や勇者であって俺じゃない・・・

「私なんて一介のバーテンダーですよ」

なにやら考えてる領主様・・・やめてくれよ・・・面倒な事に巻き込むのは・・・

異世界チートで俺TUEEEEE、からの成り上がりなんてのは求めてない・・・

平穏と安全が一番だ・・・奴隷としてフィリアンがいるが、女をはべらせるハーレム願望も無い。

今までを見てもらえばわかるだろ?店員以外の扱いはしてないぞ・・・

ハンティを性的な目で見た事は一度も無い!断言できる!!

フィリアンは・・・元々俺好みだから買ったってのもあって、若干エロ目で見た事はあるが・・・

店を持つ以上の野望は最初から持ち合わせていない。

強いて言えば、美味い酒を手に入れたいってくらいだ。

その辺りを正直に言う。

「店主殿は欲がない・・・その気になったら大臣にだってなれるだろうに・・・」

しみじみと言うハインデル様だが、ある意味納得の表情で頷く・・・

「どんな勘違いをされているかわかりかねますが、今のこの環境や立場に満足しております。上を目指す気はありませんよ」

そういって笑ってやる。

そこまでの会話はある程度予想の範囲内だ、自覚しているが、危ない橋を渡ったのも理解してる。

グラスランドの一件には余計な口を挟みすぎた・・・



「ところでハル殿よ、なんでも珍しい酒を手に入れたそうだな・・・」

ハインデル様め・・・フェアリーズネクターの事を話したな・・・

しか~し、そんな事もあろうかと脳内シミュレートはできている!

「お耳が早いですね、とても貴重な物が手に入りましたよ」

「では・・・それを頂こうか・・・」

クックックと、俺は心の中で笑う

「本当に飲まれるのですか?」

「無論だ、是非出してほしい」

ご期待にはお応えしましょう!

「かしこまりました」

確認は取ったし文句を言われる筋合いではない!

ショットグラスに濃い緑色の酒を注ぐ・・・

グラスランドのおばぁちゃまから買い付けた苦酒だ・・・

フェアリーズネクターだと思ってたハインデル様は怪訝な表情・・・

そりゃそうだろう・・・フェアリーズネクターの、濃い黄金色の酒ではなくおもいっきり緑の酒だ・・・

「どうぞ・・・」

そう言って出してやる。



不敬だと思われてもいい!あれは出さないってハインデル様にも幾度となく言った!

権力を笠に傍若無人な振る舞いはこの店ではさせない!

それが誰であってもだ・・・

・・・と言いながらもエルディラント伯爵令嬢のお茶会はやったわけだが・・・

いや、女性に逆らう気は基本的に無い・・・

あれは権力者だろうがなんだろうが・・・雰囲気で負ける・・・

ともあれ、領主は苦酒に口をつける

ショットグラスをクイっと一気にあける・・・

「!?  ゴホッ ゴホゴホッ」

咽る領主、困った顔のハインデル様・・・

「水を!なんだこの酒は!ものすごく苦・・・ああ、ありがとう」

水を一気に飲み干す

「先日手に入れたグラスランドの秘蔵の酒です。主な素材は各種の薬草ですので健康にもいいですよ」

ハインデル様も口元を抑え笑いを堪えている・・・

この領主に思う所があるんだな・・・

スッキリサワヤカな笑顔でこの酒の講釈を垂れてやろう・・・

「この酒は、グラスランドで古くから伝わる製法をそのままに作っている物で、今となっては作り手も少なくなり、
あの集落で作ってる方と偶然知り合い無理を言って分けてもらった貴重な酒なのです。」

まぁ、ハインデル様も手に入れられた事から、中に入れさえすればどうにか手に入るレベルだが。

「この酒を造ってる老婆が言うには、これを飲み続けてる限り、後300年は生きられそうだと申しておりました。
グラスランドの長寿の秘訣なのかもしれません」

俺は知っている・・・飲まない奴も長寿なのだ・・・種族的なものに違いない・・・さすが長寿の妖精の系譜・・・


予想していた物とは全然違う物であったが、間違いなく『最近手に入れた貴重な酒』である。

健康長寿の秘酒とも言われれば文句も言えない・・・



意地悪ばかりでは心象も悪かろう・・・と一杯の酒を作り始める。

この苦酒を使ったカクテルを・・・


この苦酒、自分の記憶にある中で似ている物は・・・

アブサンである 香りと苦みが強い癖のある酒って意味ではどっちもどっちってレベル

色も似てるしな・・・

そんなわけで作るカクテルは『アイリッシュ・ブラックソーン』

レシピは


 アイリッシュ・ウィスキー 30 ml
 ドライ・ベルモット 30 ml
 苦酒 2 ml
 アロマチック・ビターズ 2 ml

これをステアで完成する・・・が、ここは見た目を派手に演出するためにシェイカーを振る

ロックグラスに注いてお出しする。

「グラスランドではそのまま飲むのが主流のようですが、こうして飲めば口当たりもよく健康維持にもなるかと思います」

奇麗な透明感のある赤茶色のカクテル。

興味をひかれたのかハインデル様も同じ物を注文してくる。


「これはいいな・・・」と領主の言葉

「辛口を好むデュオラント様にはよろしいのではないでしょうか?」

ハインデル様も乗ってくる・・・そうか!領主の名前はデュオラントか・・・覚えておこう・・・


その後も

気を良くしたデュオラント様は色々な酒を楽しそうに飲みまくった・・・

護衛の方も苦笑いだ・・・

グデグデに酔っ払い、フラフラになっているデュオラント様を護衛の方が介護する

支払いは、ハインデル様がしてくださいました・・・

上司が飲んでる中、仕事とはいえ見てるだけでさぞ辛かっただろう・・・と

帰ってから飲んでください・・・と心付でジョニーウォーカー黒ラベルを一本渡すとそれはもう嬉しそうに礼を返してくれた


ジョニ黒は飲み口、味共にしっかりとしながらも飲みやすいウィスキー初心者にもお勧めできる一本です。

ウィスキーはどれを選んでいいかわからない・・・でも試してみたいって言うのなら値段もお手頃ですし、こちらを試してはいかがでしょうか?


そうして要介護のデュオラント様は御帰還なされました・・・

しおりを挟む
感想 347

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...