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3.何かがおかしい……
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石原先生を含めたクラスの全員が不安そうな顔をして黙りこくったまま、ヘンに静かな時間が流れた。こんなふうに景色がみえないと、時間の感覚もわからなくなるよ。
でも、五分か十分くらいだったかな。
先生が急にパッと明るい声をあげた。
「運転手さん! ガイドさん!」
クラス全員がフロントガラスに注目すると、白い煙の中を運転手さんとガイドさんが足早に戻ってくるのが見えた。
「なんとかなりそうだね」
ぼくが笑っていうとドクは「うーん……そうだねぇ」と、なにかが引っかかっているような反応。
どうしたんだろう?
とにかく、山の中でいつまで続くかわからない立ち往生からは抜け出せそうだよね。
今はその喜びのほうが大きい。
バスに戻ってきた運転手さんたちは、さっそく先生たちと相談をはじめた。
「道、間違ってませんでしたよ。私の勘違いでした、すみません」
「あら、そうですか。それじゃ、山中湖へは……」
「ええ、問題ありませんよ。いつもの道は工事中でいまは使えないんですが、こっちの古い道からでも行けるんです。いやあ、ナビってあんまりアテにしていなかったけど、かしこいんですねぇ」
運転手さんは先生と話して恥ずかしそうに頭をかいている。
ちょっと意味がわからなかったからドクにたずねると、すぐに「運転手さんの知らない別ルートで山中湖まで行けるってことだよ」と、かみくだいて教えてくれた。
さっすがドク! 持つべきものは友だよね。
ドクはぼくらが熱中しているオンラインゲーム『ドラゴン・オデッセイ』でも、チームの頭脳としていつも活躍してくれている。
初めて目にするモンスターに出会ったときや、強いボスと戦うときは、ドクのリサーチや知識が本当に頼りになるんだ。
もちろん、神官――つまり回復役としても信頼している。
先生と運転手さんたちに注目していて気づかないうちに、窓の外の景色がもとに戻っていた。
あたり一面を真っ白にしていた煙はいつの間に、どこへ行ったんだろう?
そんなわけで、ひと騒動あったものの、ぼくらを乗せたバスは再び目的地の山中湖にむけて走りだしたんだ。
不安な気持ちのままバスに閉じこめられていた時間が長かったせいか、再出発から到着まではあっという間に感じた。
信号のない山道から外れてひさしぶりに横断歩道を見たような気がしたと思ったときには、窓の外に広い湖が広がっていたんだ。
バスはまず、湖畔に面した宿泊施設の駐車場にすべりこんだ。
「ここが『コトリ荘』ね……」
「そうみたい……」
バスの窓から施設を見上げて、サツキが自分にいい聞かせるようにつぶやいた。
僕は同じく低いテンションでうなずく。
入り口の隣にある「コトリ荘」と書かれた看板には、水色とピンクのメルヘンチックな鳥が描かれている……のだけれど、色あせてところどころハゲかかっているため、かわいらしいよりもむしろ怖い。
たしかに最初からピカピカのホテルに泊まれるなんて期待していなかったけれど、もう少しキレイでイマドキのところを想像していたんだよね。
でも何度見なおしてみてもコトリ荘は、色あせたオレンジのかわら屋根の、古ぼけた旅館みたいな建物だった。
もともとは白かったらしい壁は、窓から黒く雨のあとがいく筋もたれさがっている。
その窓ガラスも、あまり掃除されていないのかくもっていた。
そとからはなかの様子がよく見えない。
きわめつけは、入り口の両開きドアのところに、いままで見たこともないような巨大なクモの巣があったこと!
ぼくらはなんとか勇気をふりしぼって入れたけれど、ユリだけは怖がって五分以上もロビーに入れなかった。
「それではみなさん、一度部屋に荷物を置いてください。お弁当と水筒を持って食堂に集合して、お昼を食べましょう。それからハイキングに出発します。水筒のお水がなくなった人は、外の駐車場でお茶を入れてもらってくださいね」
「はーい」
石原先生や施設のオバサンに案内されながらぼくらは階段を上がる。
たどり着いた二階の、向かって右が男子の大部屋、左が女子の大部屋だ。
たぶん、本当は宴会なんかで使われるんじゃないかな?
その大部屋にズラッとふとんを並べて寝るらしい。
班ごとに部屋があればもっと良かったんだけれど……それは四年生の移動教室からなんだってさ。つまんない。
ようやくデカくて重いリュックから開放されると、スカッとした気分になった。
食堂へ下りる足取りも、なんだか軽やかになっちゃうよね。
思わずスキップしそうになるのをギリギリでがまんして、食堂で昼食を広げた。
「いただきまーす!」
食事のあいさつは班ごとでオーケー、ってことで、ぼくらはさっそく弁当にがっついた。
ぼくの弁当は、お茶漬けのりをまぶしたおにぎり、カレー風味チキン、デザートはプラム。
さすがお母さん、わかってるなぁ。全部ぼくの大好物だもんね。
こういう特別なときに一番おいしいと思える料理でお腹いっぱいになれるのは幸せだなあ、としみじみ思う。
「旅先で食う弁当はサイコーだよな!」
ケンがタコさんウインナーにパクつきながらいった。
バスで怖い目にあったのに、弁当を前にするとケロリとして上機嫌だ。
となりでは、ドクがウンウンとうなずきながらおにぎりを食べているんだけれど、そのサイズが小さい!
ぼくのおにぎりの半分くらいだ。あれでたりるのかな?
ドクが小柄なのは食べる量が少ないからなのか、あまり食べられないから体が小さいのか……あれ、こういうのなんていうんだっけ?
タマゴが先か、ニワトリが先か?
向かいの席では、サツキとユリのコンビが上品にサンドイッチをかじっていた。
おいしそうではあるけれど、あれじゃ夕食までもたないんじゃないかな?
なんてよけいな心配をしてしまうぼくだった。
弁当を食べて、体力が回復! ぼうけんの基本だよね。
実はぼく、けっこう野菜の好き嫌いが多いほうだったんだけれど、『ドラゴン・オデッセイ』のおかげでだいぶ食べられるようになったんだ。
ゲームの中でも、肉や魚ばかり食べているとステータス……ってわかるかな?
キャラクターの力やすばやさみたいな数値が上がりにくくなって、強くなれないんだよね。
ゲームと現実ではまた話が違ってくるんだろうけれど、やっぱり気になっちゃって、あまり好きじゃないニンジンや生のタマネギも、少しくらいは食べてもいいかなと思うようになった。
でも、五分か十分くらいだったかな。
先生が急にパッと明るい声をあげた。
「運転手さん! ガイドさん!」
クラス全員がフロントガラスに注目すると、白い煙の中を運転手さんとガイドさんが足早に戻ってくるのが見えた。
「なんとかなりそうだね」
ぼくが笑っていうとドクは「うーん……そうだねぇ」と、なにかが引っかかっているような反応。
どうしたんだろう?
とにかく、山の中でいつまで続くかわからない立ち往生からは抜け出せそうだよね。
今はその喜びのほうが大きい。
バスに戻ってきた運転手さんたちは、さっそく先生たちと相談をはじめた。
「道、間違ってませんでしたよ。私の勘違いでした、すみません」
「あら、そうですか。それじゃ、山中湖へは……」
「ええ、問題ありませんよ。いつもの道は工事中でいまは使えないんですが、こっちの古い道からでも行けるんです。いやあ、ナビってあんまりアテにしていなかったけど、かしこいんですねぇ」
運転手さんは先生と話して恥ずかしそうに頭をかいている。
ちょっと意味がわからなかったからドクにたずねると、すぐに「運転手さんの知らない別ルートで山中湖まで行けるってことだよ」と、かみくだいて教えてくれた。
さっすがドク! 持つべきものは友だよね。
ドクはぼくらが熱中しているオンラインゲーム『ドラゴン・オデッセイ』でも、チームの頭脳としていつも活躍してくれている。
初めて目にするモンスターに出会ったときや、強いボスと戦うときは、ドクのリサーチや知識が本当に頼りになるんだ。
もちろん、神官――つまり回復役としても信頼している。
先生と運転手さんたちに注目していて気づかないうちに、窓の外の景色がもとに戻っていた。
あたり一面を真っ白にしていた煙はいつの間に、どこへ行ったんだろう?
そんなわけで、ひと騒動あったものの、ぼくらを乗せたバスは再び目的地の山中湖にむけて走りだしたんだ。
不安な気持ちのままバスに閉じこめられていた時間が長かったせいか、再出発から到着まではあっという間に感じた。
信号のない山道から外れてひさしぶりに横断歩道を見たような気がしたと思ったときには、窓の外に広い湖が広がっていたんだ。
バスはまず、湖畔に面した宿泊施設の駐車場にすべりこんだ。
「ここが『コトリ荘』ね……」
「そうみたい……」
バスの窓から施設を見上げて、サツキが自分にいい聞かせるようにつぶやいた。
僕は同じく低いテンションでうなずく。
入り口の隣にある「コトリ荘」と書かれた看板には、水色とピンクのメルヘンチックな鳥が描かれている……のだけれど、色あせてところどころハゲかかっているため、かわいらしいよりもむしろ怖い。
たしかに最初からピカピカのホテルに泊まれるなんて期待していなかったけれど、もう少しキレイでイマドキのところを想像していたんだよね。
でも何度見なおしてみてもコトリ荘は、色あせたオレンジのかわら屋根の、古ぼけた旅館みたいな建物だった。
もともとは白かったらしい壁は、窓から黒く雨のあとがいく筋もたれさがっている。
その窓ガラスも、あまり掃除されていないのかくもっていた。
そとからはなかの様子がよく見えない。
きわめつけは、入り口の両開きドアのところに、いままで見たこともないような巨大なクモの巣があったこと!
ぼくらはなんとか勇気をふりしぼって入れたけれど、ユリだけは怖がって五分以上もロビーに入れなかった。
「それではみなさん、一度部屋に荷物を置いてください。お弁当と水筒を持って食堂に集合して、お昼を食べましょう。それからハイキングに出発します。水筒のお水がなくなった人は、外の駐車場でお茶を入れてもらってくださいね」
「はーい」
石原先生や施設のオバサンに案内されながらぼくらは階段を上がる。
たどり着いた二階の、向かって右が男子の大部屋、左が女子の大部屋だ。
たぶん、本当は宴会なんかで使われるんじゃないかな?
その大部屋にズラッとふとんを並べて寝るらしい。
班ごとに部屋があればもっと良かったんだけれど……それは四年生の移動教室からなんだってさ。つまんない。
ようやくデカくて重いリュックから開放されると、スカッとした気分になった。
食堂へ下りる足取りも、なんだか軽やかになっちゃうよね。
思わずスキップしそうになるのをギリギリでがまんして、食堂で昼食を広げた。
「いただきまーす!」
食事のあいさつは班ごとでオーケー、ってことで、ぼくらはさっそく弁当にがっついた。
ぼくの弁当は、お茶漬けのりをまぶしたおにぎり、カレー風味チキン、デザートはプラム。
さすがお母さん、わかってるなぁ。全部ぼくの大好物だもんね。
こういう特別なときに一番おいしいと思える料理でお腹いっぱいになれるのは幸せだなあ、としみじみ思う。
「旅先で食う弁当はサイコーだよな!」
ケンがタコさんウインナーにパクつきながらいった。
バスで怖い目にあったのに、弁当を前にするとケロリとして上機嫌だ。
となりでは、ドクがウンウンとうなずきながらおにぎりを食べているんだけれど、そのサイズが小さい!
ぼくのおにぎりの半分くらいだ。あれでたりるのかな?
ドクが小柄なのは食べる量が少ないからなのか、あまり食べられないから体が小さいのか……あれ、こういうのなんていうんだっけ?
タマゴが先か、ニワトリが先か?
向かいの席では、サツキとユリのコンビが上品にサンドイッチをかじっていた。
おいしそうではあるけれど、あれじゃ夕食までもたないんじゃないかな?
なんてよけいな心配をしてしまうぼくだった。
弁当を食べて、体力が回復! ぼうけんの基本だよね。
実はぼく、けっこう野菜の好き嫌いが多いほうだったんだけれど、『ドラゴン・オデッセイ』のおかげでだいぶ食べられるようになったんだ。
ゲームの中でも、肉や魚ばかり食べているとステータス……ってわかるかな?
キャラクターの力やすばやさみたいな数値が上がりにくくなって、強くなれないんだよね。
ゲームと現実ではまた話が違ってくるんだろうけれど、やっぱり気になっちゃって、あまり好きじゃないニンジンや生のタマネギも、少しくらいは食べてもいいかなと思うようになった。
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