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3.何かがおかしい……
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昼食を終えて駐車場にいくと、施設のオバサンがふつうの三倍くらいある巨大なヤカンを手にして待ち構えていた。
水筒に麦茶を入れてくれるらしい。
オバサンの前には、すでに麦茶を求める生徒たちの長い列ができていた。
「麦茶かー、あんまり得意じゃないんだよね」
「ボクも、ウーロン茶がよかったなぁ」
ぼくのつぶやきに乗っかりつつも、ドクはおとなしく麦茶の列に並んだ。
その後ろでちょっとした問題が発生したんだ。
「どうしよう……アタシ、スポドリ入れてきちゃった」
「えっ、サツキちゃん……どうするの?」
サツキが明らかにうろたえた声をだしてユリに心配されている。
ちょっとめずらしい光景だ。
いつもはだいたい、ユキが「どうしよう」ってなるのをサツキがはげましたりなぐさめたりするパターンだからね。
「なるほど、しおりに書かれていたのは、これを見越してのことだったんだねぇ」
「どういうこと?」
一人で納得しているドクにたずねると、彼はちょっとニヤッとしながらいった。
「持ち物リストに『水筒(水かお茶)』ってあったでしょ」
「うん、そういえば」
「あれは、ここで麦茶を補充するから指定されていたんだよ。ウーロン茶や緑茶なら、残りに麦茶をつぎたしても、まあ、そんなに大変なことにはならないけど、もしジュースやスポーツドリンクだったら……」
ぼくはスポドリの入ったグラスに麦茶を注ぐところを想像してしまい、顔をゆがめた。
「ファミレスのドリンクバーでオリジナルドリンクを作ることはあるけれど、ふつうはオレンジジュース+レモンソーダとか、りんごジュース+ジンジャーエールとか、混ぜておいしそうな組みあわせを探すよね」
「うん。わざわざマズそうな組みあわせを試すなんて、飲み物に対するボートクだよ……」
「スポドリ+麦茶……とんでもない味になりそうだ」
結局サツキは駐車場にあった水道に残ったスポーツドリンクを捨てて、水で水筒をゆすいでから麦茶を入れてもらったらしい。
一件落着ってやつかな。
でも、もし強引にスポドリの上から麦茶を注がれたとしたら、サツキはどんな顔でそれを飲んだのか。
なんて、イジワルな想像をしなかったとはいわない。
ぼくらは駐車場で二列縦隊になって、そのまま山中湖を一望するハイキングに出発した。
石原先生の説明によると、約七キロの道のりを四時間かけて歩くコースらしい。
ぼくは三組八班の班長だから、七班の人ととなり同士になって歩く。
後ろはドクとケン、さらにサツキとユリが続いて、その後ろは四組の一班が続く陣形だ。
ぼくはこのとき、なんだかヘンな感じがしていた。
でもなにがヘンなのか自分でもよくわからなかったから、班のメンバーにも黙っていた。
そういえば、前から気になっていたことがあるんだ。
こういう山とか田舎なんかに行くと、大人は決まって「空気がおいしい」っていうけれど、ぼくにはおいしさがわからないんだよね。
もちろん、大都会の交差点みたいに排気ガスのにおいのする空気にくらべたら、だんぜんいいのはわかるよ。
でも、たとえば校庭とか家のベランダとか、いやなにおいがないところの空気と、こういう自然に囲まれたところの空気に差はないような気がする。
むしろ、たまに土のカビっぽいにおいや湿った草の青くさいにおいがして……どちらかというとくさい気がするんだけど。
そんなことをいうと大人がウルサイから、親や先生にはいわないけれどね!
ハイキングは、実際のところ少しキツかった。
ゲームでは冒険者として草原や山、どうくつなんかを駆けまわっているけれど、リアルでは座ってゲーム機にかじりついているだけだもん。
ゆるやかな上り坂とはいえ、長く続くとけっこう体力を持っていかれるんだ。
後ろの二人にそれを話すと、ケンは息を切らせながら答えた。
「ママによくいわれるよ、お座敷冒険者、ってさ」
ドクにいたっては、足を前にふみすだけでせいいっぱいらしく、口を開くよゆうすらないみたい。
でもその後ろで、サツキとユリが楽しそうに話していて驚いた。
まるで散歩でもするみたいにペチャクチャしゃべりながら坂道をのぼるなんて、どういう体力をしているんだ?
ちょっとギョッとして見つめていると、サツキは「フフン」とでもいいたげな顔をした。
「アタシとユリはね、ふだんから美容のためにウォーキングしているの。休みの日は十キロくらい歩くんだから。これくらいの坂なんかヘッチャラよ」
なんだろう、ぼくの顔に「どういう体力しているんだ?」って書いてあったとでもいうわけ?
でも、素直にスゴイと思う。女子だからって、か弱いと決めつけるのはやめておこう。
顔を前に戻せば、ヘタばっている人もチラホラいるものの、ほとんどが横や前後の人と楽しそうに話しながら歩いている。
そりゃそうか、行動班は仲良しグループだもんね。
バスでちょっとしたトラブルはあったけれど、大自然に囲まれた湖のほとりで、天気にもめぐまれ――。
そう考えながら何気なく空を見上げた。
頭上は緑の葉がワサワサとしげった木々におおわれていて、空はほとんど見えない。
でも、すきまから少しだけ見える空は、今まで見たこともないほど青かった。
都会は空気があまりきれいじゃないから空がくすんで見えるけれど、ここは空気が澄んでいるから、より青く見えるのかな。
でも空の青って、こんな色でよかったんだっけ……?
「はーい、おつかれさま! ここで休憩でーす!」
先生の声がすると同時に、視界が開ける。ぼくらはついに林を抜けた。
水筒に麦茶を入れてくれるらしい。
オバサンの前には、すでに麦茶を求める生徒たちの長い列ができていた。
「麦茶かー、あんまり得意じゃないんだよね」
「ボクも、ウーロン茶がよかったなぁ」
ぼくのつぶやきに乗っかりつつも、ドクはおとなしく麦茶の列に並んだ。
その後ろでちょっとした問題が発生したんだ。
「どうしよう……アタシ、スポドリ入れてきちゃった」
「えっ、サツキちゃん……どうするの?」
サツキが明らかにうろたえた声をだしてユリに心配されている。
ちょっとめずらしい光景だ。
いつもはだいたい、ユキが「どうしよう」ってなるのをサツキがはげましたりなぐさめたりするパターンだからね。
「なるほど、しおりに書かれていたのは、これを見越してのことだったんだねぇ」
「どういうこと?」
一人で納得しているドクにたずねると、彼はちょっとニヤッとしながらいった。
「持ち物リストに『水筒(水かお茶)』ってあったでしょ」
「うん、そういえば」
「あれは、ここで麦茶を補充するから指定されていたんだよ。ウーロン茶や緑茶なら、残りに麦茶をつぎたしても、まあ、そんなに大変なことにはならないけど、もしジュースやスポーツドリンクだったら……」
ぼくはスポドリの入ったグラスに麦茶を注ぐところを想像してしまい、顔をゆがめた。
「ファミレスのドリンクバーでオリジナルドリンクを作ることはあるけれど、ふつうはオレンジジュース+レモンソーダとか、りんごジュース+ジンジャーエールとか、混ぜておいしそうな組みあわせを探すよね」
「うん。わざわざマズそうな組みあわせを試すなんて、飲み物に対するボートクだよ……」
「スポドリ+麦茶……とんでもない味になりそうだ」
結局サツキは駐車場にあった水道に残ったスポーツドリンクを捨てて、水で水筒をゆすいでから麦茶を入れてもらったらしい。
一件落着ってやつかな。
でも、もし強引にスポドリの上から麦茶を注がれたとしたら、サツキはどんな顔でそれを飲んだのか。
なんて、イジワルな想像をしなかったとはいわない。
ぼくらは駐車場で二列縦隊になって、そのまま山中湖を一望するハイキングに出発した。
石原先生の説明によると、約七キロの道のりを四時間かけて歩くコースらしい。
ぼくは三組八班の班長だから、七班の人ととなり同士になって歩く。
後ろはドクとケン、さらにサツキとユリが続いて、その後ろは四組の一班が続く陣形だ。
ぼくはこのとき、なんだかヘンな感じがしていた。
でもなにがヘンなのか自分でもよくわからなかったから、班のメンバーにも黙っていた。
そういえば、前から気になっていたことがあるんだ。
こういう山とか田舎なんかに行くと、大人は決まって「空気がおいしい」っていうけれど、ぼくにはおいしさがわからないんだよね。
もちろん、大都会の交差点みたいに排気ガスのにおいのする空気にくらべたら、だんぜんいいのはわかるよ。
でも、たとえば校庭とか家のベランダとか、いやなにおいがないところの空気と、こういう自然に囲まれたところの空気に差はないような気がする。
むしろ、たまに土のカビっぽいにおいや湿った草の青くさいにおいがして……どちらかというとくさい気がするんだけど。
そんなことをいうと大人がウルサイから、親や先生にはいわないけれどね!
ハイキングは、実際のところ少しキツかった。
ゲームでは冒険者として草原や山、どうくつなんかを駆けまわっているけれど、リアルでは座ってゲーム機にかじりついているだけだもん。
ゆるやかな上り坂とはいえ、長く続くとけっこう体力を持っていかれるんだ。
後ろの二人にそれを話すと、ケンは息を切らせながら答えた。
「ママによくいわれるよ、お座敷冒険者、ってさ」
ドクにいたっては、足を前にふみすだけでせいいっぱいらしく、口を開くよゆうすらないみたい。
でもその後ろで、サツキとユリが楽しそうに話していて驚いた。
まるで散歩でもするみたいにペチャクチャしゃべりながら坂道をのぼるなんて、どういう体力をしているんだ?
ちょっとギョッとして見つめていると、サツキは「フフン」とでもいいたげな顔をした。
「アタシとユリはね、ふだんから美容のためにウォーキングしているの。休みの日は十キロくらい歩くんだから。これくらいの坂なんかヘッチャラよ」
なんだろう、ぼくの顔に「どういう体力しているんだ?」って書いてあったとでもいうわけ?
でも、素直にスゴイと思う。女子だからって、か弱いと決めつけるのはやめておこう。
顔を前に戻せば、ヘタばっている人もチラホラいるものの、ほとんどが横や前後の人と楽しそうに話しながら歩いている。
そりゃそうか、行動班は仲良しグループだもんね。
バスでちょっとしたトラブルはあったけれど、大自然に囲まれた湖のほとりで、天気にもめぐまれ――。
そう考えながら何気なく空を見上げた。
頭上は緑の葉がワサワサとしげった木々におおわれていて、空はほとんど見えない。
でも、すきまから少しだけ見える空は、今まで見たこともないほど青かった。
都会は空気があまりきれいじゃないから空がくすんで見えるけれど、ここは空気が澄んでいるから、より青く見えるのかな。
でも空の青って、こんな色でよかったんだっけ……?
「はーい、おつかれさま! ここで休憩でーす!」
先生の声がすると同時に、視界が開ける。ぼくらはついに林を抜けた。
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