2 / 73
第一章 幼少期編
第1話 『基礎体力作りは5歳から』
しおりを挟む嘗て、この大陸には四種族と呼ばれる存在「だけ」が居た。
人族。
妖精族。
獣人族。
魔族。
皆、「人型」という共通点はあるが、種族の違いは文化や考え方の違い。いがみ合う事もしばしば。
時には戦にも発展した。
それでも四種族は互いに何とか折り合いをつけ、今日まで繁栄してきたのだが・・・
50年程前に現れた新たな種、「神族」と「悪魔族」によって情勢は激変。互いに争っている場合では無くなったのである。
種族を問わず、数多くの犠牲の末にようやく訪れた仮初めの平和。
そんな事を知らない世代が大半を占める時代に・・・新たな戦の火種。
そして英雄達の誕生が近づいて居る事を・・・まだ、誰も知らない。
「ん~・・・・まだ・・・眠いよ・・・とうちゃん」
東の空がまだ白み始める前。訓練着、と呼ばれる麻製のシャツと短パン姿の少年は大欠伸しつつ、
父親に文句をぶつける
「う・・・・ん・・・・・・眠い・・・よ」
同じく訓練着姿の・・・と言っても、短パンではなくキュロットスカートの様なデザインの少女が同意する。
こちらはまだ半分以上寝ているようだが。
「何を言ってる、リク。シルヴィア。二人とももう5歳になった。今日から朝練をすると言っておいただろう?」
少々呆れた声、そして困ったような笑顔で子供達を見やる中年の男性。年齢はそこそこ行ってるが、
引き締まった体形をしており、見た目だけなら20台後半でも通せそうな若々しさだ。
「いいか?最初から全部こなせ、とは言わない。だからこそ、最初の日の今日はこの時間だ」
「意味わかんないよ、とうちゃん」
言い聞かせる様にする父親に、息子は至極真っ当な疑問をぶつける。実際、朝練の内容も聞いていないのだ。
「・・・・・・くぅ・・・・・」
横を見れば、少女の方が夢の中に舞い戻ろうとしている。肩まで伸ばした栗色の髪が右へ左へ、
危なっかしく揺れる。
慌てて少年が手を繋ぎ、「こちら」へと引き戻す。寝たまま転んだりすれば顔面強打必至である。
「んぅ・・・リっくん・・・・ありがと・・・」
ここにきて流石に少女も目を覚ましてきたようだ。漸くだな、とリクの父-ラルフは心で呟く。
「シルヴィアも大分起きたみたいだな。じゃあ、記念すべき初の朝練の内容を伝えるぞ」
何をさせられるのだろう、と二人は顔を見合わせる。正直、全く予想が付かない。何せ彼らはまだ5歳なのだ。
「何、簡単だぞ?二人とも、後ろの山、見えるな?」
「見えるけど・・・」
「うん・・・」
何を言ってるのか解らない、と少年と少女は首を傾げる。が、続くラルフの言葉で彼らの表情が凍り付いた。
「あの山の頂上に旗を立てておいた。どんな方法でも良いから夜までに取ってきてくれ」
「「・・・・ええええええええええええーーーーーーーー?!」」
二人の絶叫がハモって山彦になる。その音量に驚いた鳥達が、近くの木々から一斉に飛び立った。
叫ぶのも無理はない。ざっと見て、山の麓まで行こうにも大人が半日は掛かりそうな距離。子供の足で行ける距離ではない。
そして、山の標高がそこに乗っかってくる。頂上まで行くとなれば更に半日。つまり・・・
『大人が1日掛かりの行程を半分程度でこなせ』と言っているのだ。無謀なんてものじゃない。不可能だ。
・・・普通ならば、だが。
「きっついなー・・・今までの野山ランニングフルアタックが恋しくなるよ。な、シル?」
短く切った黒髪を右手でがしがしと掻く少年は仏頂面だ。一方、少女はどうだろうかと見れば、
「あはは・・・リっくん。わたし、無理かも知れないけど・・・頑張るから置いていかないでね?」
泣き笑いの様な表情で少年のシャツの裾を掴んでいた。
「大丈夫。なんとかなるよ、きっと」
そんな少女を少年は元気づけようと笑った。笑ったのだが、その笑顔は引き攣っていた・・・
かくしてリクとシルヴィア。朝日と共に最初の試練、裏の山弾丸登頂修練が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる