幼馴染と歩む道 ~知らない間に勇者とか聖女とか呼ばれてました~

Crane

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第一章 幼少期編

第17話 『花園の異変』

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リクとシルヴィアが、それぞれが思う『自分が今やるべき訓練』に励み始めて数ヶ月が過ぎた。

目覚ましい程の効果は当然ないものの、リクは魔力マナの効率化を【弐式・にしき・灼熱剣ヒートブレイド】という技で、自分なりの形を作り始めた。

一方のシルヴィアは、両親の教えを受け、各種回復薬ポーションを中心とした薬師の技術と知識を身につけつつある。

二人がお互いの得意とする分野を考えた結果。『リクが前衛に立ち、シルヴィアが後方から支援する』という、これまで最も多用してきた戦術が、自分達の基本であり、今後も間違いなくこの形をとって戦う事になるだろう、と二人は考えた。

その戦術に磨きをかけ、更には応用した新たな戦闘方法を構築するためにも、互いが同じ強さを目指すのではなく、互いに補い、高め合う強さを求める・・・

かくして、これまでは多少の差はあれど、同じ様な【スキル】を発現してきた二人だったが、数ヶ月の訓練の結果、少なくない変化があった。

まずリクは、ラルフとの真剣勝負を繰り返す内、新たな力・・・【闘気オーラ】の発現まであと一歩、という所まで来ていた。

初めて挑んだ日はたった一合。自分の渾身の一撃を、ラルフに剣で受けさせた・・・と思った瞬間、意識を刈り取られた。

次の日は二合。その次の日は四合・・・・・と僅かずつ、交戦時間を延ばして。ただ無茶な攻撃をする代償に、三日に一度は鉄剣を折ってしまうし、時には魔力マナの調節を失敗して、刀身を融解させたりする事もあった。

しかしリクは、決して諦める事なく毎日父に挑み続けた。強くなりたい一心・・・だけではなく。約束を違えない為にも、負けっぱなしではいられない。

その強い想いが、次第に新たな【スキル】の発現を促し始めたのだ。今のリクはまた自身でコントロール出来る様な段階にはないが、それでも師匠のラルフをして、

『感情が高ぶった時、確かに赤い闘気オーラが出ている事がある。あれはマトモに貰うと俺でもちょっとヤバい』

そう言わしめるだけの威力を秘めた一撃。それを自在に放てるようになるのは、そう遠い話でもなさそうだ。と感じさせるのに十分な変化であった。

シルヴィアも負けてはいない。様々な薬品や薬草と格闘してきた事で、彼女には両親と同じ【薬師】が発現した。

【スキル】の発現に伴い、その腕前は一気に向上し、母・メルディアに大きな差を見せつけられた高位回復薬ハイ・ポーションも、すっかり同じ様な濃さの物を生成出来るようになり、周りを驚かせた。


『これならいつ店を空けて旅に出ても安心よねぇ、シルヴィアに任せておけば・・・3年位は帰ってこれなくても大丈夫そうだわぁ』


割と本気のトーンでニコニコ笑って言う母に、シルヴィアは苦笑するしかなかったのだが。

そしてもう一つ。新たに彼女が手にしつつある技術。・・・それは今まで使用してきた魔法、その運用技術の一つである『分散化・集束化』である。

薬師の訓練の後、エリスの元を訪ねて学んだ技術。それは、直接戦闘においてリクの足手まといにならない様にとシルヴィアが考え、望んだものだった。

きっかけは【肉体強化フィジカル・ブースト】を全力で使用した際、リクとシルヴィアの間にはかなりの能力差が生じていた事。

あの『ガル・キマイラ』と相対した時、自分の振るったメイスが傷一つ負わせずに弾き返された時から、ずっと気になっていた事でもあったのだが、2年以上が過ぎた今では、更にその差は大きくなっていた。

同じ様に強化ブーストを行っても、このままだと必ず足を引っ張る。ならばたとえ一瞬でも、リクの領域に届く威力を出せれば・・・・少なくとも今よりは何かの助けになる筈だと。

そうした彼女の強い想いを汲み取った師匠・エリスは、先の技術を教える事にしたのだ。この子ならば扱いこなせるだろうと信じて・・・


『シルヴィア。魔法も戦技も、発想の転換で大きく変わるわ。魔力マナを大きく広げる様に意識して使えば、一つの効果を複数の対象に向けられる。同様に、一点に集めるように意識すれば、範囲が狭くなる代わりに・・・効果の増大が見込めるのよ。一つの発動法に囚われず、柔軟な発想を持ちなさい』


シルヴィアは現在進行形で、この技術を完全に会得するべく、訓練を積んでいる。リクの闘気オーラよりはコントロールもまだ容易なのか、既に【肉体強化フィジカル・ブースト】の集束化には成功している。

この効果により、シルヴィアは魔力マナの多大な消費と引き換えではあるが、高い直接攻撃能力を発揮する事が一応、可能になったのだった。

こうして着実に・・・いや寧ろ、急速に力を増す二人をラルフ達親一同は、頼もしく思うとともに、流石に『やり過ぎたかも』と今更ながら考え始めるが・・・本当に今更だった。


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ある日の朝。山への早朝マラソンを、いつもの様に土煙を立てて駆け抜けたリクとシルヴィアは、珍しい事に二人で朝食を食べていた。

昨夜、唐突に親達4人が『王都に商談があるから明日、お前達の出発と同じ位に出発する』と言い出し、家に帰って来てみると本当に誰も居なかった。

最近はこういう事も珍しくはなく、指導役が居ない時の訓練については自主性に任せる、と指示もされている。

ロイとメルディアは勿論の事、ラルフも、そしてエリスでさえも。この所の二人の成長ぶりを見て、ある程度の事は『大人同様に』扱う事を決めたのだ。

最初こそ、リクもシルヴィアも戸惑ったものだったが、一人前として認められつつある事を感じたのか。いつの間にかすっかり慣れていた。


「今日はどうしようっかな・・・・自主練っていっても、一人で戦技とか使うと普通に村に被害出しそうだしなぁ。シルにこう、障壁を・・・」

「・・・今のリっくんの技は、止める自信、ないよ?・・・一緒にするなら、私の訓練はそこまで危なくない事が多いけど・・・」

「・・・それはそれで、シルの家の設備とか魔具壊しそうで怖いなぁ」


のんびりと食後のお茶・・・シルヴィアお気に入りのミルクティーを飲みながら、二人で出来そうな自主訓練について話し合っていた時だった。


「おぉーい。ラルフ、エリス。朝からすまんが開けてくれぃ」


聞き覚えのある声と共に、玄関の扉をノックする音が響いた。この声は・・・と思いつつ、リクは立ち上がり、玄関へと歩いて行って扉をそっと開く。

開いた先に立っていたのは、白髪に白髭が特徴的な老人・・・村長のガタルキだ。


「あ、やっぱり村長さんか。おはようございます」

「おはようございます、村長さん」

「おお、リク。おはようさん・・・おや、シルヴィアもおはようさん。・・・・んん?今日は二人だけなのか?」

「ん?そうだよ?もしかして、父さんと母さんに依頼の話?」

「そうじゃ。まぁ、いつもの王都絡みの懸案ではないがの。ちと、困った事があってな・・・あの二人に頼みたかったんじゃがのぉ」


気楽な挨拶を交わす村長とは、あの『ガル・キマイラ討伐』以来、王都のギルドや騎士団からの魔物討伐依頼などで顔を合わせる機会が増えており、こうして朝から来訪がある時は決まって、その手の依頼を持ち込んで来るのだ。

リクは自然とガタルキを家に招き入れ、テーブルの一席を勧める。シルヴィアが村長の分のお茶を用意するのを待ち、三人が座ったところで、依頼関係か?とリクは話を振ってみた。

ガタルキはうむ、と大きく頷き。本当ならラルフ達に聞いて貰う筈だったが、と前置きをした上で語り始める。


「これは、この村で起こっておる問題じゃ。・・・二人もよく知っておるじゃろ、村外れのライラックの花園。ほれ、牛飼いのゴドゥのとこの先の」

「うん、知ってる。・・・・毎朝横を走ってるからね。おじさんには迷惑掛けてるよ・・・」

「あの。その花園で・・・何かあったんですか?それとも、ゴドゥさんの所の牛さんに何か?」

「いや、牛に何かあった訳ではないぞい?ゴドゥもじゃ。・・・まぁ、ゴドゥは発見者ではあるがの。問題は花園の方じゃ」


なんでも三日前、ゴドゥが少なくなってきた牧草を取る為に、散歩がてらにと子牛を一頭引き連れ、ライラックの花園を横切ろうとしていた時の事。

それまで大人しく歩いていた子牛が突如、恐怖に慄いた様に暴れだしてしまい、必死に取り押さえて宥める羽目になったらしい。

どうしてこんな事に・・・と思ったゴドゥが、子牛の進もうとしていた先に目線を向けた時・・・信じられない物を見たという。


『花園のド真ん中にでっかい穴が・・・底が見えない深くて、バカデカい穴が開いてたんだ!!』


息を切らせて、村長宅に駆け込んできたゴドゥは、ガタルキにそう語ったそうだ。


「・・・・そういう訳での。子牛がただ穴に怯えた、と考えるには無理がありそうじゃろう?なので、調査を頼もうと思っとったんじゃよ」

「成程なぁ・・・・シル。・・・これってさ・・・魔物っぽくないか?」

「うん・・・魔物の『瘴気』に当てられて・・・・かなぁ。穴だけなら、ビックリして後ろに下がる、くらいだもんね」

「お主ら、すっかり一人前の意見を言う様になったのぉ・・・・・」

「そうかな?・・・・だったら、一人前っぽく俺とシルが二人で受けるよ、って言ったらどうする?村長さん?」

「リっくん!?」


今までの魔物討伐での経験。それは『魔物が放つ瘴気に当てられた動物はおかしくなる』という現象だ。

今回の事案が同じと断定するには、情報が不足しているが、ゴドゥの目撃証言からしてほぼ間違い無いだろう。

数多く魔物討伐へ参加し、戦って来た二人にとっても、やはり魔物は未だに油断のならない相手だ。

そんな分析をした上で、自分達二人だけで依頼を受けたい、と村長に言うリク。当然ながら、シルヴィアは驚いた。勿論、ガタルキはもっと驚いた。


「リクよ。お前とシルヴィアが十分・・・いや、十分過ぎる強者である事は、今や村の皆はおろか、王都の一部にも届いておる。だが、お前達は・・・まだ子供じゃ。本当なら、まだ戦うような歳ではないのじゃぞ?」

「でもさ、村長さん。・・・・俺達が強いかどうかは兎も角。・・・村に危険な事が起こるかも知れないって解ってるのに、それを黙って見てるのは・・・絶対出来ないよ」

「・・・・リっくん・・・そう、だよね。・・・私達の村を、私達が守るために・・・頑張ってるんだもんね」

「・・・まったく、困った子達じゃのぉ・・・そうまで言われて止めたんじゃあ、ワシが悪者になってしまうわい・・・では。詳しく、話そうかの・・・」


真っ直ぐなリクの決意に、シルヴィアも頷いて同意する。子供達二人の不断の努力を知る村長は、溜息を尽きたい気持ちと、頭を撫でて褒めてやりたい気持ちのせめぎ合いを感じつつ、依頼の詳細を話すのだった。



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