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彼女の前世
episode14
昨日からは想像がつかないほど穏やかな朝を迎える。
いつもより幾分か体調がいい気がするが、起き上がることが出来ない。ゆっくりと時間をかけて、サイドにある手すりに掴まってやっと身体を起こすことが出来た。
これでは執務室まで行くのは無理だろう。
書類を全て持ってきてもらおうか? でも誰に持ってきてもらう? 侍女はきっと言うことを聞いてくれない。
文官達に頼めば持ってきてくれるだろうが、彼らはとても忙しい。こんなことで手を煩わせたくない。
「どうしよう……今日の分終わらなくなってしまうわ……」
呟いたところで昨日のことを思い出す。そうだ。サボってしまえ。
(元からサボってると思われているなら、一日くらいいいわよね……)
そんな風に思った私は、普通なら許されないが仕事を放棄することにした。
どうせ、私が一日で終わらせても陛下のところに届くのは三日後なのだ。滞り始めるのは今日ではない。
何をするか迷った私はサイドテーブルから日記帳を取りだし、これまでの日々を全て綴ることにした。
毎日何かしらは書き記しているが、もっと細かく書くことにしたのだ。どうせ私の元に訪れる人はいないから、暇を埋めるのにちょうどいいだろう。
元々今日は一人で執務をこなす予定だったから文官たちも来ない。
立ち上がるのが億劫に思ってしまった私は、サイドテーブルに置いてあるポットのお湯を使い、寝台の上で零れないように紅茶を注いだ。
注いだ紅茶のいい匂いを胸いっぱいに吸込みながら、つかの間のゆったりとした時間を堪能する。
こんなにゆっくりしたのは一年ぶりだ。何て幸せなひと時なのだろう。
自然と笑みが零れながら、お昼ご飯には部屋の中にあったハムと卵でサンドイッチを作り食べる。
この食材はこっそり皇宮を抜け出して、自分の支度金から買ったものだ。皇家の金庫には一回も手を付けていない。付けたら自分の中で何かが失われてしまう気がしたから。
「美味しい」
紅茶とともにゆっくり少しずつ味わいながらサンドイッチを食べる。まともな食事も久方ぶりである。
普通なら、これは当たり前のことなのだろう。周りから見たら何故こんなことで? と思うほど。
それでも私は嬉しい。幸福なひとときだ。だからなのだろうか、毎日のように喀血していたが今日はまだ咳さえも出ていない。
穏やかで平和な時間。たまに外から小鳥のさえずりが聞こえて来るだけで、誰も私を咎めたり仕事を押し付けたりする者はいない。
ずっとこのままでいられればどんなにいいのだろうか。
(ずっとずっと、もしこれが夢なら醒めないで────)
そんなリーティアの願いを叶えるかのように、日光の暖かさが彼女を永遠の夢へと誘う。
リーティアは眠気に囚われその黄金色の瞳を閉じる。穏やかに、幸福な夢のひとときを過ごしているかのように。
太陽が沈み、月が仄かな光を放ち始める黄昏時、皇宮内に鐘の音が鳴った。
その時、彼女の胸元に咲いていた花は青色の薔薇。
それが意味するのは──奇跡だった。
いつもより幾分か体調がいい気がするが、起き上がることが出来ない。ゆっくりと時間をかけて、サイドにある手すりに掴まってやっと身体を起こすことが出来た。
これでは執務室まで行くのは無理だろう。
書類を全て持ってきてもらおうか? でも誰に持ってきてもらう? 侍女はきっと言うことを聞いてくれない。
文官達に頼めば持ってきてくれるだろうが、彼らはとても忙しい。こんなことで手を煩わせたくない。
「どうしよう……今日の分終わらなくなってしまうわ……」
呟いたところで昨日のことを思い出す。そうだ。サボってしまえ。
(元からサボってると思われているなら、一日くらいいいわよね……)
そんな風に思った私は、普通なら許されないが仕事を放棄することにした。
どうせ、私が一日で終わらせても陛下のところに届くのは三日後なのだ。滞り始めるのは今日ではない。
何をするか迷った私はサイドテーブルから日記帳を取りだし、これまでの日々を全て綴ることにした。
毎日何かしらは書き記しているが、もっと細かく書くことにしたのだ。どうせ私の元に訪れる人はいないから、暇を埋めるのにちょうどいいだろう。
元々今日は一人で執務をこなす予定だったから文官たちも来ない。
立ち上がるのが億劫に思ってしまった私は、サイドテーブルに置いてあるポットのお湯を使い、寝台の上で零れないように紅茶を注いだ。
注いだ紅茶のいい匂いを胸いっぱいに吸込みながら、つかの間のゆったりとした時間を堪能する。
こんなにゆっくりしたのは一年ぶりだ。何て幸せなひと時なのだろう。
自然と笑みが零れながら、お昼ご飯には部屋の中にあったハムと卵でサンドイッチを作り食べる。
この食材はこっそり皇宮を抜け出して、自分の支度金から買ったものだ。皇家の金庫には一回も手を付けていない。付けたら自分の中で何かが失われてしまう気がしたから。
「美味しい」
紅茶とともにゆっくり少しずつ味わいながらサンドイッチを食べる。まともな食事も久方ぶりである。
普通なら、これは当たり前のことなのだろう。周りから見たら何故こんなことで? と思うほど。
それでも私は嬉しい。幸福なひとときだ。だからなのだろうか、毎日のように喀血していたが今日はまだ咳さえも出ていない。
穏やかで平和な時間。たまに外から小鳥のさえずりが聞こえて来るだけで、誰も私を咎めたり仕事を押し付けたりする者はいない。
ずっとこのままでいられればどんなにいいのだろうか。
(ずっとずっと、もしこれが夢なら醒めないで────)
そんなリーティアの願いを叶えるかのように、日光の暖かさが彼女を永遠の夢へと誘う。
リーティアは眠気に囚われその黄金色の瞳を閉じる。穏やかに、幸福な夢のひとときを過ごしているかのように。
太陽が沈み、月が仄かな光を放ち始める黄昏時、皇宮内に鐘の音が鳴った。
その時、彼女の胸元に咲いていた花は青色の薔薇。
それが意味するのは──奇跡だった。
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