17 / 99
彼女の前世
悲劇と女神と青い薔薇
突然ですが私はルーキア帝国とこの世界を司る女神です。
え? ルーキア帝国って何? って、あれよアレ。あのアルバート? っていったっけ現皇帝は。あそこの国よ。
ルーキアってね、今は人間達の間で廃れてしまったけど「夜明け」と言う意味なの。
私がいちばん干渉してる国で、大陸一の国家。ここから全て物事が始まるから夜明けという名を授けたの。
結構センスあると思わない? えっ、無いって? 失礼ね。まあどうでもいいわ。それよりもその国で、私のせいで、運命がねじ曲がってしまった一人の娘がいるの。
ここまで言えばもうお分かり? そうよ。リーティア・アリリエットよ。私のせいで運命が歪んでしまった。歩まなくてよかった人生を負わせてしまった。
だから私は巻き戻す。私は時を司る女神。私に戻せない〝時〟はない。本当はこんなに干渉してしまうのはいけないことなのだけれど……。
あれは、私が初めてこの世でリティに出会った日。とっても可愛くて愛らしくてみんなから祝福されて生まれた一人の女の子。
私は気まぐれで祝福を授ける。祝福を授けないと行けない時もあるけどそれ以外は私の気に入った子にかける。
だからその時も私のお気に入りになったリティに祝福を授けようとした。
『幸せにみんなに愛されて、この世を全うできますよう、かの者に女神の祝福を』と。
でも何故か、祝福を授けることができなかった。
そして代わりに私の祝福を受けたのは、えっと今の皇后? である平民のレリーナ。
私は慌てた。何故? 私の祝福はリティの物なの! 貴方に授ける〝祝福〟じゃない! と。
気付いた時にはリティは加護なし、レリーナは加護ありになっていた。
あの後何故授けられなかったのか調べて見ると、リティは魔力持ちだったようだ。
この時点ではまだ、この世界には魔法という物は生まれていない。何十年、何百年も後に誕生するはずだった魔法。だからまだ、魔力を保持して産まれる赤子はいないと思っていたのだ。それが誤算だった。
魔力持ちの赤子は、産まれたばかりは全ての魔法を弾き返す。ただ単に弾き返すだけではなくて、弾き返された魔法は他のものにかかる。
レリーナはリティの数ヶ月前に生まれていた。生まれたばかりでなかったから、運悪くリティに向けられた加護がレリーナにかかってしまったのだろう。
しかも最悪な事に、私の加護は弾き返すとこの世界に反抗したものとして呪われる。私はリティを幸せにしたくて加護を与えようとしたことが返って彼女を呪い、縛り付けることになってしまったのだ。
そのあとの彼女の人生は悲惨だった。愛されるはずの彼女は両親から愛されないと思い込み、皇帝からも嫌われ、友達もいない孤独な日々。
それでも彼女はめげなかった。
それを遠くから私は眺めていた。とても凄いと思いながらも、私のせいで運命が変わってしまったことに罪悪感を覚えていた。だからその罪悪感を少しでも削ぎたくて、ちょっとだけ仕掛けをした。
アルバートから彼女へ唯一贈られた栞を皆様覚えていらして? あれね、すこーしだけ私の魔力を込めたの。呪いが強くならないように。彼女にこれ以上の悲劇が起こらないように。でも無駄だったみたい。呪いは大きくなりすぎて到底取り消せるものではなくなっていた。弱めることも。
最後彼女は心が壊れてしまった。壊れなくてよかった心が粉々に。栞も破かれてしまった。でもこっそり修復しておいた。あと彼女の日記にも仕掛けを施し、アルバートに後悔の念がうまれるように。
本当はリティとアルバートは結ばれる縁だったはずなのだ。仲良く、おしどり夫婦で帝国を導いていくはずだった。
彼女はアルバートを恨んでいるかもしれない。でも私からしたら皆、被害者なのだ。
私だけが加害者で。
不甲斐ない、最低最悪な自分自身を恨んで泣いたわ。ごめんなさいと。だから決めたの。今世で彼女を助けられないなら、来世に運命を渡そうと。
ここから先は私の贖罪。
それができるのは私だけ。私は時を司る女神「ノルン」運命の鍵を幾多にも操り、この世界が正しい歴史を紡げるように魔法をかける。
時を、時空を、巻き戻すことも、早めることも、指ひとつ動かせばできる。
「あっ来たわね私の愛し子であるリティの魂」
眩しい光を放ちながら、青い薔薇が上から落ちてくる。
この世で亡くなった魂は、人間の言う「弔いの花」になってこちら側へ落ちてくる。
なんで花なのかというと、ただ単に花だったら綺麗だろうな~っていう私のわがまま。
だって花が嫌いな人なんていないでしょう?
私のところに落ちてきた魂は、真っ黒と真っ白とに別れている。白はまた違う世界か同じ世界に転生できる。前世の記憶はないけれど。
黒はそのまま、真っ白になるまで浄化されるのを待つ。もし、黒い魂のまま生まれ変わると極悪人になってしまうから。
彼女の魂はもちろん真っ白だ。
「ごめんなさいね。リティ、私が来世こそは──フィーギュ・ラ・レモルテ」
魔法を彼女の魂にかけて人間の形にする。
一瞬柔らかい光が周りを包み込み、青い薔薇は元のリティへと変化する。
「初めまして。目が覚めた? リーティア・アリリエットさん」
薔薇から人間に戻った彼女は、少し瞬きをしたあと首を傾げた。まだとろんとしていて頭が働いていないようだ。
「……初めまして……? えっと私は……死んだはずでは……」
「ええそうよ。あなたは死んだ。でもそれは本当の死では無いの」
「本当の死ではない……?」
「ごめんなさい。貴女があんなに辛い思いをして死を迎えたのは私のせいなの。私が貴女に祝福を与えようとしたから」
「私が……死んだのは貴方のせい……? 私があんなに辛い思いをしたのも貴方のせいなの? 何故! それに、貴方は何者? 」
彼女は困惑しながら怒り出し、泣き出した。でも私は反論することはできない。だって事実であるし、私のせいだから。
「貴女には魔力があるの。魔力持ちの赤子は祝福を反射する。私の祝福は弾かれると呪いへと変わるの。私は貴女に祝福を授けようとしたけど、貴女は魔力持ちだった。だから反射して呪いになって運命を変えてしまった」
「祝福……? それに魔力?」
彼女は驚いたように顔を上げ、涙に濡れた顔を拭っている。それに少し顔色が悪い。
「本当に……何者ですか?」
警戒しているのか、声に尖りが出てきた。
「あぁ、自己紹介が遅れたわね。私は時を司り、この世界を管理している一人、〝ノルン〟よ。貴方達は女神と言うわね」
「えっ! ……女神様。失礼な真似をしてしまったこと、お詫び申し上げます。罰は全て受けます」
私がリティの信仰している女神だと分かり、顔が真っ青だ。私はそんな表情にしたい訳では無いのに……。
「大丈夫よ。私の方があなたに酷いことをしたの。それに罰なんか与えないわ」
怯えてる彼女にそっと近寄り、手を取る。とても冷たい。
「貴方、冷えてるわね。手が凍えてるわよ温めてあげるわ」
そう言って彼女の手元に火の玉を作る。一瞬にして温かい炎の光が周りを包む。
私が行使した魔法を正面で見たリティは驚きと好奇心が混ざった表情をしている。
「凄い……これが魔法ですか? それにとても温かいですね」
「そうよ。貴方も使えるわ私よりは強くないけど!」
「私も……?」
「ええ。次の世界は魔法が最初から使える世界にするから使えるわ」
「次の世界……?」
彼女は困惑しているようだ。そりゃあそうだろう。ほぼ何も説明無しに、女神が貴女の運命を変え呪ったと言い、自分にはよく分からない魔力があると言われ、挙句の果てには次の世界などと立て続けに話されているのだ。
私でもリティだったら困惑するわ!
「詳しく説明するわね。まず、貴女はあそこで死ぬ運命ではなかったの。貴女はアルバートと一緒に皇后として帝国を見守っていく人物になるはずだった。でも私の呪いのせいで、不幸な人生を歩むことになってしまった。つまり、運命が歪んでしまったの。ここまで分かる?」
何が何だか分かってないような彼女に尋ねてみると、こっくりとゆっくり頷いた。分かってるのかしら? 私、説明下手なのよね。
「貴女の人生にレリーナは出てこないはずだったの。でも授けるはずだった加護が、さっきも言ったように反射され、レリーナにかかってしまった。だからレリーナは『聖女』になって、皇后になってしまった。アルバートはレリーナのことを愛していたように見えるでしょう?」
「そうですね……とっても仲良くしてました」
彼女は思い出して辛そうだ。袖をギュッと掴んでいる。
「あれはね、偽りよ。だってあの加護はレリーナの物では無いもの。今頃アルバートは真実の愛とか言って貴女のことが好きだとほざいているわよ」
レリーナは魅了の魔法を無意識に使っている。リティが使えば正常に作動する魔法の数々も、偽物が使えば正常に作動しない。
今頃魔法の効果は消えているだろう。
元はと言えば私のせいだけど、あの子は観察していて気に入らなかった。だってリティと正反対の性格で魔性の女なんだもの。とてもじゃないけど好きになれない。
だから寵愛が潰えたレリーナのこれからなど知るわけがない。せいぜい頑張ってもらおう。
説明が終わったら世界を巻き戻すつもりだし。
「陛下が私のことを好き……?」
「えっ当たり前よ? 本当はアルバートと貴女は愛し合って結婚するはずだったのだから」
「……そんなの有り得ません」
「……まあいいわそこは私のせいだからそう思うのもしょうがない。だからね、決めたの。貴女の来世の運命を変えようと。でも、運命を変えるには同じ場所に転生しないといけないの。ちょこっと世界変えて、魔法が使えるようにするけど。今と同じでリーティア・アリリエットとしてまた過ごすのよ」
「また……私はあの辛い日々を過ごさないといけないのですか?」
怯えた声が聞こえる。また、あの日々を過ごさないといけないのかと。
「違うわ、勘違いしないでね? 今回は、運命をまっさらにするわ。前世とは関係無いはずだから……決められた道を歩まなくていい」
「前世は関係ない? それは……私がしたいことができるのですか? 例えば他の国に行くとか」
「恐らくできるわ! でもごめんなさい。確証は持てないから……」
ポンポン背中をさする。状況が理解できずにポカンとしてる彼女を。
「……あの、では……もう……辛い思いは……しなくて……いいのですか?」
やっと理解できてきたリティは泣きそうだ。
ギュウッと彼女を包み込む。
彼女は安堵したかのように泣き出した。いつまでもいつまでも前世の分までも全て洗い流すように。
「女神様……もう大丈夫です。ありがとうございます」
「もう大丈夫なの? まだ泣いててもいいのよ?」
どのくらいだったのだろうか、リティは顔を上げた。その表情はどこかスッキリとしている。
「ええ。私、女神様がくれたチャンス、精一杯自分のしたいことをして楽しむことにします。やり直しができる理由はどうであれ、私はチャンスを無駄にしたくないのです」
涙を拭いながらにっこりと笑う彼女。あぁ貴女はそれがピッタリよ。私はその表情が見たかった。さっきまでは出せなかったリティの柔らかい笑顔。
「いい? 貴女は同じルーキア帝国にリーティア・アリリエットとして生まれる。前世の記憶はそのままよ。でも、周りは知らないから言ってはダメよ? 変な人だと思われちゃうわ! 後は魔法が使えるわ。何が使えるかは秘密よ」
「分かりました。楽しみにしています」
ふふふっと笑うリティ。
「じゃあ、転生させるわ。私は貴女をこれからも今までもずっと見守っている。忘れないで」
「ええ、女神様」
私は彼女に魔法をかける。
「エレー・ネ・レスキュア。 加えて、私の愛し子に祝福も」
周りはまた光に包まれる。
「リティ、今世は人生を全うするように」
ノルンは願い、不安になる。
自分の贖罪になるのだろうか。いや、なってもらわないといけない。
「貴女がどの選択肢を取っても幸せになれますように。運命の鍵はいつもリーティアの手の中にあるわ」
次の瞬間、そこには誰もいなく、舞い落ちる青い薔薇の花弁はゆっくりと光の中に溶けていった。
え? ルーキア帝国って何? って、あれよアレ。あのアルバート? っていったっけ現皇帝は。あそこの国よ。
ルーキアってね、今は人間達の間で廃れてしまったけど「夜明け」と言う意味なの。
私がいちばん干渉してる国で、大陸一の国家。ここから全て物事が始まるから夜明けという名を授けたの。
結構センスあると思わない? えっ、無いって? 失礼ね。まあどうでもいいわ。それよりもその国で、私のせいで、運命がねじ曲がってしまった一人の娘がいるの。
ここまで言えばもうお分かり? そうよ。リーティア・アリリエットよ。私のせいで運命が歪んでしまった。歩まなくてよかった人生を負わせてしまった。
だから私は巻き戻す。私は時を司る女神。私に戻せない〝時〟はない。本当はこんなに干渉してしまうのはいけないことなのだけれど……。
あれは、私が初めてこの世でリティに出会った日。とっても可愛くて愛らしくてみんなから祝福されて生まれた一人の女の子。
私は気まぐれで祝福を授ける。祝福を授けないと行けない時もあるけどそれ以外は私の気に入った子にかける。
だからその時も私のお気に入りになったリティに祝福を授けようとした。
『幸せにみんなに愛されて、この世を全うできますよう、かの者に女神の祝福を』と。
でも何故か、祝福を授けることができなかった。
そして代わりに私の祝福を受けたのは、えっと今の皇后? である平民のレリーナ。
私は慌てた。何故? 私の祝福はリティの物なの! 貴方に授ける〝祝福〟じゃない! と。
気付いた時にはリティは加護なし、レリーナは加護ありになっていた。
あの後何故授けられなかったのか調べて見ると、リティは魔力持ちだったようだ。
この時点ではまだ、この世界には魔法という物は生まれていない。何十年、何百年も後に誕生するはずだった魔法。だからまだ、魔力を保持して産まれる赤子はいないと思っていたのだ。それが誤算だった。
魔力持ちの赤子は、産まれたばかりは全ての魔法を弾き返す。ただ単に弾き返すだけではなくて、弾き返された魔法は他のものにかかる。
レリーナはリティの数ヶ月前に生まれていた。生まれたばかりでなかったから、運悪くリティに向けられた加護がレリーナにかかってしまったのだろう。
しかも最悪な事に、私の加護は弾き返すとこの世界に反抗したものとして呪われる。私はリティを幸せにしたくて加護を与えようとしたことが返って彼女を呪い、縛り付けることになってしまったのだ。
そのあとの彼女の人生は悲惨だった。愛されるはずの彼女は両親から愛されないと思い込み、皇帝からも嫌われ、友達もいない孤独な日々。
それでも彼女はめげなかった。
それを遠くから私は眺めていた。とても凄いと思いながらも、私のせいで運命が変わってしまったことに罪悪感を覚えていた。だからその罪悪感を少しでも削ぎたくて、ちょっとだけ仕掛けをした。
アルバートから彼女へ唯一贈られた栞を皆様覚えていらして? あれね、すこーしだけ私の魔力を込めたの。呪いが強くならないように。彼女にこれ以上の悲劇が起こらないように。でも無駄だったみたい。呪いは大きくなりすぎて到底取り消せるものではなくなっていた。弱めることも。
最後彼女は心が壊れてしまった。壊れなくてよかった心が粉々に。栞も破かれてしまった。でもこっそり修復しておいた。あと彼女の日記にも仕掛けを施し、アルバートに後悔の念がうまれるように。
本当はリティとアルバートは結ばれる縁だったはずなのだ。仲良く、おしどり夫婦で帝国を導いていくはずだった。
彼女はアルバートを恨んでいるかもしれない。でも私からしたら皆、被害者なのだ。
私だけが加害者で。
不甲斐ない、最低最悪な自分自身を恨んで泣いたわ。ごめんなさいと。だから決めたの。今世で彼女を助けられないなら、来世に運命を渡そうと。
ここから先は私の贖罪。
それができるのは私だけ。私は時を司る女神「ノルン」運命の鍵を幾多にも操り、この世界が正しい歴史を紡げるように魔法をかける。
時を、時空を、巻き戻すことも、早めることも、指ひとつ動かせばできる。
「あっ来たわね私の愛し子であるリティの魂」
眩しい光を放ちながら、青い薔薇が上から落ちてくる。
この世で亡くなった魂は、人間の言う「弔いの花」になってこちら側へ落ちてくる。
なんで花なのかというと、ただ単に花だったら綺麗だろうな~っていう私のわがまま。
だって花が嫌いな人なんていないでしょう?
私のところに落ちてきた魂は、真っ黒と真っ白とに別れている。白はまた違う世界か同じ世界に転生できる。前世の記憶はないけれど。
黒はそのまま、真っ白になるまで浄化されるのを待つ。もし、黒い魂のまま生まれ変わると極悪人になってしまうから。
彼女の魂はもちろん真っ白だ。
「ごめんなさいね。リティ、私が来世こそは──フィーギュ・ラ・レモルテ」
魔法を彼女の魂にかけて人間の形にする。
一瞬柔らかい光が周りを包み込み、青い薔薇は元のリティへと変化する。
「初めまして。目が覚めた? リーティア・アリリエットさん」
薔薇から人間に戻った彼女は、少し瞬きをしたあと首を傾げた。まだとろんとしていて頭が働いていないようだ。
「……初めまして……? えっと私は……死んだはずでは……」
「ええそうよ。あなたは死んだ。でもそれは本当の死では無いの」
「本当の死ではない……?」
「ごめんなさい。貴女があんなに辛い思いをして死を迎えたのは私のせいなの。私が貴女に祝福を与えようとしたから」
「私が……死んだのは貴方のせい……? 私があんなに辛い思いをしたのも貴方のせいなの? 何故! それに、貴方は何者? 」
彼女は困惑しながら怒り出し、泣き出した。でも私は反論することはできない。だって事実であるし、私のせいだから。
「貴女には魔力があるの。魔力持ちの赤子は祝福を反射する。私の祝福は弾かれると呪いへと変わるの。私は貴女に祝福を授けようとしたけど、貴女は魔力持ちだった。だから反射して呪いになって運命を変えてしまった」
「祝福……? それに魔力?」
彼女は驚いたように顔を上げ、涙に濡れた顔を拭っている。それに少し顔色が悪い。
「本当に……何者ですか?」
警戒しているのか、声に尖りが出てきた。
「あぁ、自己紹介が遅れたわね。私は時を司り、この世界を管理している一人、〝ノルン〟よ。貴方達は女神と言うわね」
「えっ! ……女神様。失礼な真似をしてしまったこと、お詫び申し上げます。罰は全て受けます」
私がリティの信仰している女神だと分かり、顔が真っ青だ。私はそんな表情にしたい訳では無いのに……。
「大丈夫よ。私の方があなたに酷いことをしたの。それに罰なんか与えないわ」
怯えてる彼女にそっと近寄り、手を取る。とても冷たい。
「貴方、冷えてるわね。手が凍えてるわよ温めてあげるわ」
そう言って彼女の手元に火の玉を作る。一瞬にして温かい炎の光が周りを包む。
私が行使した魔法を正面で見たリティは驚きと好奇心が混ざった表情をしている。
「凄い……これが魔法ですか? それにとても温かいですね」
「そうよ。貴方も使えるわ私よりは強くないけど!」
「私も……?」
「ええ。次の世界は魔法が最初から使える世界にするから使えるわ」
「次の世界……?」
彼女は困惑しているようだ。そりゃあそうだろう。ほぼ何も説明無しに、女神が貴女の運命を変え呪ったと言い、自分にはよく分からない魔力があると言われ、挙句の果てには次の世界などと立て続けに話されているのだ。
私でもリティだったら困惑するわ!
「詳しく説明するわね。まず、貴女はあそこで死ぬ運命ではなかったの。貴女はアルバートと一緒に皇后として帝国を見守っていく人物になるはずだった。でも私の呪いのせいで、不幸な人生を歩むことになってしまった。つまり、運命が歪んでしまったの。ここまで分かる?」
何が何だか分かってないような彼女に尋ねてみると、こっくりとゆっくり頷いた。分かってるのかしら? 私、説明下手なのよね。
「貴女の人生にレリーナは出てこないはずだったの。でも授けるはずだった加護が、さっきも言ったように反射され、レリーナにかかってしまった。だからレリーナは『聖女』になって、皇后になってしまった。アルバートはレリーナのことを愛していたように見えるでしょう?」
「そうですね……とっても仲良くしてました」
彼女は思い出して辛そうだ。袖をギュッと掴んでいる。
「あれはね、偽りよ。だってあの加護はレリーナの物では無いもの。今頃アルバートは真実の愛とか言って貴女のことが好きだとほざいているわよ」
レリーナは魅了の魔法を無意識に使っている。リティが使えば正常に作動する魔法の数々も、偽物が使えば正常に作動しない。
今頃魔法の効果は消えているだろう。
元はと言えば私のせいだけど、あの子は観察していて気に入らなかった。だってリティと正反対の性格で魔性の女なんだもの。とてもじゃないけど好きになれない。
だから寵愛が潰えたレリーナのこれからなど知るわけがない。せいぜい頑張ってもらおう。
説明が終わったら世界を巻き戻すつもりだし。
「陛下が私のことを好き……?」
「えっ当たり前よ? 本当はアルバートと貴女は愛し合って結婚するはずだったのだから」
「……そんなの有り得ません」
「……まあいいわそこは私のせいだからそう思うのもしょうがない。だからね、決めたの。貴女の来世の運命を変えようと。でも、運命を変えるには同じ場所に転生しないといけないの。ちょこっと世界変えて、魔法が使えるようにするけど。今と同じでリーティア・アリリエットとしてまた過ごすのよ」
「また……私はあの辛い日々を過ごさないといけないのですか?」
怯えた声が聞こえる。また、あの日々を過ごさないといけないのかと。
「違うわ、勘違いしないでね? 今回は、運命をまっさらにするわ。前世とは関係無いはずだから……決められた道を歩まなくていい」
「前世は関係ない? それは……私がしたいことができるのですか? 例えば他の国に行くとか」
「恐らくできるわ! でもごめんなさい。確証は持てないから……」
ポンポン背中をさする。状況が理解できずにポカンとしてる彼女を。
「……あの、では……もう……辛い思いは……しなくて……いいのですか?」
やっと理解できてきたリティは泣きそうだ。
ギュウッと彼女を包み込む。
彼女は安堵したかのように泣き出した。いつまでもいつまでも前世の分までも全て洗い流すように。
「女神様……もう大丈夫です。ありがとうございます」
「もう大丈夫なの? まだ泣いててもいいのよ?」
どのくらいだったのだろうか、リティは顔を上げた。その表情はどこかスッキリとしている。
「ええ。私、女神様がくれたチャンス、精一杯自分のしたいことをして楽しむことにします。やり直しができる理由はどうであれ、私はチャンスを無駄にしたくないのです」
涙を拭いながらにっこりと笑う彼女。あぁ貴女はそれがピッタリよ。私はその表情が見たかった。さっきまでは出せなかったリティの柔らかい笑顔。
「いい? 貴女は同じルーキア帝国にリーティア・アリリエットとして生まれる。前世の記憶はそのままよ。でも、周りは知らないから言ってはダメよ? 変な人だと思われちゃうわ! 後は魔法が使えるわ。何が使えるかは秘密よ」
「分かりました。楽しみにしています」
ふふふっと笑うリティ。
「じゃあ、転生させるわ。私は貴女をこれからも今までもずっと見守っている。忘れないで」
「ええ、女神様」
私は彼女に魔法をかける。
「エレー・ネ・レスキュア。 加えて、私の愛し子に祝福も」
周りはまた光に包まれる。
「リティ、今世は人生を全うするように」
ノルンは願い、不安になる。
自分の贖罪になるのだろうか。いや、なってもらわないといけない。
「貴女がどの選択肢を取っても幸せになれますように。運命の鍵はいつもリーティアの手の中にあるわ」
次の瞬間、そこには誰もいなく、舞い落ちる青い薔薇の花弁はゆっくりと光の中に溶けていった。
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……
ぽんた
恋愛
「おれがおまえの姉ディアーヌといい仲だということは知っているよな?ディアーヌの離縁の決着がついた。だからやっと、彼女を妻に迎えられる。というわけで、おまえはもう用済みだ。そうだな。どうせだから、異母弟のところに行くといい。もともと、あいつはディアーヌと結婚するはずだったんだ。妹のおまえでもかまわないだろう」
この日、リン・オリヴィエは夫であるバロワン王国の第一王子マリユス・ノディエに告げられた。
選択肢のないリンは、「ひきこもり王子」と名高いクロード・ノディエのいる辺境の地へ向かう。
そこで彼女が会ったのは、噂の「ひきこもり王子」とはまったく違う気性が荒く傲慢な将軍だった。
クロードは、幼少の頃から自分や弟を守る為に「ひきこもり王子」を演じていたのである。その彼は、以前リンの姉ディアーヌに手痛い目にあったことがあった。その為、人間不信、とくに女性を敵視している。彼は、ディアーヌの妹であるリンを憎み、侍女扱いする。
しかし、あることがきっかけで二人の距離が急激に狭まる。が、それも束の間、王都が隣国のスパイの工作により、壊滅状態になっているいう報が入る。しかも、そのスパイの正体は、リンの知る人だった。
※全三十九話。ハッピーエンドっぽく完結します。ゆるゆる設定です。ご容赦ください。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。