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彼女の今世
episode19
熱を出してぐっすり眠った翌日から、私は精力的に活動を始めた。
まず、調べ始めたのは生まれたばかりの時に測られた魔力が間違いだと仮定した際に、自分の今の魔力はどれくらいあるのか。加えてどんな魔法が使えるのか。
そして左手首にあるノルン様のあざ、これが私に与えている影響。
前者ふたつは頑張れば調べ上げられるかもしれないが、後者は難しいだろう。だって愛し子ってはっきり言うと何なのか分からないし。ノルン様は自分の気に入った人間を愛し子にしているとしか教えてくれなかった。
それにこのあざは私にしか見えてないっぽいし……。
きっと〝愛し子〟に関しての情報は見つけられないだろう。ましてや、あざなんて。
そこでふと思い当たる(?)ことを思い出した。
そう言えば前世ではレリーナは聖女と呼ばれていた。朧気に覚えている会話の中でノルン様は女神の加護が、愛し子になるはずではなかったレリーナに移り、聖女になってしまったと言っていた。
そこから推測するに、この世界での「聖女」というのはノルン様の「愛し子」であるのではないだろうか。
でも、ノルン様の話し方からして若干の違いはありそうだけど……。
もしそうだと仮定したら、私が知っている「聖女」(愛し子)に関しての情報は
・黄金色の髪で菫色の美しい瞳を持つ。
・滞在している国に「安寧の加護」をもたらし、よりいっそうの豊かさと災害や飢饉が回避され、滞在するだけで国を安泰に導く。
ん? ということはもしかしたら私は聖女かと思ったけど、白銀髪、金色の瞳の私は聖女ではなさそうだ。
ホッと安堵する。何故なら聖女だと殿下と結婚しなくちゃいけないし、今世は幸せになりたいから殿下と関わりたくないのだ。
(良かった私、聖女じゃなくて)
でも、聖女に近い存在であることは間違いないだろう。だってどちらも女神様からの加護を受け取ってる人物を指すようだから。
「ノルン様、もう一度会ってくれないかしら……そうすれば全部の疑問が解決するのに 」
「私のかわいいかわいい愛し子であるリティ~~! 呼んだ?」
「あっノルン様って………えっ?!」
冗談半分で言った言葉の後に反応が返ってきてそのまま返してしまったが、私以外誰もいなかったはずの自室に噂の本人が登場した。
(見間違いかしら……? まだ熱下がってなかったっけ……?)
「熱は下がってるわよリティ。リティが呼んでくれたから来ちゃった」
「……私、声に出してました?」
「出してないわ」
若干恐ろしい。心を読まれているなんて考えたくもない。
「ねえ、そんなに怯えないでよ。もうしないからね?」
「分かりました。状況呑み込めていないんですが、ノルン様はここにいて大丈夫なのでしょうか」
再び私の心を読んでいる気がするが、無かったことにしよう。もうこの時点で脳内の容量を越しそうだから……。
ノルン様は私の気も知らないで呑気に机の上にあったクッキーをつまんでいる。
「大丈夫大丈夫、女神ってあんまり仕事ないから! 部下の死神〝モルス〟の方が忙しいわ! きっと今頃私を探していると思う! んっ美味しいわねこれ」
ペロリとクッキーをすぐに完食したノルン様。
……それは死神様が可哀想だと思います。という言葉が口から出かけたが、私は何も言わずに呑み込んだ。
「ノルン様が大丈夫なら別にいいのですが」
「それよりも、リーティア聞きたい事があるって言わなかった?」
「あります。お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「何でもいいわよ~~。答えるわ」
「それでは、三点ほど」
・「愛し子」とは「聖女」と何が違うのか
・女神様の印であるあざは何なのか
・私の使える魔法・魔力量はどれくらいなのか
「ん~そうね。まず、愛し子は私が気に入り、選んで祝福与えた人間。逆に聖女は私が気に入らなくても加護を与える場合があるの。あとは……魔力量は愛し子の方が高くなる。逆に聖女の方は愛し子に魔力量は負けて、髪の色と瞳が強制的に変化する。理由は色々あるけれど……全てを話すとなると長くなるから割愛するわ」
「加護を与えないといけない場合ですか?」
それは初耳だ。
「ええ。例えば歴史が軌道修正できないほどねじ曲がってしまった場合とか……私は加護を特定の人物に与えて聖女にする。他の国にも聖女はいるけどルーキアは特に始まりの国だからね。紡がれるはずだった歴史がねじ曲がったり滅亡とか合併とかされたりすると困る」
「始まりの国……?」
「この世界の根源に関わる話だから話せないわ」
ごめんねと謝る女神様。
「必然的に聖女は少なくなる。だから人間たちは気まぐれに女神が加護を与えるって話すのよね」
くるくる指を回しながらノルン様は続ける。
「でも、愛し子は違うの。聖女も少ないけど愛し子はそれよりも少ない。だから書物とかにも記載がない。
そして私が本当にこの子って思った子にしか与えない。私の気持ちが籠ってるから加護も強くなって、愛し子は魔力量が多くなる」
そこでふっとノルン様は私に笑いかけた。
「貴女はその中でも特別な子。まず一つ目の解答は以上よ」
「……なるほど」
「では二つ目の〝あざ〟ね。それは私の愛し子である証であり、何かあったら私に情報が回ってくるようにしてあるの。あとそこが魔力の根源で、元々持っていた以上の魔力はそこから来てるわ。で、三つ目だけど貴女チートよ。オールラウンダーよ。以上っ!」
「……え?」
「だから、オールラウンダーでチート。この国だったら筆頭魔術師になれるわよ~。魔力量もこの世界のトップだしね」
「トップ……」
「愛し子というだけで、格段に魔力量とかは上がるのだけど、今回の場合は私のせいで貴方の人生ねじ曲がってしまったから、絶対不自由ない生活にさせる! って気を込めたら尚更強い加護になっちゃったわ」
つまり、私は聖女よりも魔力量が多くてオールラウンダーでチートだと。
「それ、逆に目立ちますよね?」
「目立つわね」
やっちゃった。という感じで頭に手を当てているノルン様。そのお姿は可愛らしいが、それで解決する問題ではない。目立てばアルバート殿下の目に止る可能性だってある。やめて欲しい。
少し顔が青くなった私に弁明するように慌てて言葉をノルン様は言葉を紡いだ。
「大丈夫よ! だって、周りから見たら普通の魔力量しか持ってないようにしてあるから! 高難易度の魔法連発しなければ大丈夫大丈夫」
「本当ですか」
そもそも高難易度の魔法が何か分かってない私は、無闇矢鱈に魔法を使わないようにしようと心に決めた。
ひっそりと暮らすには目立たないのが一番だ。
「本当本当。安全策講じてるから」
「……そうですか。あっノルン様、お迎えが来たみたいなのでお別れのようです」
「え?」
唐突に私が話を切りあげ、何がなんなのか分かっていらっしゃらないようだが、私にはバッチリと見えている。
黒髪に耳に月のイヤリングをした鎌を持っている高身長の美青年が。
「ノルン様、見つけましたよ」
「げっモルス、何でここにっ」
咄嗟に私の後ろに隠れようとした女神様は呆気なくモルス様に捕獲された。
「リティ~助けてくれないかしら」
「今日はお陰様で疑問が解決できて助かりました。ノルン様お仕事頑張ってください」
私はモルス様と視線を合わせる。元はと言えば部下であるモルス様を放ったらかしにして私の元に来たのが悪いのだ。
モルス様が迎えに来たのなら、帰るのが一番いいだろうから、ノルン様の懇願は不敬ながら無視する。
私の独り言に応じて来てくれたことはとっても嬉しかったけど……。
「リーティア様ありがとうございます。このお方はすぐ仕事から逃げるので、これからも、もしこちらに逃げてきていたら連絡をくれると嬉しいです」
とモルス様は月をモチーフにしたイヤリングをくれた。
「わあ綺麗ですね」
「そう言ってもらえて光栄です」
優しく微笑んだモルス様はとても素敵だ。他のご令嬢がいたら、絶対黄色い悲鳴を上げて倒れる人がいたはずだ。
私は早速左耳にイヤリングを付けた。
「ずるいわ。私もリティにあげる。はいこれ」
とノルン様が対抗心からなのか、モルス様がくれたイヤリングの対になるような、雫をモチーフにした物を私の手の中に落とした。
せっかくなので右耳に付ける。
「それでは失礼しますね」
「リティまたね。また、抜け出してくるわ!」
「ノルン様抜け出さないでください。ちゃんと仕事終わってリーティア様のところに行くのなら別に構わないんですよ」
はぁと溜息をつきながらモルス様は私に一回頭を下げた後、ノルン様の襟を手で掴んで私の部屋を後にした。
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