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彼女の今世
episode22
「それじゃあ私達はこっちだから、リティちゃんまたね」
「はい、お母様、お父様また後で」
「リティ、しないと思うけど皇后様に粗相のないようにするんだよ。それと、好きなようにしなさい」
ポンっと私の頭を撫でて両親は他の貴族の所へと行ってしまった。
私は笑顔で二人を見送り、まず最初に皇后様の元へ挨拶に伺う。
そこに居たのは当たり前だが、皇后様以外にもう一人。
「こんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます。アリリエット公爵家長女、リーティア・アリリエットです」
無意識に震える手を隠し、挨拶の言葉と共にドレスを摘んでカーテシーをする。
「こんにちは。アリリエット公爵令嬢、来てくれてありがとう。こっちにいるのが息子のアルバートよ」
(大丈夫、今世では無関係。怯えることは無いわ)
なのに────皇后陛下からその名前が出ると前世がフラッシュバックし、緊張で鼓動が大きな音を立てる。
ドクンドクンとこれまでで一番音を立てる鼓動を沈める為、瞳を一旦閉じて深呼吸する。
───私は平穏な日々を送りたい。前世と同じ轍は踏まない。
そう思いながら、様子を窺うと殿下は私を訝しげにジーッと見詰めていた。アルバート殿下の澄んだ瞳が、こちらに向けられるのは覚悟はしてきたけどやはり怖い。
「アルバート?」
「母上失礼しました。リーティア嬢初めまして」
それもつかの間、殿下はすぐ余所行きの笑顔を見せた。
形式上だとしても、どれほど話をしたくない人だとしても、挨拶をされたら返さなければいけない。こちらも強ばる顔に無理やり笑顔を貼り付けて再び挨拶をする。
「初めましてアルバート殿下。お会いすることができて光栄でございます」
「そんなに畏まらなくて結構よ。アルバートと仲良くしてね? それと茶会、楽しんでくれると嬉しいわ」
「お気遣いありがとうございます。それでは他にも皇后陛下とアルバート殿下に挨拶に伺う方がいらっしゃいますので、御前失礼致します」
震えそうになる声を必死に隠し、アルバート殿下の返事の代わりに皇后陛下のお言葉を頂くと、私はすぐさま退いた。
これであとは目立たずにしていれば大丈夫なはずだと自分に言い聞かせ、指定された席に座りカタカタと小刻みに震えている手を宥める。
程なくして座った時には空席が目立っていたテーブルも人で埋まり、お茶会が始まった。
私は差し当たりもない話をしながら、ふと一瞬殿下の座っている席を見た。そこには令嬢達で人だかりができていた。
(……それほどまでに皆、皇后の座が欲しいのね。まあ皇后にはレリーナがなるから結局はなれないのだけど)
「リーティア様は殿下の所に行かないのですか?」
「え? あぁ別に私は大丈夫です」
集団の山を見ていた私はすぐさま視線を戻して、話しかけてきた令嬢を見る。
「何故です? ここで言うのもあれですが、上手く婚約者の座に座れれば未来の皇后ですのよ?」
後半は声を潜めて尋ねてきた令嬢の言葉に一瞬息が詰まる。
「何故って……殿下の婚約者は私には荷が重いのです。きっと適任の方がいらっしゃいますから」
「そうですか」
奇妙なモノを見たような視線を注がれる。
「少し席を立ちますね。失礼します」
居心地が悪くなった私は、少し周りを歩くことにした。別に最初の挨拶は終わらせたのだし、少しくらい周りを見て歩いても問題ないだろう。
辺りを見ると他の子も席を立ち、思い思いに歩いていたりするし。
お茶会は庭園で開かれているので、会場となっている場から少し離れた場所を散策する。
「うわぁ綺麗!」
今咲き盛りのコスモスが視界いっぱいに広がっており、思わず感嘆の声を出してしまう。
「凄い! 凄い! ん?」
令嬢としては窘められるであろう程はしゃいでしまった私はブレスレットが仄かに光っていることに気がついた。
「リティ、今日はお茶会の日でしょ? なのになんでこんな端っこで花を見てはしゃいでいるの?」
ノルン様は上から降りてきた。
「お久しぶりです。お茶会は居心地が悪くて抜けてきてしまいました。それと、ここにいて大丈夫なのですか? 誰かに見られたら……」
「あらそうなの? アルバートが居たら抜けて来るのもわかるわ~。あと、見られるとかは心配無用よ。リティ以外の人間に私は見えないようになっているから」
「そうですか」
殿下は別に令嬢達の山で見えていないし、見えなければ大丈夫。だが周りの令嬢の奇妙なモノを見た視線が居心地悪くて抜けてきたとは言えないので、ノルン様の勘違いはそのままにすることにした。
「それよりも聞いて! モルスがね? 仕事を増やすのよ」
「それは……何かモルス様にもお考えがあるのではないでしょうか?」
「…………」
「ノルン様?」
「いや、分かってるのよ? 分かってるの。今の時期は一年で最も多忙な時期だって! 仕事増えるのも致し方がないって!」
「分かっているのなら我慢するしかないのでは……?」
「だってモルス、死神のくせに鎌だけじゃなくて頭から角が……ヤバっ」
何かを察知したノルン様は私の後ろに隠れようとしたが時すでに遅し、あっこれ前回も……と私が思っている途中に呆気なくノルン様はモルス様に捕獲された。
「ノルン様…………また仕事を放棄してリティ様の所に……? 前回のように椅子から移動出来ないようにしないとダメですかね」
「また捕まった……」
「ノルン様の思考回路は分かりやすすぎなんですよ。逃亡する場所の見当は大方つきます」
鎌を片手に握っているモルス様は、ガックリしているノルン様の襟を掴んでいる。これではどっちが主でどっちが従者なのか分からない。
「お仕事、終わりましたらまた会いに来てください。いつでも私は歓迎しますので。ぜひモルス様も」
笑いながらモルス様とノルン様に伝え、彼らが飛び立つのを私は小さく手を振りながら見送った。
「はい、お母様、お父様また後で」
「リティ、しないと思うけど皇后様に粗相のないようにするんだよ。それと、好きなようにしなさい」
ポンっと私の頭を撫でて両親は他の貴族の所へと行ってしまった。
私は笑顔で二人を見送り、まず最初に皇后様の元へ挨拶に伺う。
そこに居たのは当たり前だが、皇后様以外にもう一人。
「こんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます。アリリエット公爵家長女、リーティア・アリリエットです」
無意識に震える手を隠し、挨拶の言葉と共にドレスを摘んでカーテシーをする。
「こんにちは。アリリエット公爵令嬢、来てくれてありがとう。こっちにいるのが息子のアルバートよ」
(大丈夫、今世では無関係。怯えることは無いわ)
なのに────皇后陛下からその名前が出ると前世がフラッシュバックし、緊張で鼓動が大きな音を立てる。
ドクンドクンとこれまでで一番音を立てる鼓動を沈める為、瞳を一旦閉じて深呼吸する。
───私は平穏な日々を送りたい。前世と同じ轍は踏まない。
そう思いながら、様子を窺うと殿下は私を訝しげにジーッと見詰めていた。アルバート殿下の澄んだ瞳が、こちらに向けられるのは覚悟はしてきたけどやはり怖い。
「アルバート?」
「母上失礼しました。リーティア嬢初めまして」
それもつかの間、殿下はすぐ余所行きの笑顔を見せた。
形式上だとしても、どれほど話をしたくない人だとしても、挨拶をされたら返さなければいけない。こちらも強ばる顔に無理やり笑顔を貼り付けて再び挨拶をする。
「初めましてアルバート殿下。お会いすることができて光栄でございます」
「そんなに畏まらなくて結構よ。アルバートと仲良くしてね? それと茶会、楽しんでくれると嬉しいわ」
「お気遣いありがとうございます。それでは他にも皇后陛下とアルバート殿下に挨拶に伺う方がいらっしゃいますので、御前失礼致します」
震えそうになる声を必死に隠し、アルバート殿下の返事の代わりに皇后陛下のお言葉を頂くと、私はすぐさま退いた。
これであとは目立たずにしていれば大丈夫なはずだと自分に言い聞かせ、指定された席に座りカタカタと小刻みに震えている手を宥める。
程なくして座った時には空席が目立っていたテーブルも人で埋まり、お茶会が始まった。
私は差し当たりもない話をしながら、ふと一瞬殿下の座っている席を見た。そこには令嬢達で人だかりができていた。
(……それほどまでに皆、皇后の座が欲しいのね。まあ皇后にはレリーナがなるから結局はなれないのだけど)
「リーティア様は殿下の所に行かないのですか?」
「え? あぁ別に私は大丈夫です」
集団の山を見ていた私はすぐさま視線を戻して、話しかけてきた令嬢を見る。
「何故です? ここで言うのもあれですが、上手く婚約者の座に座れれば未来の皇后ですのよ?」
後半は声を潜めて尋ねてきた令嬢の言葉に一瞬息が詰まる。
「何故って……殿下の婚約者は私には荷が重いのです。きっと適任の方がいらっしゃいますから」
「そうですか」
奇妙なモノを見たような視線を注がれる。
「少し席を立ちますね。失礼します」
居心地が悪くなった私は、少し周りを歩くことにした。別に最初の挨拶は終わらせたのだし、少しくらい周りを見て歩いても問題ないだろう。
辺りを見ると他の子も席を立ち、思い思いに歩いていたりするし。
お茶会は庭園で開かれているので、会場となっている場から少し離れた場所を散策する。
「うわぁ綺麗!」
今咲き盛りのコスモスが視界いっぱいに広がっており、思わず感嘆の声を出してしまう。
「凄い! 凄い! ん?」
令嬢としては窘められるであろう程はしゃいでしまった私はブレスレットが仄かに光っていることに気がついた。
「リティ、今日はお茶会の日でしょ? なのになんでこんな端っこで花を見てはしゃいでいるの?」
ノルン様は上から降りてきた。
「お久しぶりです。お茶会は居心地が悪くて抜けてきてしまいました。それと、ここにいて大丈夫なのですか? 誰かに見られたら……」
「あらそうなの? アルバートが居たら抜けて来るのもわかるわ~。あと、見られるとかは心配無用よ。リティ以外の人間に私は見えないようになっているから」
「そうですか」
殿下は別に令嬢達の山で見えていないし、見えなければ大丈夫。だが周りの令嬢の奇妙なモノを見た視線が居心地悪くて抜けてきたとは言えないので、ノルン様の勘違いはそのままにすることにした。
「それよりも聞いて! モルスがね? 仕事を増やすのよ」
「それは……何かモルス様にもお考えがあるのではないでしょうか?」
「…………」
「ノルン様?」
「いや、分かってるのよ? 分かってるの。今の時期は一年で最も多忙な時期だって! 仕事増えるのも致し方がないって!」
「分かっているのなら我慢するしかないのでは……?」
「だってモルス、死神のくせに鎌だけじゃなくて頭から角が……ヤバっ」
何かを察知したノルン様は私の後ろに隠れようとしたが時すでに遅し、あっこれ前回も……と私が思っている途中に呆気なくノルン様はモルス様に捕獲された。
「ノルン様…………また仕事を放棄してリティ様の所に……? 前回のように椅子から移動出来ないようにしないとダメですかね」
「また捕まった……」
「ノルン様の思考回路は分かりやすすぎなんですよ。逃亡する場所の見当は大方つきます」
鎌を片手に握っているモルス様は、ガックリしているノルン様の襟を掴んでいる。これではどっちが主でどっちが従者なのか分からない。
「お仕事、終わりましたらまた会いに来てください。いつでも私は歓迎しますので。ぜひモルス様も」
笑いながらモルス様とノルン様に伝え、彼らが飛び立つのを私は小さく手を振りながら見送った。
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