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彼女の今世
episode25
「リーティア、本当にアルバート殿下とは何も無かったのかい?」
皇后陛下とアルバート殿下が去ったあと、不意にお父様は私に尋ねた。きっと遠慮して嘘をついたと思っているのだろう。
「何もありませんでした」
「それでは何故、リーティアは倒れたのかい?」
「────体調が悪かったからです」
こんな程度の理由では納得してくれないのか、お父様は顔を顰めて何か言いたそうにしているし、お母様は……軽く怒って……る?
「体調が悪かったのなら言わないとダメでしょう! 親である私が気づけなかったのも悪いけど、誤魔化す方が後々大変なことになることもあるのよ?」
前世だったら……こんな怒り、心配してくれなかった。本当だったら反省する場面なのだろうが、私は少し嬉しい。
「ご、ごめんなさい」
「それに、ずっと意識が戻らなくて私達は身を引き裂かれる思いをしたのよ」
震える手でシーツを掴むお母様。顔を歪めて止まったはずの涙が再び零れ落ちそうになっている。
「……私はどれくらい眠っていたのですか?」
「──一週間よ」
(!?)
思わずそのままオウム返ししそうになった所を寸前で止める。
一週間……!? あの空間にいたのは一時間くらいだと思っていたのに? 経っていてもせいぜい二~三日だとしてた予想が、簡単に裏切られて目を見開いてしまう。
「待っ待ってください。お母様、ここは何処ですか?」
先程までは医務室だと思っていたが、それにしては薬草の匂いがしない。それに加えて他の患者さんが誰一人いない。かと言って、調度品がいつも見ているものでは無いので公爵家の部屋でもないだろう。
「ここは皇宮の一室よ。リティちゃんが倒れて、一日経っても目を覚まさなかったから、公爵家に抱いて連れて行こうかと思ったのだけど……皇宮医が何があるかわからないから身体を動かさない方がいいと進言して、皇后陛下と皇帝陛下がお貸ししてくれたの」
「だからですか? 先程皇后陛下とアルバート殿下がこの部屋に滞在していたのは」
「貴女が倒れて目を覚まさないからお忙しい中、様子を見に来てくださったのよ」
「それは……」
皇后の仕事がどれほど大変で時間に余裕が無いのかを私は知っている。それなのに皇后陛下にここまで足を運ばせてしまったのは申し訳ない。
「お母様、私家に帰りたいです。もう動けますので邸にお母様とお父様と一緒に帰りたい」
ここに滞在するだけで皇后陛下にご迷惑がかかるのを前世のことから知っている私は、これ以上負担にならないよう一刻も早く帰りたい衝動に駆られた。
「身体は大丈夫なのかい? 動いても痛くないかい?」
「お父様、大丈夫です。どこも痛くありません」
ピンピンだということを証明するために、ベッドから立ち上がろうとしたのをお母様に止められる。
「ダメ! 起きたらダメよ! しょうがないわね。旦那様が良いと言うならリティちゃん家に帰りましょう?」
ちらりとお父様をお母様は見ると、お父様は顰めっ面をした後にゆっくりと首を縦に振った。
「ここにいては皇帝陛下と皇后陛下に要らぬ負担をかけてしまうし、良いだろう。リティ、私たちと帰ろうか」
「本当ですか!?」
「────但し、家に帰るまで歩くのは禁止だ」
「え?」
それではどうやって帰るのですか? と言う前にお父様は私を抱き上げた。これは────お姫様抱っこ?!
「おっお父様?! 私は歩けます! 歩けますから!」
「ダメだ。病み上がりなのに歩かせるわけには行かない。レイチェル、皇宮医にこの事を伝えてくれ。馬車で会おう」
「分かりましたわ貴方」
するりとお母様は私達の横を通って先に部屋の外に出る。それに続いてお父様は私を抱き抱えながら部屋を出る。
廊下には誰一人いなく、この恥ずかしい状況を見られてないことにホッとするが、前世でも今世でも抱っこなどされたことがない私は恥ずかしくて顔を掌で隠す。
あぁ早く馬車に乗りたい。こんな場面を誰かに見られたら生きていけない。幼子であっても、皇宮で抱っこなんてされる人いないだろう。
コツコツとお父様の靴音だけが響く。幸いなことに馬車に乗るまでエントランスを警備している騎士以外には、この状況を見られなかった。
警備の方は仕方がない。だっていないなんて絶対有り得ないから。
だから見られたのは不可抗力。不可抗力なのだ。
馬車に乗ってもそう言って自己暗示をかけていた私は、無意識のうちに頭を抱えていた。
「リーティア、頭が痛いのか? やはりまだ────」
「いえっ! 大丈夫ですわお父様! 私は元気です」
まずい。お父様は私が嘘をついていると怪しんでいる。慌てて頭から手を離し、元気いっぱいだと表現する。そうしているとお母様が合流して私の横に座り、何故か太ももを指さしている。
太もも……? それがどうかしたのかしら?
意味が分からずキョトンとしていると、お母様は私の頭をひざに乗せた。
「公爵邸に着くまで横になっていなさい」
そう言うとひんやりとしていて気持ちのいい優しい手で私の瞳を隠した。
微かにお母様から香る柑橘系の匂いに誘われて私は再び夢の中に落ちていった。
◇◇◇
「んっ」
「あら、起きた? 公爵邸に着いたわよ」
「公……爵……邸……?」
起きたばかりでまだ働かない頭をゆっくりと起こし、窓の外を見ると公爵邸のエントランスが見える。その奥に出迎えに来たアナベルと執事と侍女達が腰を折っていた。
「リーティアおねえさま!!!」
「セシルお嬢様! まだリーティアお嬢様は体調が万全ではないのですよ!」
「ひっ」
いきなり邸から飛び出てきた妹による突撃に、私は小さく悲鳴を上げる。
──セシル・アリリエット
私の妹で齢三歳。人懐っこくて、誰からも好かれて、将来は社交界の花になるほどの人気者。
私が陰のものならば、彼女は陽のあたる場所で活動する人間だ。
「ねぇねぇリーティアおねえさま、ずぅぅぅっと待ってたんだよ? またねんねする時絵本読んでね?」
きらきらとした一切の曇がない瞳で見つめられると思わず反射的に頷きそうになる。
「こら! セシル、リーティアは目が覚めたばかりだからそれは私が許してあげられないな」
「だっていつも読んでくれてたのにぃ」
ぷぅっと頬を膨らませ、涙目でお父様に抗議しているセシルは可愛らしい。
「お母様が読んであげるわ。それでいい? セシルちゃん」
「えーおかあさまだけじゃなくて、おとうさまもいないとヤダ」
「仕方ないなぁよし、今日は特別だ。その代わりにセシルにリーティアは本を読まないよいいね?」
「分かった!」
セシルはそう言って私の腕の中から出て、邸の中に入っていった。
あんなに屈託なく自分の要望を伝えられるセシルは羨ましくて、私は目を細める。
妹が今世でも産まれると分かった時、私はやっと貰えた両親の愛情が再び失われるのではないかと恐れた。
冷たくて、辛くて、私に無関心な両親が再び顔を出して、妹だけに愛情が注がれるのかと。
怖かったのだ。幸せからどん底に落とされると思ってしまったから。
でも、そんなことは無く、妹が産まれても両親は私に優しく差別をしない。
だけど時々不安になる。孤独感を感じることがある。
今みたいに、セシルは普通にお母様とお父様に言うが、私には怖くて出来ない。
そういう時にセシルに対する羨ましさと妬ましさが混ざる。
私だってセシルのようにお母様とお父様に甘えたい。でも、前世の記憶がそれを邪魔して結局言えない。
勿論妹は可愛し大好きだ。本を読んでと言われたら読みたくなるし、読んであげたい。
だけどたまに湧き起こるこの負の感情が消えなくて辛い。自己嫌悪になる。
「リーティア? どうかしたか?」
はっと顔を上げると首を傾げているお父様。私はぽつりと呟いた。
「セシルに本を読んであげられなくて、お父様とお母様に申し訳ないなと。それに──私がいて幸せですか?」
言ってから失敗したと思った。だってお父様が顔を顰めてしまったから。
これではまるで私がいない方が良いのでは無いか? と問いかけているようなものだ。
誰であっても子供からそんなことを言われたら嬉しいとは思わないだろう。
まずい、やってしまったと心中オロオロする。
するとお父様は私をギュッと抱き締め、規則正しい鼓動が聞こえてくる。
「リティ、私達はリーティアとセシルが元気で幸せに過ごしている姿を見れる──それだけで幸せなんだよ」
ぽんぽんと頭を撫でながらお父様は言った。
ほんのちょっと悲しげにしながら。
「お父様、私も幸せです。だってこんなにお母様からもお父様からも愛情受け取ってますもの」
「そうかい。それならいいんだよ」
今は幸せ。これ以上無いほど。
そう思いながら私はお父様と手を繋いで邸の中へと入る。
「アナベルただいま」
お父様と手を離すと隣にそっと寄ってきたアナベルに声をかける。
「お嬢様、良かった……本当に」
「何? 私がもう二度と起きないと思っていたの?」
「お嬢様、中々目を覚まさないと聞いて。不謹慎ですがもしや……と」
「大丈夫よ。元気だもの。ほら、ね?」
にっこりと笑うと彼女は大粒の雫を零した。
「アナベルって案外泣き虫だったのね」
「お嬢様のせいです。もう、お声を聞けないのかと思ったのですから!」
泣きながら少し怒っている彼女は、私の手を引いてずんずんと廊下を歩いていく。
そう言えば………。
「ねえ、アナベル。アルバート殿下の婚約者様って決まったの?」
「アルバート殿下の婚約者様ですか?」
「うん。あの日から一週間経っているからもう発表されているでしょう?」
前世はお茶会から二日で婚約者の発表があったのを覚えている。そんな私はもう誰か分かっているだろうと彼女に問掛ける。
だけどアナベルはキョトンとしている。
(えっと……どうしてかしら?)
「私は知らないです。公爵様に聞いた方がよろしいかと思いますよ」
「……分かったわ。お父様に聞いてみる」
「では、お嬢様もう夜ですし就寝の準備をしましょうね」
「うん」
知らないなら仕方がない。でも何故、一週間経っても発表されないのかしら? 腑に落ちないが、明日お父様に聞いてみようと思いつつ久しぶりに自室の寝台に入った。
皇后陛下とアルバート殿下が去ったあと、不意にお父様は私に尋ねた。きっと遠慮して嘘をついたと思っているのだろう。
「何もありませんでした」
「それでは何故、リーティアは倒れたのかい?」
「────体調が悪かったからです」
こんな程度の理由では納得してくれないのか、お父様は顔を顰めて何か言いたそうにしているし、お母様は……軽く怒って……る?
「体調が悪かったのなら言わないとダメでしょう! 親である私が気づけなかったのも悪いけど、誤魔化す方が後々大変なことになることもあるのよ?」
前世だったら……こんな怒り、心配してくれなかった。本当だったら反省する場面なのだろうが、私は少し嬉しい。
「ご、ごめんなさい」
「それに、ずっと意識が戻らなくて私達は身を引き裂かれる思いをしたのよ」
震える手でシーツを掴むお母様。顔を歪めて止まったはずの涙が再び零れ落ちそうになっている。
「……私はどれくらい眠っていたのですか?」
「──一週間よ」
(!?)
思わずそのままオウム返ししそうになった所を寸前で止める。
一週間……!? あの空間にいたのは一時間くらいだと思っていたのに? 経っていてもせいぜい二~三日だとしてた予想が、簡単に裏切られて目を見開いてしまう。
「待っ待ってください。お母様、ここは何処ですか?」
先程までは医務室だと思っていたが、それにしては薬草の匂いがしない。それに加えて他の患者さんが誰一人いない。かと言って、調度品がいつも見ているものでは無いので公爵家の部屋でもないだろう。
「ここは皇宮の一室よ。リティちゃんが倒れて、一日経っても目を覚まさなかったから、公爵家に抱いて連れて行こうかと思ったのだけど……皇宮医が何があるかわからないから身体を動かさない方がいいと進言して、皇后陛下と皇帝陛下がお貸ししてくれたの」
「だからですか? 先程皇后陛下とアルバート殿下がこの部屋に滞在していたのは」
「貴女が倒れて目を覚まさないからお忙しい中、様子を見に来てくださったのよ」
「それは……」
皇后の仕事がどれほど大変で時間に余裕が無いのかを私は知っている。それなのに皇后陛下にここまで足を運ばせてしまったのは申し訳ない。
「お母様、私家に帰りたいです。もう動けますので邸にお母様とお父様と一緒に帰りたい」
ここに滞在するだけで皇后陛下にご迷惑がかかるのを前世のことから知っている私は、これ以上負担にならないよう一刻も早く帰りたい衝動に駆られた。
「身体は大丈夫なのかい? 動いても痛くないかい?」
「お父様、大丈夫です。どこも痛くありません」
ピンピンだということを証明するために、ベッドから立ち上がろうとしたのをお母様に止められる。
「ダメ! 起きたらダメよ! しょうがないわね。旦那様が良いと言うならリティちゃん家に帰りましょう?」
ちらりとお父様をお母様は見ると、お父様は顰めっ面をした後にゆっくりと首を縦に振った。
「ここにいては皇帝陛下と皇后陛下に要らぬ負担をかけてしまうし、良いだろう。リティ、私たちと帰ろうか」
「本当ですか!?」
「────但し、家に帰るまで歩くのは禁止だ」
「え?」
それではどうやって帰るのですか? と言う前にお父様は私を抱き上げた。これは────お姫様抱っこ?!
「おっお父様?! 私は歩けます! 歩けますから!」
「ダメだ。病み上がりなのに歩かせるわけには行かない。レイチェル、皇宮医にこの事を伝えてくれ。馬車で会おう」
「分かりましたわ貴方」
するりとお母様は私達の横を通って先に部屋の外に出る。それに続いてお父様は私を抱き抱えながら部屋を出る。
廊下には誰一人いなく、この恥ずかしい状況を見られてないことにホッとするが、前世でも今世でも抱っこなどされたことがない私は恥ずかしくて顔を掌で隠す。
あぁ早く馬車に乗りたい。こんな場面を誰かに見られたら生きていけない。幼子であっても、皇宮で抱っこなんてされる人いないだろう。
コツコツとお父様の靴音だけが響く。幸いなことに馬車に乗るまでエントランスを警備している騎士以外には、この状況を見られなかった。
警備の方は仕方がない。だっていないなんて絶対有り得ないから。
だから見られたのは不可抗力。不可抗力なのだ。
馬車に乗ってもそう言って自己暗示をかけていた私は、無意識のうちに頭を抱えていた。
「リーティア、頭が痛いのか? やはりまだ────」
「いえっ! 大丈夫ですわお父様! 私は元気です」
まずい。お父様は私が嘘をついていると怪しんでいる。慌てて頭から手を離し、元気いっぱいだと表現する。そうしているとお母様が合流して私の横に座り、何故か太ももを指さしている。
太もも……? それがどうかしたのかしら?
意味が分からずキョトンとしていると、お母様は私の頭をひざに乗せた。
「公爵邸に着くまで横になっていなさい」
そう言うとひんやりとしていて気持ちのいい優しい手で私の瞳を隠した。
微かにお母様から香る柑橘系の匂いに誘われて私は再び夢の中に落ちていった。
◇◇◇
「んっ」
「あら、起きた? 公爵邸に着いたわよ」
「公……爵……邸……?」
起きたばかりでまだ働かない頭をゆっくりと起こし、窓の外を見ると公爵邸のエントランスが見える。その奥に出迎えに来たアナベルと執事と侍女達が腰を折っていた。
「リーティアおねえさま!!!」
「セシルお嬢様! まだリーティアお嬢様は体調が万全ではないのですよ!」
「ひっ」
いきなり邸から飛び出てきた妹による突撃に、私は小さく悲鳴を上げる。
──セシル・アリリエット
私の妹で齢三歳。人懐っこくて、誰からも好かれて、将来は社交界の花になるほどの人気者。
私が陰のものならば、彼女は陽のあたる場所で活動する人間だ。
「ねぇねぇリーティアおねえさま、ずぅぅぅっと待ってたんだよ? またねんねする時絵本読んでね?」
きらきらとした一切の曇がない瞳で見つめられると思わず反射的に頷きそうになる。
「こら! セシル、リーティアは目が覚めたばかりだからそれは私が許してあげられないな」
「だっていつも読んでくれてたのにぃ」
ぷぅっと頬を膨らませ、涙目でお父様に抗議しているセシルは可愛らしい。
「お母様が読んであげるわ。それでいい? セシルちゃん」
「えーおかあさまだけじゃなくて、おとうさまもいないとヤダ」
「仕方ないなぁよし、今日は特別だ。その代わりにセシルにリーティアは本を読まないよいいね?」
「分かった!」
セシルはそう言って私の腕の中から出て、邸の中に入っていった。
あんなに屈託なく自分の要望を伝えられるセシルは羨ましくて、私は目を細める。
妹が今世でも産まれると分かった時、私はやっと貰えた両親の愛情が再び失われるのではないかと恐れた。
冷たくて、辛くて、私に無関心な両親が再び顔を出して、妹だけに愛情が注がれるのかと。
怖かったのだ。幸せからどん底に落とされると思ってしまったから。
でも、そんなことは無く、妹が産まれても両親は私に優しく差別をしない。
だけど時々不安になる。孤独感を感じることがある。
今みたいに、セシルは普通にお母様とお父様に言うが、私には怖くて出来ない。
そういう時にセシルに対する羨ましさと妬ましさが混ざる。
私だってセシルのようにお母様とお父様に甘えたい。でも、前世の記憶がそれを邪魔して結局言えない。
勿論妹は可愛し大好きだ。本を読んでと言われたら読みたくなるし、読んであげたい。
だけどたまに湧き起こるこの負の感情が消えなくて辛い。自己嫌悪になる。
「リーティア? どうかしたか?」
はっと顔を上げると首を傾げているお父様。私はぽつりと呟いた。
「セシルに本を読んであげられなくて、お父様とお母様に申し訳ないなと。それに──私がいて幸せですか?」
言ってから失敗したと思った。だってお父様が顔を顰めてしまったから。
これではまるで私がいない方が良いのでは無いか? と問いかけているようなものだ。
誰であっても子供からそんなことを言われたら嬉しいとは思わないだろう。
まずい、やってしまったと心中オロオロする。
するとお父様は私をギュッと抱き締め、規則正しい鼓動が聞こえてくる。
「リティ、私達はリーティアとセシルが元気で幸せに過ごしている姿を見れる──それだけで幸せなんだよ」
ぽんぽんと頭を撫でながらお父様は言った。
ほんのちょっと悲しげにしながら。
「お父様、私も幸せです。だってこんなにお母様からもお父様からも愛情受け取ってますもの」
「そうかい。それならいいんだよ」
今は幸せ。これ以上無いほど。
そう思いながら私はお父様と手を繋いで邸の中へと入る。
「アナベルただいま」
お父様と手を離すと隣にそっと寄ってきたアナベルに声をかける。
「お嬢様、良かった……本当に」
「何? 私がもう二度と起きないと思っていたの?」
「お嬢様、中々目を覚まさないと聞いて。不謹慎ですがもしや……と」
「大丈夫よ。元気だもの。ほら、ね?」
にっこりと笑うと彼女は大粒の雫を零した。
「アナベルって案外泣き虫だったのね」
「お嬢様のせいです。もう、お声を聞けないのかと思ったのですから!」
泣きながら少し怒っている彼女は、私の手を引いてずんずんと廊下を歩いていく。
そう言えば………。
「ねえ、アナベル。アルバート殿下の婚約者様って決まったの?」
「アルバート殿下の婚約者様ですか?」
「うん。あの日から一週間経っているからもう発表されているでしょう?」
前世はお茶会から二日で婚約者の発表があったのを覚えている。そんな私はもう誰か分かっているだろうと彼女に問掛ける。
だけどアナベルはキョトンとしている。
(えっと……どうしてかしら?)
「私は知らないです。公爵様に聞いた方がよろしいかと思いますよ」
「……分かったわ。お父様に聞いてみる」
「では、お嬢様もう夜ですし就寝の準備をしましょうね」
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