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彼女の今世
episode32
外は優しい雨が降り、私達新一年生はパレスホールという全面ガラス張りの場所に来ている。
中央にはとても大きく複雑な魔法陣が描かれていて、そのまわりを取り囲むように新入生である私達が立っている。
「はい。それでは呼ばれた人からこの魔法陣の中に入って魔力を少量注いでね。まずは────」
雨の心地いい音に耳をすましているとヘレナ先生は早速精霊召喚の為に一人ずつ魔法陣の中へ呼ぶ。
その様子を見ていると、最初の令嬢は水属性の精霊を出現させたようだ。精霊は見えないけど周りに少し水が跳ねている。
「ルリアさんその子と会話は出来る?」
「会話ですか? 一応何を言っているのかは分かりますが……」
「ふーむ。それでは中級精霊ね。その子に名前を付けてあげて。そうすれば契約を結べるから」
ヘレナ先生がそう言うと、恐らく肩に乗っかっている精霊に令嬢は名前を付けた。
成程、自分が思っていたよりも簡単に召喚できて契約を結べるようで安堵する。
精霊は契約者と意思疎通ができ、特定の動物等の姿をしている子ほど上位の精霊で、火・水・風・土・そして光の属性がある。
最初の四つの属性は四大属性と言われ、その上位互換のような形で光属性と神聖魔法が存在する。
魔力を保持してさえいれば得意不得意属性があるものの、誰でも四大属性の魔法を行使できる。が、その上にある光属性は光属性の精霊と契約しないと行使できなく、光の精霊は滅多に召喚で現れない。
加えて光属性に一部含まれる神聖魔法を使えるのは、神殿の神官達と光の精霊と契約した人のみ。詠唱の言葉も四大属性魔法とは少し違う。
「リーティア様、呼ばれてますよ?」
「あっ! 教えてくれてありがとうございます」
隣にいたアイリーン様に教えられて急いで魔法陣の中に入る。
「それでは、リーティアさんその中心に魔力を注いでね」
「はい。ヘレナ先生」
指定された所で膝をついて手をかざす。
一瞬魔力測定の時のようなことが起こるか不安だったが、先に召喚した人達と同じように光り輝く魔法陣。特別な変化は無い。
どんな子かしら? 動物? 小人? 仲良くしたいな。
今か今かと精霊を待つ。
「ふわぁ~んん? ここは?」
魔法陣の光が収束する頃、私の目の前に出現したのは眠たげに瞼を擦り、羽をパタパタとしている妖精だった。
「かっ可愛い!」
思わず声に出してしまった。だってこんな可愛くて小さくて、まるで御伽噺に出てくるような妖精が私の目の前にいるのだ。興奮しない方がおかしい。
「なぁに? わたしを召喚したのはお姉ちゃん?」
私の声に反応して、召喚した妖精は私に近づいてきて鼻の先で止まった。
「そうよ。私よ」
「んー! お姉ちゃんなら私契約してもいいよー。お姉ちゃんの名前は?」
にっこり笑う妖精。そのまま空中でくるりんと一回転する。
「リーティアよ」
「じゃあリーリーね! リーリー、わたしに名前を付けて? 出来ればあなたの名前入れて欲しいなー!」
えっ私の名前も? 名前……どんな名前がいいかな。この子は見た目が青っぽいから水の妖精?
「そうね……アリアなんてどうかしら?」
この世界で水の単語はアクア。そこに、私のリを真ん中に入れたらアリア。
「それがいい! 私アリアね!!! アリア、リーリーのこと好き!」
彼女が私の名付けた名前を発すると輪になった魔法文字が右手首に刻まれた。
これはちゃんと契約ができた証。精霊と契約を結んだ者には、皆右手に意図的に魔力を込めないと発現しない魔法文字で書かれた精霊の名前が刻まれる。
私はまだ魔法文字を読むことは出来ないけれど、ここに私が付けた名前、『アリア』が刻まれているのかと思うととても嬉しい。
それにチュッと頬にキスをしてくれるアリア。出会って間もないのにこんなに親しくしてくれるのは嬉しいけど……どうしてかしら?
「ちょ──っと待ってください。リーティアさん。そこに精霊がいるんですか?」
「ヘレナ先生? ここに居ますよ」
困惑気味なヘレナ先生。アリアは私の肩にちょこんと乗っているので肩を指さす。
「何も見えないですね」
「あー。アリア、リーリー以外の人に見えないようになってるんだった。リーリー、見えるようにした方がいい?」
「うん。見えるようにしてくれると嬉しい」
「わかったー! はいっ」
アリアにお願いするとすぐに見えるようにしてくれたようでヘレナ先生が感嘆の声を上げた。
「わぁリーティアさん凄いです。妖精を召喚したのですね。そして先程の会話から既に名付けました?」
「えぇアリアです」
「アリアですか。いい名前ですね」
「ありがとうございます」
そう伝えながら魔法陣の中から外へ移動する。
「ヘレナ先生、アリアはどのような精霊ですか?」
他の人たちの精霊は上位精霊半分、中位精霊半分。妖精の精霊数人だった。
「そうですね。妖精ですので上位精霊です。あと分かるのは水の妖精ですね。それ以外は資料が足りないので言えることがないのですけど」
申し訳なさそうにヘレナ先生は言ったけど、資料がないなら仕方がない。私も妖精に関しての書物は読んだことはあるけどあまり詳細な情報はなかった。
興味深いことがあるとすれば、ここ百年位は妖精と契約する人間が増えていることと、保持している魔力が多ければ多い程召喚の際に妖精が出てくる可能性が高い。ということ。
くるくるとまだ辺りを回っているアリアは私の予想通り水の妖精。水の妖精は清らかな場所が好きだと書物に書かれていたので、時間が出来たら綺麗な水場に連れて行ってあげよう。
「わぁリーティア様も妖精ですか? 私も風の妖精でしたの!」
先に召喚を終わらせていたエレン様がこちらに近づいてくる。肩にはアリアと同じ身長くらいの妖精が座っていた。
「エレン様も妖精ですか! 何て名付けたのですか?」
「アーネです」
アーネ。きっと風の単語から取ってきたのだろう。私と同じ考えのようで思わず口元が綻んでしまう。
「もしや、風の単語から取りました? 奇遇ですね私も水の単語から取ったのですよ」
「それでは、リーティア様の肩に乗っている精霊さんはアクアですか」
「いいえ。何故かこの子は私の名前を入れて欲しいと言われたので『リ』を入れてアリアです」
撫でてと擦り寄ってきたアリアの頭を撫でながら答えると、羨ましそうにエレン様は見てきた。
「私も入れればよかったです……」
「えっアーネは嫌よ」
肩に乗っていたアーネは少し仰け反り、羽を伸ばして宙に浮き始めた。
「ひっ酷いですよ!」
「うーん。だってねぇ?」
くすくすとからかうようにエレン様の周りを飛び回るアーネは愉快気だ。
これは完全にエレン様、アーネにからかわれている。
ちょこっとだけエレン様に同情する。
ひらひらと軽やかに飛ぶアーネと、悔しそうにアーネを捕まえようとしているエレン様の攻防を笑いながら見ていると、いきなりパレスホール全体が光に包まれ、眩しさから反射的に目を瞑ってしまう。
「なっ何!?」
魔法陣に魔力を注ぐだけならこんなに光ることは無いはず……。何か想定外のことが起こったのかしら?
目を開けても大丈夫なくらいに光が収まってから魔法陣の方に目を向ける。
「────あれは光の妖精?」
先に召喚を終えて、精霊が見えるようになった誰かがポツリと呟き、静まり返った室内に異様に響く。
そこにはサラサラとした金の髪に翡翠色の瞳を持ち、アリアと同じ透明な羽が生えた妖精がひとりの令嬢の手の中に収まっていた。
「わあ! キャサリンさん、素晴らしいです。これは……光の妖精! 光属性の精霊を召喚するだけでもとても珍しいのに、その精霊が妖精なのはここ五十年なかったことですよ!!!」
ヘレナ先生は興奮しているようで一気にまくし立てた。
その言葉にポカンとしていたキャサリン様は段々状況を把握してきたようで、満面の笑みを浮かべた。
「貴方の名前は?」
凛とした尊厳のある声を光の妖精は発する。
「キャサリン・マーリックです」
「そうキャサリン。私に名前を」
「……ルクスはどうでしょうか?」
「……ルクス……そうね。私はルクス」
長いまつ毛に縁どられた瞼を一旦閉じて、光の妖精は自分自身に言い聞かせるようにキャサリン様が名付けた名前を繰り返す。
周りの人は一言も声を発さず見ている。
「よろしくキャサリン」
ルクスがちょこんとキャサリンの肩に乗った所で辺りはざわめき始める。
好奇心、嫉視、疑念、羨望。
様々な視線がキャサリン様に注がれる。
「これは……分からなくなってきましたね。複雑になる……」
「そう……ですね……」
エレン様は私と同じことを考えているようだ。
アルバート殿下の婚約者候補者として名を連ねているのは六人。その内私とエレン様、アイリーン様は除外して残りは三人。
爵位的にフローレンス様かクリスティーナ様が婚約者になるだろうと思っていた。が、ここに来てキャサリン様は光の妖精と契約をした。
光の妖精との契約によってキャサリン様は神聖魔法を行使出来るようになる。神聖魔法は四大属性を使った魔法よりも絶対的に上。
願えば使えるようになる魔法ではない。皇家にとっても利益しかなく、是非とも神聖魔法を行使できる人を皇后にしたいと思うはず。
そのためこれによって爵位の差が埋められ、キャサリン様の方が有利になる。
フローレンス様とクリスティーナ様が光の妖精と契約を結ぶ可能性も無くはないが、それは確率的に低い。仮に光の妖精では無くて、四大属性の妖精と契約をしたとしてもキャサリン様より優位に立てるかと言われると難しいだろう。
それだけ光の妖精との契約は凄いことなのだ。
「ほぼ互角だとすると……アルバート殿下自身が気になる方、相性が合いそうな方を婚約者にするかもしれませんね。それに、早急にお父様にお伝えしないと。下手するとバランスが崩れかねません」
いつにも増して真剣な表情のエレン様の言葉に頷く。
婚約者に関しては別にどうなってもいいけど、これは帝国の勢力図が変わるかもしれない。
神聖魔法は女神様が行使する魔法に似ていると言われている。語弊がありすぎるが行使できる人間は〝聖女〟と似たようなものだ。
派閥に一人いるだけで、勢力図が変わる。そうなると均等だった勢力バランスが崩壊し、内政が荒れてしまうかもしれない。それだけは何としても避けないといけない。
もし荒れた場合、公爵であるお父様は切り札を出すと思うけど。
魔力測定の後、皇家から箝口令が出たことによって私の魔力量はほかの者に明かされていない。それによって学園卒業後魔法省に入り、筆頭魔術師であるウィザ様の下に就くことは誰も知らない。
筆頭魔術師の下に就くことは即ち筆頭魔術師候補ということであり、光の妖精と契約を結ぶことと同じくらい影響を与える。それ故に仮に内政がこの件で荒れてしまってもその切り札を出せば大きなバランス崩壊は免れて、荒れることは無いはず……。
まぁそうならないのが一番いいけど……。
「リーリー心配しなくていいよ? リーリーも凄いよ?」
私が眉間に皺を寄せていたからなのかアリアは、ぶんぶん飛び回りながら褒めてくれる。
「ふふありがとう」
「アリアもルクスみたいに魔法使えるからね?」
「そうね。その内にアリアの魔法見てみたいわ」
「うん! その時は任せて!」
「楽しみにしているね」
アリアに向かって笑うとアリアはそのままエレン様の頭に乗っていたアーネの元に飛んでいった。
◇◇◇
「ふぅ。これでみんな召喚は終わったかな? 今年のアクィラは例年に増しても妖精との契約が多くて優秀ですね。しかも、光の妖精との契約も。本当に素晴らしいです」
ヘレナ先生は生徒全員を見渡して拍手をする。
あの後も数人妖精を召喚していた。その中にはアルバート殿下とアイリーン様、クリスティーナ様、フローレンス様も入っていた。
つまり、婚約者候補者は皆さん妖精と契約を結んだことになる。一人だけ上位精霊では無い精霊を召喚してしまって、勢力図や関係性が今と変わるよりはいいかもしれないけど、これは少しめんどくさい。
キャサリン様は光の妖精を召喚したことによって先程からずっとにこにこと笑っていて、逆にクリスティーナ様とフローレンス様はいくらか顔色が暗い。
「それでは教室に戻りましょう。契約した精霊達を連れて来てくださいね」
ぞろぞろと生徒がパレスホールから渡り廊下を渡ってホームルーム教室がある学園の本校舎へと移動する。
私も移動するために飛んでいってしまったアリアを探す。アリアは確かアーネの所にいるはず……。チラリとエレン様の傍に居るアーネを見るとアリアはいなかった。
「アリアを知らない?」
「んー? 知らないなぁさっきまではここにいたけど」
飛んでいたアーネに話しかけると、彼女は首を横に振った。
「リーティアさん契約した精霊が見つからないのですか?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、ヘレナ先生が尋ねてきた。
「そうなんです。どこかに行ってしまったようで……」
「大丈夫ですよ。そういう時は魔法を使えばいいのですから」
「魔法?」
「召喚魔法と魔力を込めて唱えれば契約した精霊は現れます。ほらね」
にっこりと笑いながらヘレナ先生が唱えると、先生の手のひらには一匹のリスが現れたのだった。
中央にはとても大きく複雑な魔法陣が描かれていて、そのまわりを取り囲むように新入生である私達が立っている。
「はい。それでは呼ばれた人からこの魔法陣の中に入って魔力を少量注いでね。まずは────」
雨の心地いい音に耳をすましているとヘレナ先生は早速精霊召喚の為に一人ずつ魔法陣の中へ呼ぶ。
その様子を見ていると、最初の令嬢は水属性の精霊を出現させたようだ。精霊は見えないけど周りに少し水が跳ねている。
「ルリアさんその子と会話は出来る?」
「会話ですか? 一応何を言っているのかは分かりますが……」
「ふーむ。それでは中級精霊ね。その子に名前を付けてあげて。そうすれば契約を結べるから」
ヘレナ先生がそう言うと、恐らく肩に乗っかっている精霊に令嬢は名前を付けた。
成程、自分が思っていたよりも簡単に召喚できて契約を結べるようで安堵する。
精霊は契約者と意思疎通ができ、特定の動物等の姿をしている子ほど上位の精霊で、火・水・風・土・そして光の属性がある。
最初の四つの属性は四大属性と言われ、その上位互換のような形で光属性と神聖魔法が存在する。
魔力を保持してさえいれば得意不得意属性があるものの、誰でも四大属性の魔法を行使できる。が、その上にある光属性は光属性の精霊と契約しないと行使できなく、光の精霊は滅多に召喚で現れない。
加えて光属性に一部含まれる神聖魔法を使えるのは、神殿の神官達と光の精霊と契約した人のみ。詠唱の言葉も四大属性魔法とは少し違う。
「リーティア様、呼ばれてますよ?」
「あっ! 教えてくれてありがとうございます」
隣にいたアイリーン様に教えられて急いで魔法陣の中に入る。
「それでは、リーティアさんその中心に魔力を注いでね」
「はい。ヘレナ先生」
指定された所で膝をついて手をかざす。
一瞬魔力測定の時のようなことが起こるか不安だったが、先に召喚した人達と同じように光り輝く魔法陣。特別な変化は無い。
どんな子かしら? 動物? 小人? 仲良くしたいな。
今か今かと精霊を待つ。
「ふわぁ~んん? ここは?」
魔法陣の光が収束する頃、私の目の前に出現したのは眠たげに瞼を擦り、羽をパタパタとしている妖精だった。
「かっ可愛い!」
思わず声に出してしまった。だってこんな可愛くて小さくて、まるで御伽噺に出てくるような妖精が私の目の前にいるのだ。興奮しない方がおかしい。
「なぁに? わたしを召喚したのはお姉ちゃん?」
私の声に反応して、召喚した妖精は私に近づいてきて鼻の先で止まった。
「そうよ。私よ」
「んー! お姉ちゃんなら私契約してもいいよー。お姉ちゃんの名前は?」
にっこり笑う妖精。そのまま空中でくるりんと一回転する。
「リーティアよ」
「じゃあリーリーね! リーリー、わたしに名前を付けて? 出来ればあなたの名前入れて欲しいなー!」
えっ私の名前も? 名前……どんな名前がいいかな。この子は見た目が青っぽいから水の妖精?
「そうね……アリアなんてどうかしら?」
この世界で水の単語はアクア。そこに、私のリを真ん中に入れたらアリア。
「それがいい! 私アリアね!!! アリア、リーリーのこと好き!」
彼女が私の名付けた名前を発すると輪になった魔法文字が右手首に刻まれた。
これはちゃんと契約ができた証。精霊と契約を結んだ者には、皆右手に意図的に魔力を込めないと発現しない魔法文字で書かれた精霊の名前が刻まれる。
私はまだ魔法文字を読むことは出来ないけれど、ここに私が付けた名前、『アリア』が刻まれているのかと思うととても嬉しい。
それにチュッと頬にキスをしてくれるアリア。出会って間もないのにこんなに親しくしてくれるのは嬉しいけど……どうしてかしら?
「ちょ──っと待ってください。リーティアさん。そこに精霊がいるんですか?」
「ヘレナ先生? ここに居ますよ」
困惑気味なヘレナ先生。アリアは私の肩にちょこんと乗っているので肩を指さす。
「何も見えないですね」
「あー。アリア、リーリー以外の人に見えないようになってるんだった。リーリー、見えるようにした方がいい?」
「うん。見えるようにしてくれると嬉しい」
「わかったー! はいっ」
アリアにお願いするとすぐに見えるようにしてくれたようでヘレナ先生が感嘆の声を上げた。
「わぁリーティアさん凄いです。妖精を召喚したのですね。そして先程の会話から既に名付けました?」
「えぇアリアです」
「アリアですか。いい名前ですね」
「ありがとうございます」
そう伝えながら魔法陣の中から外へ移動する。
「ヘレナ先生、アリアはどのような精霊ですか?」
他の人たちの精霊は上位精霊半分、中位精霊半分。妖精の精霊数人だった。
「そうですね。妖精ですので上位精霊です。あと分かるのは水の妖精ですね。それ以外は資料が足りないので言えることがないのですけど」
申し訳なさそうにヘレナ先生は言ったけど、資料がないなら仕方がない。私も妖精に関しての書物は読んだことはあるけどあまり詳細な情報はなかった。
興味深いことがあるとすれば、ここ百年位は妖精と契約する人間が増えていることと、保持している魔力が多ければ多い程召喚の際に妖精が出てくる可能性が高い。ということ。
くるくるとまだ辺りを回っているアリアは私の予想通り水の妖精。水の妖精は清らかな場所が好きだと書物に書かれていたので、時間が出来たら綺麗な水場に連れて行ってあげよう。
「わぁリーティア様も妖精ですか? 私も風の妖精でしたの!」
先に召喚を終わらせていたエレン様がこちらに近づいてくる。肩にはアリアと同じ身長くらいの妖精が座っていた。
「エレン様も妖精ですか! 何て名付けたのですか?」
「アーネです」
アーネ。きっと風の単語から取ってきたのだろう。私と同じ考えのようで思わず口元が綻んでしまう。
「もしや、風の単語から取りました? 奇遇ですね私も水の単語から取ったのですよ」
「それでは、リーティア様の肩に乗っている精霊さんはアクアですか」
「いいえ。何故かこの子は私の名前を入れて欲しいと言われたので『リ』を入れてアリアです」
撫でてと擦り寄ってきたアリアの頭を撫でながら答えると、羨ましそうにエレン様は見てきた。
「私も入れればよかったです……」
「えっアーネは嫌よ」
肩に乗っていたアーネは少し仰け反り、羽を伸ばして宙に浮き始めた。
「ひっ酷いですよ!」
「うーん。だってねぇ?」
くすくすとからかうようにエレン様の周りを飛び回るアーネは愉快気だ。
これは完全にエレン様、アーネにからかわれている。
ちょこっとだけエレン様に同情する。
ひらひらと軽やかに飛ぶアーネと、悔しそうにアーネを捕まえようとしているエレン様の攻防を笑いながら見ていると、いきなりパレスホール全体が光に包まれ、眩しさから反射的に目を瞑ってしまう。
「なっ何!?」
魔法陣に魔力を注ぐだけならこんなに光ることは無いはず……。何か想定外のことが起こったのかしら?
目を開けても大丈夫なくらいに光が収まってから魔法陣の方に目を向ける。
「────あれは光の妖精?」
先に召喚を終えて、精霊が見えるようになった誰かがポツリと呟き、静まり返った室内に異様に響く。
そこにはサラサラとした金の髪に翡翠色の瞳を持ち、アリアと同じ透明な羽が生えた妖精がひとりの令嬢の手の中に収まっていた。
「わあ! キャサリンさん、素晴らしいです。これは……光の妖精! 光属性の精霊を召喚するだけでもとても珍しいのに、その精霊が妖精なのはここ五十年なかったことですよ!!!」
ヘレナ先生は興奮しているようで一気にまくし立てた。
その言葉にポカンとしていたキャサリン様は段々状況を把握してきたようで、満面の笑みを浮かべた。
「貴方の名前は?」
凛とした尊厳のある声を光の妖精は発する。
「キャサリン・マーリックです」
「そうキャサリン。私に名前を」
「……ルクスはどうでしょうか?」
「……ルクス……そうね。私はルクス」
長いまつ毛に縁どられた瞼を一旦閉じて、光の妖精は自分自身に言い聞かせるようにキャサリン様が名付けた名前を繰り返す。
周りの人は一言も声を発さず見ている。
「よろしくキャサリン」
ルクスがちょこんとキャサリンの肩に乗った所で辺りはざわめき始める。
好奇心、嫉視、疑念、羨望。
様々な視線がキャサリン様に注がれる。
「これは……分からなくなってきましたね。複雑になる……」
「そう……ですね……」
エレン様は私と同じことを考えているようだ。
アルバート殿下の婚約者候補者として名を連ねているのは六人。その内私とエレン様、アイリーン様は除外して残りは三人。
爵位的にフローレンス様かクリスティーナ様が婚約者になるだろうと思っていた。が、ここに来てキャサリン様は光の妖精と契約をした。
光の妖精との契約によってキャサリン様は神聖魔法を行使出来るようになる。神聖魔法は四大属性を使った魔法よりも絶対的に上。
願えば使えるようになる魔法ではない。皇家にとっても利益しかなく、是非とも神聖魔法を行使できる人を皇后にしたいと思うはず。
そのためこれによって爵位の差が埋められ、キャサリン様の方が有利になる。
フローレンス様とクリスティーナ様が光の妖精と契約を結ぶ可能性も無くはないが、それは確率的に低い。仮に光の妖精では無くて、四大属性の妖精と契約をしたとしてもキャサリン様より優位に立てるかと言われると難しいだろう。
それだけ光の妖精との契約は凄いことなのだ。
「ほぼ互角だとすると……アルバート殿下自身が気になる方、相性が合いそうな方を婚約者にするかもしれませんね。それに、早急にお父様にお伝えしないと。下手するとバランスが崩れかねません」
いつにも増して真剣な表情のエレン様の言葉に頷く。
婚約者に関しては別にどうなってもいいけど、これは帝国の勢力図が変わるかもしれない。
神聖魔法は女神様が行使する魔法に似ていると言われている。語弊がありすぎるが行使できる人間は〝聖女〟と似たようなものだ。
派閥に一人いるだけで、勢力図が変わる。そうなると均等だった勢力バランスが崩壊し、内政が荒れてしまうかもしれない。それだけは何としても避けないといけない。
もし荒れた場合、公爵であるお父様は切り札を出すと思うけど。
魔力測定の後、皇家から箝口令が出たことによって私の魔力量はほかの者に明かされていない。それによって学園卒業後魔法省に入り、筆頭魔術師であるウィザ様の下に就くことは誰も知らない。
筆頭魔術師の下に就くことは即ち筆頭魔術師候補ということであり、光の妖精と契約を結ぶことと同じくらい影響を与える。それ故に仮に内政がこの件で荒れてしまってもその切り札を出せば大きなバランス崩壊は免れて、荒れることは無いはず……。
まぁそうならないのが一番いいけど……。
「リーリー心配しなくていいよ? リーリーも凄いよ?」
私が眉間に皺を寄せていたからなのかアリアは、ぶんぶん飛び回りながら褒めてくれる。
「ふふありがとう」
「アリアもルクスみたいに魔法使えるからね?」
「そうね。その内にアリアの魔法見てみたいわ」
「うん! その時は任せて!」
「楽しみにしているね」
アリアに向かって笑うとアリアはそのままエレン様の頭に乗っていたアーネの元に飛んでいった。
◇◇◇
「ふぅ。これでみんな召喚は終わったかな? 今年のアクィラは例年に増しても妖精との契約が多くて優秀ですね。しかも、光の妖精との契約も。本当に素晴らしいです」
ヘレナ先生は生徒全員を見渡して拍手をする。
あの後も数人妖精を召喚していた。その中にはアルバート殿下とアイリーン様、クリスティーナ様、フローレンス様も入っていた。
つまり、婚約者候補者は皆さん妖精と契約を結んだことになる。一人だけ上位精霊では無い精霊を召喚してしまって、勢力図や関係性が今と変わるよりはいいかもしれないけど、これは少しめんどくさい。
キャサリン様は光の妖精を召喚したことによって先程からずっとにこにこと笑っていて、逆にクリスティーナ様とフローレンス様はいくらか顔色が暗い。
「それでは教室に戻りましょう。契約した精霊達を連れて来てくださいね」
ぞろぞろと生徒がパレスホールから渡り廊下を渡ってホームルーム教室がある学園の本校舎へと移動する。
私も移動するために飛んでいってしまったアリアを探す。アリアは確かアーネの所にいるはず……。チラリとエレン様の傍に居るアーネを見るとアリアはいなかった。
「アリアを知らない?」
「んー? 知らないなぁさっきまではここにいたけど」
飛んでいたアーネに話しかけると、彼女は首を横に振った。
「リーティアさん契約した精霊が見つからないのですか?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、ヘレナ先生が尋ねてきた。
「そうなんです。どこかに行ってしまったようで……」
「大丈夫ですよ。そういう時は魔法を使えばいいのですから」
「魔法?」
「召喚魔法と魔力を込めて唱えれば契約した精霊は現れます。ほらね」
にっこりと笑いながらヘレナ先生が唱えると、先生の手のひらには一匹のリスが現れたのだった。
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